第47話 悪役令嬢陣営集結。ヒロイン爆走中。
遺跡の管理者はそう言うと、すぐに彼らを別室へと飛ばした。
妙にダークな色合いの応接間らしき場所に。
そしてそこは、堅物教師が茶を飲んでいる部屋でもあった。
遺跡内の悪役令嬢陣営がほぼ全員揃った瞬間である。
ハナにゃんの味方といって差し支えない大悪魔様は鳥かごの医務室で引き続き、『溜まっている質問』について熟考中、振り出しに戻されたヒロインは爆走中だ。
彼がここにいることを知らなかったサクラが、一般的な疑問を投げかける。
ハナの授業をしていたのだから、ハナのいる場所にいるのはわかるが。
「御剣アヤメ? なんでここに?」
そして何故、何をするでもなく紅茶を飲んでいるのか。まさか大悪魔と友人関係を――。
彼の疑問に答えたのは本人ではなく、部屋の隅にいた大悪魔の補佐役だった。
「彼は『遺跡の管理者』に報告へ参られたのです」
スゥ――と音もなく彼らへ近付き説明を始める。
何故か管理者の名前を呼ばずに。
「『遺跡の管理者』は彼とのお話合いの最中に、突然席を立たれ――」
と話し始めてすぐ、不自然に言葉を切った。
視線がシオンの胸元、ブレザーへ向いている。物凄い目力で。まさに『凝視』といった風に。
気付いたカナデがブレザーから出ている鼻先をスッと隠す。
いかにも俺様な口調で、補佐役の悪魔に注意する。
「見過ぎだ」
ご令嬢への態度としても、彼の婚約者への態度としても不適切だ。
猫の姿だからといって礼儀を欠いていいわけではない。
彼はそう思っているが、補佐役は猫がご令嬢であることも、カナデの婚約者であることも、何も知らなかった。要は、ブレザーから顔を出している可愛い猫を凝視するのはそこまでおかしなことではない。
本人は、自身の言動がいつもと違うことに気付いていなかった。無論、その理由も。
原因は言うまでもなく、さきほどの一件である。
サクラが人間姿のハナを押し倒したりいかがわしい行為をしていた(誤解であり、そういう事実はない)あの衝撃的な光景は、意外と心が広い彼の『許容できるライン』を大きく超えていたのだ。
――視界に入れても入れなくても突然殴りたくなるほどに。
そのため彼は『男がハナに近付くだけで不快になる』という、千代鶴シオンと良く似た症状に陥ってしまっていた。
だが猫の鼻先に魅入っていた補佐役は、カナデの眉間に寄った深い皺に気付いていないらしい。まるでとんでもないものを見つけてしまったかのように「そんなばかな……」「なんと、か弱そうな……」「ぷるぷる震えているだと…?」と小声で妙な発言を繰り返している。
悪役令嬢ハナにゃんのお耳がピクリと動く。そして当然、失礼な男を始末するべく美声を響かせた。
「お兄にゃーん」
補佐役の悪魔は叫んだ。
「まさに理想の具現化……!!」と。
因みに彼のではなく、『遺跡の管理者様で大悪魔様』の理想の生き物である。




