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 結果だけを言うとやらされた。

 結構な時間粘っては見たものの、お手上げ。麗奈の嘘に騙された雪兄によって、強制的に上目遣いで「麗奈お姉ちゃん。海行くの楽しみだねっ」と言わされた。


 言わされた。言わされたのに、麗奈は無表情だった。口元をピクリとも動かさず、ただただ人形のようにオレンジがかったひとみで

 特に何か反応を期待した訳では無い。そんなことよりも俺に残ったのは頭から湯気が出そうなくらいの恥ずかしさだけだった。


「んで、結局明日行くのかよ」


 小っ恥ずかしい事をやらされた不服さを少しでも訴えようと、口を尖らせて言った。


 麗奈は無表情のまま、固まっている。

 立ったまま気絶しているようだ。もう勘違いはしない、俺の可愛さにあてられて気絶しているだけ。それでも放って置くのは罰だ。


「おう、可愛い弟が折角誘ってくれたんだ。最近疲れも溜まっていたから丁度いい。リフレッシュして、今まで以上に沢山の人を笑顔にする」


 臨機応変だこと、俺が誘ったら来るんだったらさっきした努力は無駄だったのか。


「おう、たまには休まねえと体を壊したら元も子もないよ」


「ハッハッハ、店を譲られてから3年、未だ1日たりとも休んだことはない」

 

 元気だけが取り柄だからな。と豪快に笑う雪兄。

 この人は確か小中高と皆勤賞だった気がする。なんせ毎年3月頃になると満面の笑みを貼っつけて皆勤賞の表彰状を自慢してきた記憶がある。

 いや、高校の時、1度だけ皆勤賞を逃した年があった。

 姉ちゃんの亡くなった年で、姉ちゃんの葬式の日。それでも1日だけしか休まず、次の日には普通の顔してうちに来ていた。


 あの時俺は部屋に引きこもってたから顔を合わすことは無かった。

 扉の外から聞こえた声は、いつも通りの雪兄の声だった。

 今考えると、自分も泣きたいのを我慢して、俺と姉ちゃんを励まそうとする雪兄の優しさだったのだと思うのだが。

 ガキの時分はその優しさを、ただのお節介としか認識出来なくて、甘える事が出来なかった。


「皆勤賞、逃してもいいのかよ」


 誘った手前、ちょっぴり罪悪感が湧いてきたが、それでも甘えたい気持ちもある。


「他ならぬお前の為だからな。という建前と、案外休む理由も欲しかったのかもしれないぞ?」


「雪兄みたいな人でも休みたくなるんだな」


「そりゃあ俺だって人間だからな。活動し続けたいけど、家族と旅行に行ったりしたい時もだってある。だけども止まり方を知らないだけだ」


「ゆっくりは出来ないかもしれないぞ」


 ちょっぴり抱えた罪悪感を払うように告げた。

 雪兄には俺の苦労の一端を背負ってもらわなければならない。


「ははは、苦労も全部ひっくるめての旅行だろう。悠太が俺を生贄にしようとしてるのも理解してるつもりだが、違ったか?」


「風呂とか……俺1人だと沙織さんとか突撃かましてくるような気がしてさ。雪兄と一緒なら流石にそれも無いだろ?」


「こうやって最初から素直に言えば良いんだよ。俺だってよっぽどの用事じゃなきゃお前の頼みを断ったりしないぞ?」


「素直になれない年頃なんだよ。つーか、察してて黙ってなら酷いじゃん」


「悠太が怒ってる菜月の生贄に俺を差し出したこととかか?」


 俺は分かりやすく顔を引きつらせた。


「そ、そんな事もあったかな。いやー最近忘れっぽいなー。あ、もう門限だ。忘れてたなー。麗奈、帰るぞ」


 大根役者な俺のセリフに苦笑しながら、門限なんてないだろ。と言う雪兄横目に、背伸びをして麗奈のもちもちな頬っぺたをぺちぺちと叩く。

 叩くとは言っても優しく、痛く無い程度の力で。


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