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第11話 それぞれの優しさ。彼との思い出。

「こんなものどこで拾ったんだ……」


 次から次へと些細な攻撃をしかけてくる獣の手をつかむ。隠している武器を奪うか。

 刺されたところでどうなるわけでもないが、この弱そうな生き物は違うだろう。自分の暗器で怪我をしそうだ。


 しかし、彼がそう思ったことがヤツには分かったのか、それとも人間にさわられるのが気に食わないのか、すべりのいい猫の手が、カナデの手からシュポッ! と引き抜かれる。


 そして、子猫のように細くとがった爪が、彼の手のひらを引っかいた。

 

「…………」


 悪役令嬢ハナちゃんは叫んだ。


「お血ぃにゃーん!」


 そして、流血する手の平を見て、確信した。

 やつは死ぬ。


 この男は、しょっちゅう千代鶴家長男の部屋に入りびたり、悪役令嬢ちゃんの活動を邪魔する悪い男だった。

 許さぬ、と思ったことも数え切れない。

 毒を盛ったりはしていないが、『どく』と書いた紫色のコースターでこの男のアイスティーを囲んだことはある。


 ――とはいえ直接手を下そうと思ったことはない。

 まさか、手がかすっただけで血が噴き出るなんて。

 たぶん微風ていどで吹き飛び、ベッドから落ちたら即死する部類の人間なのだろう。


 ではハナちゃんの手が当たっても当たらなくても、きっと今日中には、すれ違ったメイドと肩がぶつかってどうにかなったり、ティーカートでどうにかなったり、何もしていないのにどうにかなったりしていたはずだ。

 誰も悪くない。

 つまり悪役令嬢ハナちゃんがついに人を殺ったというわけではない。


 ハナちゃんは口元にきゅっと力を入れると、悪役令嬢らしからぬ、優し気な猫のような顔で決意した。

 兄の友人の最後を看取ってやろう。


「……妙な目つきだな」


 カナデは怪訝な顔で、己が抱えているぬいぐるみを見た。

 猫のぬいぐるみは、弥勒菩薩みろくぼさつのような表情で、そっと両手を合わせた。「にゃーん……」


「なんだか分らんがやめろ」



 男の手がハナちゃんの方へ伸びる。

 彼女はふわふわのお手々を前に出し、実に悪役令嬢らしく『血の出ている人はちょっと……』のポーズをとった。


 そこで、微かに滲むカナデの血と、悪役令嬢の愛らしい肉球が、ふに、とくっつく。


 するとどうしたことか、彼女の真っ白な被毛と美しく巻かれた髪が、強く輝き始めた。


「今度はなんだ……!」


 眩しさで目を閉じる。

 至近距離で発光するなといいたい。


 だが驚いたのは、ヤツが放つ閃光のせいではなかった。


 バン――!


「うちの妹が来ていないか」


『知るかこの土管野郎! いきなりあけるな!』怒りのままに下品な言葉を吐きかけ、こらえ、ふと気付く。

 手の平から伝わるこの感触は――。

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