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「なあ、俺の彼女の事なんだけど1つ聞いてもいいか?」
だから、俺は1つ。男に質問を投げかけた。
『お前の彼女はこれから朝まで俺達に抱かれて朝にはさよならだよさよなら。最後に声が聞けて良かったな!』
違うよ。そんな事が聞きたいんじゃない。
「違うんだ。そうじゃなくて。もう揉んだんだろ?デカいし……どっちの手で揉んだ?」
そう。どっちの手を二度と使えなくすりゃいいんだ?
『なんだよ彼女攫われてるのにそんな事が聞きたいのか。寝盗られ趣味かよ気持ち悪い。右手だよ』
わかった。1時間後だ。確実にお前の息の根を止めてやる。
「そっか。ありがとう。じゃあまた後でどんなか聞かせてな」
それ以上はしないことを望んでおくよ。
『おい。あまり話すな。4年前みたいな目には会いたくないかな』
そう聞こえて通話が切られた。
4年前ってなんだよ。こんな事をするヤツらだ。姉ちゃんの件に関わっていてもおかしくはない。
もし、本当に姉ちゃんの事件に関わりがあったら?
指が震えて上手くスマホが操作できない。
ああ、どうしよう。とりあえず沙織さんに電話しなきゃいけないのに。姉ちゃんにも、蓮さんにも言ってから出掛けないといけないのに。
動転して、視野が狭まってる。俺は、どうしたらいい。
俺の両手に、そっと暖かい手が添えられた。
麗奈だ。ありがとう、落ち着いたよ。
『悠太。話を聞いた限り多分まだ茅ヶ崎あたりにいるよ。だから国道134号線を真っ直ぐ行けば追い付けるかも』
「なんで茅ヶ崎にいるって分かったんだ?」
『確か今日ビーチでライブがあったはずだよ。途中で聞こえて来たのはそれだと思うの』
「なるほどな。ここからだと多分30分くらいのロスか。じゃあ早く準備して沙織さんを呼ばないと」
制服から着替えて、直ぐに出発だ。
「麗奈。お前も来るか?」
『いくよ』
お前を危険に晒したくはないけど、ストッパーが居ないと今日の俺は止まれないような気がする。
「早めに準備して出かけなきゃだから姉ちゃんには麗奈から説明してくれるか?」
『やけに冷静になったけど、顔が青いよ。大丈夫?』
「理性で抑え込んでないと自分を保てないんだよ。とりあえず家に入ろう」
今にも頭の琴線が弾けちまいそうなんだ。感情的になっちまいそうなんだ。
馬鹿だよ。つい先日麗奈を危険に晒したって言うのに今回も大事な幼なじみと友達を危険に晒して。
いや違う。悪いのは犯罪を犯すやつだ。頭で考えちゃダメで感傷的になってはいけない。
のそりのそりと、玄関に向かって歩き、いつも通り玄関の鍵を開けて家に入る。
リビングからテレビの音が聞こえてくるが、俺の帰宅を察知した姉ちゃんが、パタパタと足音を立てて玄関へとやってきた。
「おかえり〜遅かったねぇ。ってあなたたちどうしたの?」
姉ちゃんは俺達の異様な空気感に気がついたのか、不思議そうな顔で聞いてきた。
「悪い姉ちゃん。車で雪兄の所行って晩御飯は雪兄に食べさせてもらって。俺行かなきゃ」
助けに行かなきゃ。一刻も早く。
「何?こんな時間からどこに行くの?」
「涼夏と美鈴を助けに行かなきゃ。着替えてくる」
菜月姉ちゃんの脇を抜けて2階に上がろうとしたが、腕を掴まれて引き止められた。
「お姉ちゃんが運転するからさっさと行くわよ」
「……姉ちゃん」
てっきり大人に任せておけと、止められるのかと思った。
「2人が怖い目にあってるんでしょ。急いでるんでしょ。お姉ちゃん運転上手だから任せなさい」
「ありがとう。姉ちゃん。助かる」
姉ちゃんの運転だと、それほど飛ばすことは出来ない。
「お礼は後!お姉ちゃん車のエンジンかけて待ってるから2人は着替えておいで。連絡とって欲しい人はいる?」
なら先にすることは沙織さん達に状況を伝えて、先に追いついて貰うのが懸命だ。
「沙織さんに、134号線を今から爆走して、黒いハイエースが居たら捕まえて欲しい。恐らく行先は○漁港の倉庫場って伝えて」
「分かったわ。じゃあ車で待ってるからね」
姉ちゃんは玄関側面にかけてあった鍵置き場のフックから、車の鍵を手に取って、外に出て行った。
確か女装してくと相手が油断するんだっけか。
「なぁ麗奈。コーディネートはよろしく」