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第35話 悪役令嬢より悪役らしいイケメン達

 カナデは邪魔者達が消えた道をゆったりと歩いていた。散歩でもするかのように。

 シオンからの連絡はない。ハナに問題は起こっていないようだ。


「カナデ様――」

 

 仕事を終えたボディーガード達が戻ってくる。

 場所は。カナデが尋ねる。入り口から離れたところへ――。黒ずくめの男が答え、紙を手渡す。

 カナデの冷めた目が、簡易的な地図、不審者を捨てた場所を一瞥する。正確には、その中の記号を。

 黒に桜色の点が近付いてゆく。男が桜色、不審者の女が黒だ。


 カナデは歩みを止めず、視線で告げた。続けろと。


「――二人付けました。増やしますか?」


 サクラの戦闘中、女が助けに入ることはなかったらしい。サクラが怪我をしたあとも。

 その力がないのか、そもそも助ける気などなかったのか。

 見分けがつかぬはずの結界に『罠』と言ったのも女だったと。

 自分から巻き込まれにいっているサクラのことはどうでもいい。怪我もわざとに違いない。

 しかし不審者の狙いは(ハナ)

 

 ――猫に会わせる気はないが、手伝いたいというなら手伝わせてやろう。



 カナデの指示により、黒服達はソレをハナたちから離れた場所へと捨てた。

「げふ……きゃっ」

 只者ではないヒロインが、噎せたおじさま的な声と愛らしい悲鳴をこぼす。

 角度を計算し、美しく倒れ込む。


 サクラは黒スーツの男達と入れ代わるように、悠々と歩いてきた。

 適当に怪我の処置をしながら。

 

「きゃー! 血がっ! 大丈夫? 胡蝶(コチョウ)くん……」


「一々騒ぐな」 


「あっ……ごめんなさい……。く、口調が雑になってる……爽やかじゃない……冷たい……かっこいい……」


 男の目は語っていた。鬱陶しいと。薄暗い遺跡の一室。座り込む女を見下ろす。 

 ヒロインは謝罪し、戸惑うフリをした。その際、本音は口を押さえて隠しておく。


「…………」


 男が無言のまま、左手をポケットに入れる。

 灰色の瞳はどうでもよさそうに、女を観察していた。


 ただの女生徒が何故、大財閥の御曹司に目を付けられるのか。それも悪い意味で。


「あ、あの……。怪我してるんですよね……。治せる場所を探しましょう!」


「治せる場所、ね。どこか知ってるの?」


「あ、知らないです……けど、きっとあると思うんです。この学園が用意した遺跡なら」


「へぇ……」


 学園の医務室、ではなく。『遺跡』で探すと。

 サクラはおもちゃを見つけた悪い男のような顔でわらった。


「じゃあ俺は後ろからついて行くから」


 早く立ちなよ。



「お兄にゃーん。こちらにも宝箱ですにゃーん」


「そうか。開けるから待っていなさい」


「猫の望みは叶えたいが、我々の持てる荷物の量は限られている。それに、そこに敵が出てしまった」


 仲良くお散歩中の悪役令嬢達は、実に平和的に過ごしていた。

 幼稚園児とお買い物中の保護者達のように。


 敵――! はじめての敵に、箱入りお嬢様ハナにゃんの背中の毛が逆立つ。

 思わず甘えた鳴き声がもれてしまう。


「にゃーん、にゃーん、お兄にゃーん!」


「何をいっているのか分からない。倒してくれということか」


「なるほど――。学園の生徒であるなら戦闘訓練は欠かせないが、生徒が赤子で猫なら免除されるに違いない」


 彼らは、襲ってはこない親切設計な敵――、牙の生えた巨大コウモリを見つめながら話し合っていた。

 

 ……コツコツ――。硬質な足音が近付いてくる。悪役令嬢の猫耳が動く。

 クールなお兄様と堅物教師の視線が足音の方向、ではなく魅惑の猫耳へ向いた。


 そこで、彼らの背に静かな声がかけられる。つい先程まで、黒幕のようなことをしていたとは思えぬほど落ち着き払った声が。


「シオン。それは倒していいのか」

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