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それから料理を作って姉ちゃんの帰りを待った。
姉ちゃんが帰ってきたのは6時頃、疲れてへとへとのようだった。
無理もない。仮眠を取ったって言っても車で寝ただけ、しかも不眠気味の姉ちゃんじゃそれほど深い睡眠は取れなかっただろう。
その上徹夜明けでの出社だ。晩飯も終わり、怖い怖い姉ちゃんは涼夏に押し付けてきた。
俺は今営業時間終了後の桜亭の前で突っ立っている。
今回の戦績を報告しに来た。いつもならこんな事はしないけど、今日は何となく。木刀を受け取ったからとかじゃなくて何となくだ。
「ここでは怒られたくねえな」
同じく隣で突っ立っている麗奈に声をかけた。
『菜月怖かったね:( ;´꒳`;)』
「お前がスマホを壊すからだぞ。姉ちゃんのブチギレなんて昔1回見たきりだぞ」
姉ちゃんがあそこまでブチギレるのなんて、葉月姉ちゃんと喧嘩した時以来だ。
あんなにおおらかで優しい姉ちゃんが怒鳴り声を上げて俺達2人を叱りつけた。
スマホが高いからとかそんな理由じゃない。物を大事にしないのは許せない……というごもっともな理由だ。
『菜月みたいな優しい人は怒らせちゃダメだね。でも、元を正すと君が悪いんだよ。君の言葉選びが悪いから(´ー`*)ウンウン』
「スマホを得た途端に水を得た魚みたいだな。くくっ、悪かった。言葉選びに関してはそうだな、反省してる」
麗奈が今使っているスマホは、姉ちゃんが昔使っていた端末を借りてきた。
ネットは繋がっていないが、会話には使える。
『どこまで行っても約束。危険だからとか理由を付けられようと、お姉さんは今更君と離れるなんて考えられないから約束を守ってよ( ・᷅-・᷄ )』
「分かってるよ。俺だってお前と離れたくないんだからさ。あの時は動転してたんだよ。真姫ちゃんは俺ん家の所為で巻き込まれたようなもんだろ」
『違います。殺した人が悪いんですー( *¯ ^¯*)誰を狙ったとかそんなん関係ないよ。逆だったら悠太は私を恨む?殺す?』
「なわけねえだろ」
『なら、巻き込んだから遠ざけようとかしないで。そうならなくていい方法を一緒に考えればいいんだよ。知恵を借りられる人なら沢山いるでしょ。お姉さんよりも賢くて悪どい君ならそれくらい分かりそうな物なのに』
麗奈はやれやれと手を振った。
「悪かったな。意外と頭硬かったかも」
『硬かったかもじゃないよ。君は正真正銘頑固者(*´艸`)ププ』
「そんなにかぁ?」
『そんなにだよ。じゃないとお姉さんは言葉で伝えるのをやめたりしない…(*˘^˘*,,)フン』
やっぱりさっきのキスってそういう事……なんだよな。
『でも、最近の君は考えを改めたんじゃないの?色々と』
「まぁ、な、分かるか?」
『君の変化には敏感だよ。お姉さんは。ずっと一緒にいるんだよ、分からないはずがない』
「流石だな。悠太くん検定一級をさしあげようか?」
『悠太くん検定(*´艸`)他に誰か持ってる人居るの?』
「姉ちゃんたちと涼夏だな」
『お姉さんその3人に並べるんだ\( *°ω°* )/』
姉ちゃんと涼夏とは生まれてから12年。事件が起きるまでよく遊んだけど、その差を埋めるには充分なくらい横に居ただろう。
『君はお姉さんの事どのくらいわかる?(´。✪ω✪。 ` )』
「なんでも……って言いたいところだけど。その、さ」
さっきのキスの件を確かめようとしたその時、桜亭の引き戸がカラカラと音を立てて開かれた。
「そこでイチャイチャしてないで早く中に入って貰っていいですか?お客さんが来なくなっちゃうので」
営業時間終了後に客が来るわけないのに、目を薄くあけ、ジト目の千秋が出てきて言った。
「あ?こんな時間に客が来るわけねえだろ」
「こんな時間に店の前でイチャコラされて噂がたったらどうしてくれるんですかって言ってるんですよ」
そんな目くじらたてて怒ることか?片や失声症、俺だってそんなに大きな声を出していた訳じゃない。




