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むしろ、何やってんだこいつ、気持ちわりぃってなるのが必然で、雪兄が固まってるのも恐らくそういうことだろう。
ああ、やってしまった。また俺の歴史書に黒の1ページを増やしてしまった。
この後の反応次第では悶え死ぬ。とは言え麗奈が居なくて良かった。逆に居てくれた方のが可愛いと持て囃してくれただろうか。
時が止まったかのように静止したまま数十秒。固まったままの雪兄と、椅子に座り遅れてやってきた恥ずかしさに足をモジモジくんにさせながら悶える俺。
振り切れたからってやるなよ。勢いだけで。これは戒めとして俺の心に深く刻んでおこう。
「ゆ、雪兄?」
瞬きすらしてないんだぜ?いい加減心配になって来て厨房に踏み入り、肩を揺すろうと手を伸ばす。
「は?」
指先が肩に触れただけで雪兄は固まった時のまま仰向けに倒れた。
「……立ったまま気絶している?」
そう呟いた俺の背後で引き戸が開く音が聞こえた。
後ろを振り向くと、やる気に満ちた表情の千秋の手を握った麗奈が店の入り口に立っていた。
「悠太!結婚しましょう!」
入り口から厨房へと駆け寄ってくるや否や、目の前で気絶している雪兄には目もくれず、千秋は言った。
「これどうすんだよ」
雪兄を指差しながら言ったが、千秋は俺の言葉に耳を貸してはくれず、俺の肩を掴むと無理やり正面に向けた。
数cm先、少し見上げる位置に千秋の顔がある。癪に障るぜ。ちくしょう。
「今は私だけを見てください!それはそのままで大丈夫です!後で片付けておきますので!」
恩人の扱いじゃねえな。雪兄はデリカシーの無いキャラを演じすぎて雑に扱われる変態に成り下がったか。
「そんなことより悠太!私と結婚しましょう!」
俺より4つも歳下の小学生が、力強い声色で俺の手を掴んで婚約を迫ってきやがる。
「おおう、どうしたお前」
麗奈に何を吹き込まれたんだ。
あの状態からどんな魔法をかけられたら、プロポーズするに至る。
「婚約しましょう!将来性抜群ですよ!貧乳時代は今しかないですよ!」
年齢から考えたら発育が良いほうだろ。言葉遣いは丁寧で、痛みも知ってる。麗奈と駆け引きだってできる。今現在黒髪美少女であるこいつが、大人になったらさぞ美人になるだろう。
沙織さんや麗奈を超えるような。
「婚約って、今12歳だろ?後6年もあるんだ。今無理に決める必要もないだろ」
「いいえ!小学生って至高なのですよね!?小中高と私の肉体が女に成長していく過程を楽しみながら大人になった私を……どうです?あ、つまみ食いもありですよ?」
「生々しいわ!俺はロリぺド鬼畜野郎じゃねえ!つーかそんな性欲で物を言うようなのと一緒にすんな!」
「悠太は下半身に脳みそがついてる性欲に塗れたモンスターじゃありません!でも悠太だって男です。だからこれはあくまで特典の1つです」
小学生のお前が男の性を語るな。日本の性教育は一体全体どうなってやがる。
中学生くらいの男なら喉から手が出そうになるほど甘美な特典だな。
どうなんだろ、普通の中学生くらいの男だったらのるものだろうか。小学生と高校生が付き合ってるって聞くと犯罪の香りしかしない。世間がどうかは知らないけど俺はそう思う。
中学生の頃に先輩後輩で付き合ったなら中学生と高校生の恋愛は不自然ではない。
俺とこいつは6歳差。互いに20歳を超えて例えば千秋が22歳だとして俺は28歳。
「それでも、俺はお前の人生を縛るつもりは無い」
やっぱり今婚約を決めてしまうのは千秋にとっても早計だ。




