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 麗奈は俺の方を振り向かず、写真に視線を向けたまま、手を合わせて目を閉じた。


 数秒の時が立ち、麗奈は目を開き、手を下げると、突然立ち上がり俺の方へと歩いてきた。


 喋れねえけど、絶対にどかねえぞ。エゴだけど傍に居て欲しい。散々麗奈のわがままにも付き合ってきたんだ。絶対に出ていかせない。俺の事が嫌いになってもここにいてもらう。


「……いてっ」

 気合を入れて腕を広げ立ち塞がるが、麗奈に押されて壁にドンとぶつかった。

 麗奈がどんどん近づいてきて、俺を壁に押し付けるように体を寄せてきた。


「……す……き」


 耳元に麗奈の顔が寄せられ、とても小さな声で聞こえてきたかと思うと、顎をクイと持ち上げられて、口付けをされた。


 柔らかい唇の感触、嗅ぎなれた麗奈の髪の香りが俺の肺を満たしていく。

 同じシャンプートリートメントを使ってるはずなのに、なんだっていい匂いがするんだろうか。

 

 麗奈を押し返そうと手で押すが余計に壁に押し付けられ、抵抗できないよう両手を掴まれた。


 舌で唇をこじ開けられ、口内に舌の侵入を許すと、淫靡な雰囲気で舌を絡ませてきた。


 数十秒程キスは続けられた。


「ゅ……ぁ、す、き」


 キスが終わると再度愛を囁き、抱き締められた。

 麗奈の体温と心臓の鼓動が全身から伝わってくる。


「どうして、お前は俺の事、弟か妹くらいにしか見てなかったんじゃ」


 質問を投げかけても、うんともすんとも言ってくれない。スマホを壊して話せないからだ。


「……す、き。ゅーぁ、は?」


 抱きしめを解除して俺の目をまじまじと見つめ聞いてきた。


 好き。悠太は?と言っている。


「俺も好き。だけど麗奈に危険な目に合わせたくないんだよ」


 俺が言うとジト目で見てきてキスで口を塞がれた。


「ん、ぷはっ。でも、ん」


 再び抱き締められ、キスをされ、告白され、問いかけられる。


「な、話の途中だろうが!んむっ」

 麗奈の謎の行動は俺が話を辞めるまで延々と繰り返された。





「出ていくのかと思って怖かった」


 スーツからジャージに着替え終わり、へ寝室に連れていかれたベッドの上で麗奈に向けて言った。


 麗奈は俺の体を抱いて、ずーっと俺を見つめている。


 微かに微笑むだけで、何かを口にしようともしない。


「……ズルいぞ」


 話せないから仕方がない。と開き直り気味の麗奈に俺の壊れかけているスマホを手渡すが、ポイッとベッドの外に投げ捨てられた。

 ガシャっと言う音ににスマホの終わりを感じた。

 昨日壊れなかっただけ良しとしよう。


「……ぉと、ば、はぃら、なぃ」


 言葉はいらない。気持ちは通じあってるから。

 俺としては置いてかれがちで、麗奈に聞きたいことだらけなのに、麗奈の心は満たされているのだろう。

 

 多分何を聞いても答えてはくれない。


「スマホを壊した事。姉ちゃんには一緒に謝ってもらうからな。あんなにおっとりしてるけど怒ったら怖いんだぞ」


 麗奈が何か言いたそうに口を動かした。

 君が悪い。はっきりとそう見えた。


「確かに俺が悪いけどさ、ちったぁ庇ってくれてもいいじゃん」


 拗ねて口を尖らせると、麗奈はまた口を動かした。

 いいよ、お姉さんも謝ってあげる。


「ありがとう。お前が一緒なら姉ちゃんなんざ怖かねえ」

 

 嘘だ。実際のところうちで本当に怒らすと1番怖いのは姉ちゃんだ。

 母ちゃんも怖いけど、姉ちゃんの比じゃない。感情的になる俺と違って姉ちゃんは理性的で静かに怒る。淡々と何が悪いか教えてくれる。

 度が過ぎたら精神的にも追い詰めてくる。

 へへ、身震いしちまうぜ。


「……ふあ」


 麗奈が小さくあくびをした。

「眠たいよな。先寝てもいいぞ」

 小首を傾げて君は?と問いかけてきた。


 今まで不良、ヤクザ、犯罪者、色んな奴と対峙してきたが、そんな奴らと戦うよりも麗奈を失う想像をした方が遥かに怖い。

 

 麗奈が寝てる間に居なくなったらと思うと先に寝たくない。

 

 それでも油断したら意識を失ってしまいそうなくらいには眠い。


 約束。俺の気持ちを汲み取るように麗奈の口が動いた。


「そう言われたら黙るしかないな。約束だもんな」


 麗奈が声もなく笑う。

 大きな瞳を細めて、口の端を上げて、笑う。

 その笑顔がとても綺麗でついつい見とれてしまった。


「笑顔。可愛いな」


 真姫も言ってた。


 真姫ちゃん。麗奈の妹で生きていれば中学生、きっと麗奈と同じくらい可愛いのだろう。

 この笑顔を俺は見たかった。

 そうだ。俺が言うべき事はこれだ。


「俺が強くなって麗奈も守るから傍にいてくれ」


 恐らく、これが正解だったのだろう。麗奈は大きく頷いて、納得したように瞳を閉じた。

 麗奈にとって身の危険よりも俺の傍に居られないことの方が苦痛ってこと。俺だってそうだ。

 考えれば分かりそうなのに、俺はまた間違いを犯すところだった。


 気合いをいれよう。強くなろう。その為には睡眠だ。

 姉ちゃんの手紙の二枚目はまた帰ってきてから読めばいい。   

 それよりも麗奈の体温が暖かくて眠い。今はこの微睡みに身を任せて寝るとしよう。


 


 

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