36頁
『それでお姉さんに恨んで欲しいの?離れて欲しいの?君はまた1人になりたくなっちゃうの?』
「……違う。逃げないって決めたから、どんな事になっても受け入れなきゃって。それにもし、姉ちゃんが狙いじゃなくて、まだ俺達が狙われてるなら麗奈にも危険が及ぶ」
今度は俺が背負って、姉ちゃんを殺した犯人を突き止めて、精算させて。
誰も不安にならなくていいように俺がやんなきゃ。
『もう無理』
その一言だけスマホで見せてきて、麗奈はスマホを裏向きにして床に投げ捨てた。
それから昨日俺がしたように、足でそれを何度か踏んづけた。
スマホの画面が砕けて破片が飛び散る。
まるで俺達の思い出みたいだ。なんて場違いな事を考えてしまう。これは現実逃避か。
麗奈の行動は完全な拒絶だ。唯一の会話の方法をぶち壊してまで俺と話したく無くなった。
壊してしまえばもう戻らない。俺が間違えてしまったから、家族で親友で、約束をしてくれたこいつは俺の元を離れてしまう。
俺のエゴを押し付けようとしたからだ。
麗奈がくしゃくしゃになったスマホを足で蹴飛ばして、部屋を出ていこうと振り返った。
言わなきゃ、ごめんって言わなきゃ。今言わないと二度と口も聞いて貰えないかもしれない。謝っても遅いかも。
だけども声が出てくれない。勇気が出ない。
俺が躊躇しているうちに部屋の扉を開けて麗奈は出て行ってしまった。
失ったか。麗奈を。
折角信頼してくれるようになった相棒を。
馬鹿だな俺は。
素直に言えばみんな軽蔑を向けるだろうか。いっその事消えて無くなれば、それはダメだ。俺には使命がある。1人でもやらなきゃ。でも俺はまだ無力だ。だから努力するんだろうが。
色々な考えが頭を巡り、抜けていく。そのうちにまとまりがつかなくなって、心に穴が空いたように、心を無が蝕んでいく。
ああ、この感覚姉ちゃんが死んだ時だ。
復讐なら単独行動で隠れてやった方が捗る。この家を出るのもありかもしれねえ。
――清く正しく美しく、時には邪道に、挫けようと諦めない。
姉ちゃんの手紙の一文が目に入った。
『ずっと傍に居る。それが君とお姉さんの約束』
麗奈が言ってくれた言葉。
どうせ壊れたんだ!思いを全部言ってやる。
手紙を机の中に閉まって直ぐに部屋を飛び出した。
向かう先は麗奈の部屋。閉じられていた扉をバン!と開けて中に飛び込む。
「……」
部屋の中には麗奈が居た。最低限の家具を置いた簡素な部屋で、パンツスーツ姿で、真姫ちゃんの写真を眺めていたようだ。
てっきり荷物を纏めているもんだと思っていた俺は、唖然として思考停止してしまった。
それでも怒らせてしまったことには変わりない。
中に入って扉を締める逃げられることの無いよう扉の前にたったまま、話始めようとするが、さっきみたいに喉が声を出すのを拒否しているように喋れず、パクパクと口だけを動かしてしまう。




