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「そうかもしれないな!私も少年も同じ人に憧れ続けてここまでやってきたわけだからな!私も強くなったけどまだまだ葉月先輩の強さには及ばない」

 

 及ばないと言うものの、それは謙遜だ。俺とは違う。

 琥珀さんは血のにじむような努力をしてきたのだろう。実力で言えば当時俺が見ていた葉月姉ちゃんを充分に凌ぐ強さを持っていると思う。

 だからこそ琥珀さんは俺よりずっと堂々としていてかっこいい。


「琥珀さんはずっと強いっすよ。雪兄とタメはるくらいじゃないか?」


「負けるつもりはないが、あの人とは相性が悪い」


 琥珀さんはハニカミながら頬をかいた。


「雪兄と琥珀さんが?」

「技術では負けてないつもりなんだがな、道場にいた頃は不屈とパワーで押し通されてしまって、いつも負けてしまう」


 あーあの人ムッキムキだからな。琥珀さんの言ってる事わかるよ。

 俺も稽古の時に良い一撃だって思っても押し返されて投げられるもん。


「今の琥珀さんなら五分五分じゃないすか。大技当てれたらワンチャンあるっすよ」


「ふっふっふ、大技はここ一番でしか当たらないよ。だけど私は大技を当てる為の小技も磨いた。今なら負けっぱなしではないさ」


 凄いなこの人。自分に必要な物を理解して、入念に準備してる。

「俺も強くなりてえ」

 

 ……ちくしょう。琥珀さんに当てられちまったかな。眠たかったはずなのに体が、気持ちが、疼いて仕方ねえ。


 葉月姉ちゃん。

 俺ももっと、もっと強くなりたい。守られてるだけじゃねえ。この人と肩を並べるくらいにならないと、仮に仇が目の前に現れた時負けるかもしれない。


「少年ならできるさ」


 嘘偽りのない表情で琥珀さんが言った。


「琥珀さんや雪兄と違ってブランクがあるっすけど」


「気にするな。少年はあの葉月さんの弟だ。才能は申し分ない。私なんてすぐ追い越すに違いない」

 

「……あはは、あくまで才能メインなんすね」


 このプレッシャーのかけられ方は苦手だ。


「あの人だって才能だけで強くなった訳じゃない。葉月さんこそ努力の人だと私は知ってるぞ」


 姉ちゃんの裏を知っていた事に驚いた。

 俺も知ってる。何でも1番を取るその裏には血反吐を吐くほどの努力があった。


「だから君ならできる。葉月さんと菜月さんの弟で、私と雪人さんの弟子の君ならな。むしろ君にしかできん!」


 


 琥珀さんが肩をぽんと叩いてきた。

 軽く叩かれたはずなのに重圧を感じる。悪くない、むしろやる気を出させてくれる。


「おす。俺強くなるっす!麗奈も姉ちゃんもみんな俺が守る!」


『期待してるよ。少年( ̄ー ̄)ニヤリ』


 麗奈が琥珀さんを真似て文章を見せてきた。

 視線を麗奈の顔に向けると、右目をパチンと閉じてウインクしてきた。

「その意気だよ。そしてゆくゆくは私を屈服させてくれ」


 負かしてくれって言ってくれよ。なんか背筋がゾワっとした。

 怖いから拳1つ分ほど麗奈の方へと移動した。すると、琥珀さんも詰めてくる。

「屈服って……負けたからって屈服するようなたまじゃないっすよね」


「いや、なんだ。私は私より強い男性と結婚したいんだ。だから今から君を育てて屈服させてもらおうと」


 琥珀さんが両手を頬に当て悦に浸った表情を見せた。


「魔王が自分を倒してもらう為に勇者を育てるみたいな感じすか。手短に済ますなら雪兄とかいいっすよ」


 雪兄の相手は姉ちゃんって決まってるけども、あの人なら仮に琥珀さんに好意を持たれても気づかない。持ち前のデリカシーの無さで何とかしてくれるだろう。


「雪人さんにはデリカシーが無い。旦那にするなら少年の方がいい」


 今日だけで何人から嫁宣言されるんだよ。嬉しいんだけど、俺は麗奈が好きだ。


 そう言えばお姉さんから所有権の主張がない。気になって麗奈を見やると、小さく微笑みを浮かべて俺達のやり取りを見ていた。

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