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第3話 クールなお兄様と、幼児よりも手のかかる悪役令嬢ハナちゃん十四歳

 中身も外身も成長しない可愛い妹十四歳。

 優秀な彼は幼い妹を膝にのせ、〈乙女ゲーム〉なるものを攻略していった。


 乙女ゲームといえばヒロイン。ヒロインといえば――作品によっていたりいなかったりする――悪役令嬢。


 そうしてついに、悪役令嬢ちゃんは見てしまったのだ。

 優秀すぎるお兄様の操る〝最強ヒロイン〟によってこてんぱんにされた〝実は中ボスどまりだった悪役令嬢〟を。

 悪役令嬢ハナちゃんは、幼い子供のようにギャン泣きした。


(幼児に見せるには刺激が強かっただろうか)


 お兄様は育児に悩む親のように、手のかかる可愛い妹十四歳をクールにあやした。


 可愛いお手々で急遽始められる荷造り。枕とぬいぐるみがランドリーバスケットへ入れられる。

 悪役令嬢ハナちゃんは、一人で寝るのが怖くなったのだ。

 しかし〝パパとママの寝室へ引っ越す〟という彼女の奇策は、なにがしかの災難を予期したお兄様に止められた。


「また説教をされたいのか」と。



 また――、それは数日前のこと。

 勉強を厭う彼女につけられた家庭教師が、ソファに座ったまま、ハナちゃんのそばで、一冊の書物へ手を伸ばしたのがはじまりであった。


 書物のなかでもとくにハナちゃんが嫌いなもの――教科書を開こうとしてしまった家庭教師。

 その二の腕の贅肉(ぜいにく)が、突如、彼女のお手々によって激しく揺さぶられたのだ。これぞ悪役令嬢という勢いで。

 

 静まり返った部屋をあとにする犯人。

 たたた――。最高速の三輪車ていどのスピードで逃走し、セーフティーゾーンである両親の寝室にその身を隠す。

 難を逃れた悪役令嬢ちゃん。持て余した自由と暇。遊び道具をもとめて室内をごそごそあさり――やがて、一つの箱を発見する。


 個包装された風船をたくさん入手した彼女は、その見た目通り子供らしく、お水を入れて遊んだり、ママの美容液を入れて遊んだり、落として零したり、ベッドに並べて乾かしたりと、他にもあれやこれやと近隣の悪ガキよりもタチの悪いことをしたあげく、最終的に、遊び終えてくたくたになったそれらを、箱ごと玄関に安置した。


 第一発見者は、お仕事から帰ってきたパパ、後ろに佇む秘書、お出迎えをしようとリビングから玄関までゆったりと移動してきたママ、ママのショールを腕にかけ、あとに続いていた家政婦長、外出しようとしたタイミングがたまたま悪かったクールなお兄様の五人である。


 それは、普段は冷静沈着なパパが眩暈を起こすほど、凶悪な事件であった。

 

 超絶美人で淑やかで、滅多に怒ることのない優しいママは、クソガキな悪役令嬢ちゃんを叱らず、すべての感情をパパへと向けた。



 仲良し夫婦の仲をずたずたにしかけた恐ろしい事件。

『ハ』のつく容疑者は、クールなお兄様の手ですぐに捕らえられた。


 そうして彼は、カマをかけるなどの卑怯な手を使うことなく、『お前がやったのか?』とかたちだけでも疑問形で尋ねてやることもなく「ハナ、親のベッドで遊ぶな」と、もしも親のベッドの周囲にある怪しげな箱を持ち出したのが現場周辺をウロウロしていた彼女でなければあまりにひどい冷たい言葉でクールに追い詰めたのだ。

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