23頁
車の窓から光が差している。すっかり朝だ。
何度かの見張りの交代を済ませて迎えた朝。夏の朝はまだ少し涼しいがもう少ししたら車内もサウナと化すだろう。
「ふああ」
あくびが漏れた。端っこで額にじんわりと汗をかき、腹を出して呑気寝てる涼夏を呪う。
こいつが寝ようとする度に変態化して俺の妄想を掻き立てるような話をするから眠れない夜を過ごした。
怒れば怒ったでドM心を擽って喜ばすだけだった。本当に、こいつを救出する時よりよっぽど疲れたよ。
ちくしょう。今になって眠たくなってきた。
こんなんじゃ戦闘力八割減だな。ま、今日のメインは飽くまで琥珀さんと沙織さんだ。
多分俺の出る幕はないだろう。
終わったら帰って寝よう。さっさと寝よう。1人で寝室のベッドを独占して寝るんだ。
さてと、取り敢えず車を降りるか。
車のドアを開けて外に出る。
「あー体いてぇ」
車で寝るのは初めての体験だ。いくら高級車でも背中は痛くなるんだな。寝不足だからなおさらか?
グッと伸びをすると背中からパキパキと子気味のいい音がした。
「おっと」
急に血行がよくなったからなのか、少し体がふらついた。
コケそうな所を脇から差し込まれた手に支えて貰った。
「おはよう。麗奈」
振り向いて、挨拶をする。
『わ、酷い顔。もしかして眠れなかったの?』
鏡を見たわけじゃないけど、めちゃくちゃ疲れた顔をしているのだろう。
麗奈が無表情で見つめてきた。
「まあな……気が張ってて眠れなかったよ」
嘘じゃない。張ってたのはテントかもしれないけど。
あーだめだ。色ボケがまだ収まってない。
『帰ったらすぐ、お姉さんと、寝ようね』
麗奈に頭を撫でられながら言われた。
「一人で寝る」
『お姉さんのこと嫌いになったΣ(゜д゜;)』
「ちげぇよ。むしろ好きだよ。たまにはあのデカいベッドを独り占めしたくなっただけだ」
今とんでもないことを言った気がするけど寝不足のせいだ。
麗奈の顔が心無しか赤くなってるのも気のせい。俺とこいつは家族だ。
告白する間柄でもなければ、下心を向けてはいけない。
『やっぱお姉さんも一緒に寝る(。'-')(。,_,)ウンウン』
「寝るだけだぞ。邪魔したら追い出すからな」
また興奮するような事があれば、寝不足を重ねて死んじまう。
麗奈がこくこくと頷いた。
『邪魔しないよ。君がお疲れ様だから癒してあげたいだけ(* ॑꒳ ॑* )⋆*』
お前は本当に良い奴だよ。あそこでまだ寝てる涼夏と違って。あんにゃろ今からでもドアと窓閉めて蒸し風呂にしてやろうか。
そんな元気もないや。
「ありがとうな。本当に助かるよ」
涼夏や琥珀さんがいるならともかく、2人きりなら邪魔せず寝かしてくれるだろう。
「朝からイチャイチャと見せつけてくれるわね」
「美鈴か降りてきたのか」
涼夏と離れて寝る事を了承したもんだ。
よく見るとこいつも目にクマが出来てる。
「ふぁー。私もこの件が終わったら涼夏と寝たい」
もしかしてこいつも一晩中車の中で警戒態勢だったのか。
「頼めば寝てくれるんじゃないか?見張っててくれたんだろ?涼夏ならご褒美くらいはくれるだろ」
美鈴の目が泳ぎ始めた。
「え、ええ、そうね」
言動にも動揺の色が伺える。
「お前。昨晩何してた?」
「涼夏を見張ってたわ。心配で心配で仕方なかったの」
車の側面に回ってガラスを注視すると、手垢やヨダレの後で窓が汚れている。
つまりこいつは涼夏の寝顔みたさに2時間おきにこの車の窓ガラスに張り付いていた変態ってところか。
一晩中起きていた俺に気付かれずに勤しんでたって、1番衝撃的なのはそこだ。
「俺に気付かれずにやってのけるなんてお前忍びかよ」
「股間にテント張って悶々してた由奈ちゃんも可愛かったわよ。それがあると苦しいわよね。ちょんぎっちゃいましょ」




