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第39話 神秘的な泉でご休憩中の麗しき兄妹。只者ではないヒロイン。

 カナデは微かに眉根を寄せた。


 偶然か――?


 喉が渇いたと言ったハナ。泉へ連れて行くと決めたのはシオンだ。猫が自分で決めたわけではない。

 (ハナ)の散歩に丁度いい道を選んでいたのはシオンと御剣(ミツルギ)アヤメだ。大半がシオンで一部がアヤメだが、取捨選択というより赤子に優しい敵について語っていただけで、奴の意見でどこかに誘導されたと断じるほどの影響はなかった。

 万が一、こちら側の状況が向こうに伝わっていたとしても、不審者の行動におかしな点があれば伝わるだろう。


 視線で続きを促せば、泉へ向かった理由らしきものが明らかになった。 


「――胡蝶(コチョウ)サクラ様の怪我を治療する場所を遺跡で探すと」


 馬鹿馬鹿しい。思わず(わら)ってしまう。

 そのうえサクラの問いに不明朗な答えをよこしたと。

 本当に男の心配をしているなら医務室にでも行くはずだ。


 女生徒の怪しい言動はまだまだあるらしい。それなりに長い報告を終えたボディーガードへ、泉への到着を遅らせるよう指示を出す。

 (ハナ)の水分補給だけなら二時間もあれば十分だろう。



「お兄にゃーん。お水のにおいですにゃーん」


「身を乗り出すんじゃない。危ないだろう」



 その部屋には、彫刻が施された柱が並び、中央に美しい乙女の像が置かれていた。

 像の持つ水瓶からチョロチョロと水が流れ、その姿は、今にも枯れそうな泉を憂いているようにも見えた。

 大聖堂のように高い天井。最頂部の小さな丸窓。悲し気な乙女の像に温もりを与えんと、ひと筋の光が射す。


 だが、猫のような生き物、悪役令嬢ハナにゃんがそんな小さなことを気にするはずもない。


「お兄にゃーん。光るお水ですにゃーん」


「待ちなさい。丁度いい物がある」


 お兄様(シオン)はそう言って、黒ずくめの男から銀製のゴブレットを受け取った。

 それは(ハナ)が宝箱から得た戦利品のひとつだった。裏返すと、プレートの部分に何故か肉球のマーク。兄妹ともに気に入った一品である。


 猫を抱えたイケメンが、跪き、神秘の水を汲む。

 一人と一匹の美しい銀髪が泉の輝きに照らされ、静謐(せいひつ)な青へと変化した。


 お兄様(シオン)が毒見のように口を付け、悪役令嬢が「お兄にゃーん」と猫手をのばす。


「――味に異常はない。肉体的な変化も」

 

 疲労や怪我があるなら、一口で回復するだろう。

 

 そうして彼の手が、麗しい(ハナ)の愛らしい猫口に、そっとゴブレットを――。



 ――ドォン――! 


 鈍い爆発音。石材がガラガラと崩落する。


 大きな猫目を限界まで開いたハナ。光る水が鼻先を濡らす。

 可哀相な妹を結界で覆ったシオンは、土煙へクールな視線を向け、カナデ達のほうへクールに移動した。


「や、やっとついた……! 胡蝶(コチョウ)くん! ここです……!」


 そこで、一つしかないはずの通路――ではなく柱の裏側から、神秘的な空間を物理的に破壊した馬鹿者の声が響いた。騒音を嫌うサクラを大声で呼びながら。


「あ、あれ? 胡蝶(コチョウ)くん? ……胡蝶くーん!」


胡蝶(コチョウ)くん』はついてきていないようだ。

 不審者がさらに叫ぶ。


 腕組みをしたカナデがボディーガードへ視線を向ける。

 彼らの仕事を疑っている訳ではない。自分も知らぬ道だ。『足止めが無理なら息の根を止めろ』と言わなかったカナデの落ち度だろう。

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