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自室に戻って、麗奈が選んでくれた服に袖を通す。
機能性を重視してスパッツレギンスに薄い半袖の白いパーカだ。
ふと窓の向こう側へと目を向ける。カーテンが開きっぱなし、電気がつけっぱなしの部屋、小さい頃はよく窓を飛び越えて部屋に侵入してきてたっけ。あいつも。
髪を1本に縛り、木刀を手に持つ。あぁ、どさくさに紛れてバレなかったから大事な手紙は机の引き出しに置いていこう。
バチンと顔を叩いて気合いを入れる。待ってろよ。直ぐに助けてやる。
部屋を出るともう、麗奈が廊下の壁に寄りかかって待っていた。いつもより更に無表情で、オレンジがかった黄色い瞳の奥がユラユラと怒りに燃えているようだ。
麗奈も同じ服装だった。
「行こう」
俺が言うと、麗奈は大きく首を縦に振って答えた。
足早に着替えを済ませた俺たちは姉ちゃんが待つ車に乗り込んだ。
姉ちゃんの車は先日買い換えたばかりで、青いスポーツカーだ。
姉ちゃんがエンジンのキーを回すとけたたましい音を立ててエンジンがかかった。
お淑やかなタイプの姉ちゃんには似合わない車だ。
「じゃあ、行くわよ。って!ええ!」
姉ちゃんが発進しようとアクセルに足をかけた瞬間だ。車の前に人影が現れた。
ライトに照らされて逆光になってはいるが、シルエットでわかる。隣の家の主だ。
やべぇ、蓮連絡入れるの忘れてた。
「れ、蓮さんかーびっくりしたー!」
引いちゃうかと思った。と半ば冗談では済まないことを言っている姉ちゃんを他所に、蓮さんは俺側の窓の横まできて、窓をコンコンと叩いた。
ボタンを押して窓を開ける。
「涼夏に何かあったの?」
普段と同じニコニコした大変お淑やかな笑顔で蓮さんが言った。
「ごめん蓮さん。涼夏と美鈴が拐わたんだ……今から助けに行ってくる」
事実だけを伝えて窓を閉めようとしたら、手で抑えて止められた。
「あらー。じゃあ私も一緒に行くわね」
「いや、蓮さんにもしものことがあっても行けないんで俺達で行ってくるよ」
そう言って何故か運転席側に回ろうとする蓮さんを呼び止めた。
「そうだよ。蓮さんは待っていて、私たちで取り返してくるから」
俺と姉ちゃんが言った瞬間だった。
蓮さんの纏う空気が、朗らか淑女な未亡人から、何か末恐ろしい何かに変わった。
「母親が……一人娘拐われてのんびり待っていられるかっての!!舐めんじゃねぇぞ!」
ドスの効いた低い声を張り上げた。この人誰?いつもの蓮さんじゃない。
鋭く鈍い音と共に車が揺れた。蓮さんが車に蹴りを入れたんだ。
めっちゃビビった。蹴られたドアめっちゃ凹んでるし。
つーかさっきまで抱えてた殺気が吹っ飛んじまったよ。冴えてたのにどうしてくれんだよ。
「あぁ!私の車!」
姉ちゃんが隣で叫ぶが蓮さんはさぞどうでもよさそうな様子で、今度は運転席側に回ると、ドアを開けた。
「菜月!運転変われ!私が乗ってくから!」
こえー!
そういえば見た目で忘れかけてたけどこの人元ヤンだった。しかも母さん曰く葉月姉ちゃんより喧嘩は強いとかって。