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第17話 真面目な話には興味のない悪役令嬢ハナにゃん十五歳

 その部屋では『実は理事長らしい』という噂のある学園長、『否そう思わせておいて副学園長がすべてを握っているのだ』という噂の人物、学園のあちこちでみかけるせいで『分身できる』という説のある学園長秘書――この学園の運営にたずさわる三人の人間が、悪役令嬢ハナにゃんを待っていた。


『こちらへどうぞ』と言われる前に席に着く、お兄様、彼に抱っこされている猫、もとい呪われし妹ハナにゃん様、婚約者(仮)のカナデ様。

 それぞれ長い脚を組み、クールに妹(猫)をなで、「ハナ」と一応意識を自分に向けさせてから、婚約者(仮)をなで、後者だけ肉球パンチをくらう。


 猫と共に勝手にくつろぐさまは、『自室か』と突っ込まれてもおかしくはない。


 にこにこと愛想のいい笑みを浮かべている学園長が、視線を猫に合わせ、「なんだか大変だったらしいね」と、穏やかな声を掛ける。

 ――年齢不詳の綺麗な顔の男は、二十代の青年のようであり、異様に若い四十代男性のようでもあった。


 だが残念ながら『いやはやほんとうに大変な目に遭いましたよ』『なるほど、まぁ取り合えずお茶でも……』といった、まったりとした雰囲気にはならなかった。


 まとう空気からしてすでに偉そうなカナデ様が、組んだ脚の上、膝のやや手前あたりに、指を緩くからめた手をおき、なつかない猫からゆるりと視線を上げる。


 それからようやく、「随分と素晴らしいセキュリティだな」と、あからさまな皮肉を言い、それとは真逆の、いっそ優しそうにすら見える笑みを返した。

 しかしその瞳は欠片も笑っていなかった。冷徹な眼差しが彼らに尋ねる。


『あいつを入学させたのは誰だ?』と。


「お兄にゃーん」


 そこで突然、真面目な空気も真面目な話も大嫌いな生き物が、鳴き声を上げた。

 悪役令嬢ハナにゃん十五歳が、兄の膝でぐんにゃりと仰向けになり、肉球で男達を示す。


『真面目そうな話をするやつらを全員部屋から追い出してくれ』と。


 クールなお兄様は妹の自由な発想を否定せず、ただ一言「そうか」と返した。


『ここはまだお前の部屋ではない』幼い妹を諭す。

『誰が妹を見ていいと言った』初対面の猫をじろじろ見る男へ、人の妹に喧嘩でも売っているのかと問う。

『全員この部屋からでていけ』妹の願いを叶え、『二度と戻ってくるな』学園長らを追放する。


 たしかに選択肢は無限であり自由である。

 だが彼女のすべてを許容していたら、学園も世界もカナデの部屋のようになってしまう。

『にゃーん』といわれ、即刻断るのではなく、一応検討する様子をみせることが重要なのだ。


 クールなお兄様は「これで遊んでいなさい」とクールに、おもちゃをテーブルへ置いた。

 かの有名な、尾の部分が七色の羽の、小さなネズミ型のそれを。

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