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第5話 クールな場所を使ってはじめる猫でもハナちゃんでもできる悪魔召喚術

 悪役令嬢ハナちゃん十四歳は、描き写すのが難しい魔法陣を所望し、開いた本へ両手をかけた。


 ビリ……。


「ハナ、いま紙を破らなかったか」


 耳の良いお兄様は悪役令嬢の悪事を察知し、大分離れたベッドの上からクールな声をかけた。

 しかし説教という言葉で彼女を脅迫した彼に、幼稚園児のスピリットをその身に宿す悪役令嬢ハナちゃん十四歳が返事をすることはない。



 その儀式は、幼児に似た肉体も持つ彼女が隠れるのにぴったりな、洒落たバーカウンターの裏で始まった。


 まずはどういうわけか一部が欠けた魔法陣を床に置き、その上にイケニエを置く。


 次いで、もこもこしたそれの前にグラスを設置し、良く冷えたイチゴ牛乳を注ぎ、注ぎすぎ、溢れ、部屋の持ち主が使用していると思しき黒いエプロンに着目し、拝借し、ひとまず問題が起こった部分に被せる。

 

 そうして物理的に盛り上がってきたところで、パパの仕事部屋で発見した小さな袋から箱を取り出し、悪女というより悪ガキといった手付きでシュル……とリボンをほどいた。

 このように、パパが愛する者の機嫌をなおすために購入した美しい妻への贈り物は、妻の色っぽい首につけられることなく、悪役令嬢ハナちゃんの手によってイチゴ牛乳をつけられ、しまいに綿が詰まったイケニエの猫耳に飾られたのである。



 恐ろしい召喚術で悪魔を呼び出す準備は、彼女のクールなお兄様がクソガキ的な悪事を察知しベッドから起き上がり片付けにくる前に整った。


 人為的ミスにより一部が欠け、クールな布でさらに別の一部も隠された魔法陣へ、現場の中心にいる悪役令嬢ハナちゃんが、ついに、微々たる魔力を注ぐ――。

 が、どういうわけかジュースを零したせいか問題の箇所にエプロンをかぶせているせいかイケニエに綿が詰まっているせいか何も起こらない。

 ハナちゃんは薄ピンク色のグラスを見つめ、ハッとした。


(血……!)


 そして、血がどうこう以前の問題であることに気付かぬ悪役令嬢ちゃんは、透明な大袋の中にたくさん入っているお徳用の鋭利なショートソードをつかむため、震える手を伸ばし、フィルム素材をガサガサしていたところで、なんとポリプロピレン的な大袋のほうで手を切るというとんでもない失態を犯してしまったのだ。


 痛みに強そうなお兄様を斬りつけるショートソードを取り出している最中に、予期せぬ事故に遭ってしまった彼女は、死を覚悟した人間のような表情で、皮膚の表面がうっすら切れた部分を押さえた。


 かくして、幼児よりも痛みに弱い悪役令嬢ハナちゃん十四歳の猫のような瞳から、幸か不幸か、血液のかわりに使えそうな涙が大量に、零れ落ちてしまったのである。

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