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俺をモチーフにして書いた小説ってことは物騒な世の中の闇と拳ひとつで戦うイメケンのダークヒーロー的なやつか。
確かに厨二病っぽくて人に言うのは少し恥ずかしいかもしれない。
「詳しくは聞かないであげるっすけど俺を主人公にするなんてセンスいいっすね」
いや本当に沙織さんは見る目がある。しかもしのぎが順調って事はそのうち書店で見かける可能性もある。
聞かないなんて言わずペンネームだけでも聞けば良かった。
山本沙織。さおりん893とか?
「あはは〜小説ってバレちゃいましたかぁ。悠太くんもそう思いますぅ?」
「おう!俺を主人公にしたなら100万部は間違いねえな」
「ミリオンですかぁ〜。この調子なら売れそうですねぇ」
「おお!すげえな!じゃあ俺公認て事でド派手に頼むぜ!」
「えっ、いいんですかぁ?」
「もちろんだ。いつか俺をモチーフにしたって明かしてくれよ?」
そしたらこんな奴も居るのかってなって犯罪も減るかもしれない。
「また、狙われる事になったらいけませんので」
「構わないよ。犯罪者が怖くてこんな事できるかよ!……暫くはやめて欲しいけど」
「悠太くんは5月辺りから狙われたり大変でしたもんねえ……普通じゃないですよぉ」
「それを言ったら4月には1度沙織さん家に襲撃かましてますから……なんかあっという間に8月っすねぇ」
「君も私もそんな年齢ではないのですけどねぇ〜」
「その辺とか小説にしたら売れるんじゃね!?」
「ふふ、君も私も多少の法を犯した事が世間の明るみに出ちゃいますよぉ」
沙織さんが艷黒子に人差し指をあてながら笑った。
「確かにそれもそうだ!じゃあフィクションって事で色々変えて書けばバレないっすよ」
「それはいいかもしれませんねえ。ただ、私は今書いてるものを完結させないといけないので。その後ですねぇ」
「おお!楽しみにしてるぜ!」
「じゃあ、約束ですねぇ」
「おう!約束だ!」
『何を興奮してるの?(*´ω`*)』
麗奈か。美鈴の姿は無い。涼夏の寝顔でも見に行ったんだろう。
「いやー沙織さんが俺モチーフの小説書いてるって聞いてよ!次回作はまんま俺を主人公にして欲しいってお願いしてたんだ!」
『今書いてる小説のタイトルは聞いたの?』
「聞いてねーけど俺がモチーフって事は主人公は勿論カッコイイんだろ?それでいて絶対零度の氷もドロドロに溶かすくらい熱い展開があるに違いねえ」
『ドロドロに溶けるのはむしろ』「麗奈さん」
沙織さんが制止するように麗奈の名前を呼ぶとスマホを打つ手が止まった。
なんで止めるんだよ。ちょっと気になってたのに。
麗奈は読んだことあるのか。いいなぁ。
「悠太くんは完結してから読んで欲しいのでネタバレはダメですよ〜」
確かに俺は完結してから一気に読むのも好きだ。
ハッピーエンドか気になって最後だけチラッと見る邪道な事もする。
『そうだね。ごめんね沙織』
「いえー。それよりも麗奈さん、本人からドンドン書いてほしいと言われたのでガンガン書き進めますから添削お願いしますね!」
麗奈も制作に関わってたの?
『お金も欲も満たせて最高のしのぎだね』
麗奈がにいっと口の端をあげている。
「ええ、お互い付かず離れずやっていきましょ〜」
待てよ。俺がモチーフで、麗奈も読んでて2人の欲を満たせる。
なんだっけあれ、タイトルが出てこねえ。でも確かあれって
「その小説って麗奈がヒロインだったりするのか?」
2人の肩がピクリと動いた。
「さて、とそろそろ組員を配置して女の子達を縛る時間ですかねえ。今日も忙しくなりそうですよ〜」
『悠太。頑張ってね。お姉さん応援してるから』
露骨に話しをずらしやがった。
まさかあの麗奈愛読書でタイトル見ただけで分かる、あのR18官能小説が沙織さんの作品だったなんて。
「……騙しやがったな」




