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第44話 鬼神降臨。もめる男たち。

 派手に入室した二人が目にしたのは、ハナを脅威から護りつつも、猫と悪魔のずれた行動に疲れたサクラと、機嫌の悪い子猫を甘やかしてあやそうとする悪魔だった。

 

 つまり、ベッドに座る超美少女猫耳悪役令嬢ちゃんを背後から抱き締め、片方の手首を拘束し、首元に顔を(うず)めている(ように見える)最高に卑猥(ひわい)なサクラと、超美少女の首にいやらしくシルクのリボンを巻いている(実際に巻いているがいやらしくはない)悪魔を、頭に血が上っている状態で見てしまったのである。


 そのうえ無理やり人間の姿に変えられた猫が、助けを求めて悲鳴を上げたのだ。


 ――(ちな)みに、人間に戻ったのは泉の神聖な力に直接ふれたせいで、彼女のもとの姿は『猫っぽい人間』であり、猫っぽい人間を超えてぬいぐるみっぽい猫になったのは召喚術に失敗し呪われたせいであるが、彼らは視界に飛び込む衝撃映像のせいで錯乱していた。悲鳴は彼らが扉を蹴破(けやぶ)った時に鳴った轟音(ごうおん)のせいである。


 デザインに少々問題のある『悪魔的なガーゴイル像に囲まれた巨大鳥かご医務室』の中へ、過激な思想を持った男達が足を踏み入れる。

 フッ――と瞬間移動でもしたかのように。キィ――と不気味な音を立てながら。


 殺気を向けられたサクラがハナの首元から怠そうに顔を上げる。


(まぁ、客観的に見たら今から――って場面か。ぜんぜん違うけど)


 サクラは卑猥な言葉を思い浮かべつつ、ハナから離れた。

『誤解。聞きたいなら説明するけど』などと言えば、さらにブチ切れるに違いない。


『何の説明をするつもりだ――』と。


 一般的に、こういう場面で使われるのは攻撃系の魔法だ。呪術は手間がかかる。はじめから仕込んでいるなら別だが。

 サクラは当然結界を張ろうとした。

 しかし、大事な猫のいるベッドに魔法を撃ちこむほど冷静さを欠いてはいないらしい。


 誤解だと気付いたのか。彼らが取り乱すようなことなど何もないのだから、当然と言えば当然だ。

 などと気を抜いている場合ではなかった。


 カナデは悪魔へ拳を放ち、シオンはサクラへ拳を放った。


 驚愕したサクラはバキィッ!! と強化された拳を強化した腕で防ぎつつ叫んだ。


「二人ともイカレすぎでしょ!」



 人間三、悪魔一、というより、人間一、悪魔一、イカレた鬼神二の戦いは、はじまってすぐに幕を下ろした。


「お兄にゃーん、お兄にゃーん」


 目の前にいるのに抱っこをしないなど何事か、と言わんばかりに猫が鳴きだしたからである。

 正真正銘の猫が。


「戻ったのか――」

 

 鬼神からクールな男に戻ったお兄様(シオン)は、即座に(いもうと)を抱き上げた。

「お兄にゃーん……」と彼の胸元におでこを擦り付ける可愛らしい猫を、カナデとサクラがじっと見る。


 サクラは強化しても痺れが残る腕を嫌そうに撫でながら尋ねた。


「戻ったって、まさかもともと猫なの? それ呪いでしょ?」


 それなりに長い時間抱いていた――といえば語弊があるが、背後から腕を回していたせいか、彼女の聖なる力を身に受けたおかげか、悪魔の痕跡のようなものは感じ取れた。

 彼女が持つ聖属性の力とは似ても似つかない、どこか隠微(いんび)な(というのも語弊がある)気配を。

 しかし、悪魔からかけられた呪いなど目にする機会はない。

 解呪などできないし、気のせいと言われればそれまでだ。


 本音をいえば、どちらでもいい。

 ハナが猫でも人間でも。それが本人の望むことであれば。


『呪いを解きたい』と彼女が願うなら、いくらでも協力しよう。


 とはいえ、彼女にかけられたのはどのような呪いなのか。それが判らなければどうにもならない。

 彼自身が調べるならばいくつかの方法が頭に浮かぶが、先程の様子からすると、提案している途中で、桔梗院(キキョウイン)カナデと千代鶴(チヨヅル)シオンに殺されるに違いない。


『じゃあアンタらがやったら』などと言っても同じことになるのは想像がつく。

 背後から腕を回していた程度で『アレ』なのだ。口に出すべきではない。


 サクラが(ハナ)の兄からの回答を待っていると、クールな男が視線を向けてきた。


「睨まれるようなことは一切してないから。怪我の治療をしてもらって、妙な気配に気付いただけ」


 ほら、と治った腕を見せる。

 シオンは『そうか』と言わず、口の動きだけで伝えてきた。


『妙なことを考えたら殺す』と。


「はは、シオンくんならホントにやりそう」


 笑っている間に、悪魔が近付いてくる。イカレた男との戦いを若干楽しんでいた男が。

 スッとシオンに手の平を見せる。『猫を寄越せ』と。


 それまで黙っていたカナデが、遺跡の管理者へ視線を向け、静かに尋ねる。

 

「解けるのか――?」


 その問いには、すでに答えを知っているかのような響きが含まれていた。

 出来ないだろうと。

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