22頁
間延びした声で涼夏が言った。
「いや。頭も目も冴えてる」
耳も。隣に止まっているハイエースから少しの話し声が聞こえる。俺たち同様彼女たちも興奮して眠れないのだろう。
「眠れないよねー。今回でこういうの終わるといいなぁ」
「終わるさ。沙織さん達が見回りしてくれるって言うし」
ヤクザが見回りにうろついてる町で馬鹿な事するやつなんて、それこそネジの外れたバカだろ。
『これが終わったら海だよ海』
「ほえ、そうなの?」
「千秋が行きたいって言ってた」
「いいねぇ海!悠くんはどんな水着着るの?」
「そりゃあ、海パンだろ」
『ええ!お姉さんと一緒にビキニだよ』
「はみ出ちまうだろうが」
色々と。
「下はカップつけてパレオ巻いたら良いんだよ。そしたら隠れるよ」
「そもそも俺は男だからビキニなんて着ないよ」
「胸丸出しで泳ぐの!?よーく考えてみて?悠くんのお顔は葉月お姉ちゃんそっくりなんだよ!?胸も似たようなものだったでしょ?そんな悠くんが上裸で外に出るなんて葉月お姉ちゃんが胸丸出しで歩いてるようなものなんだよっ!」
胸の大きさで姉ちゃんに勝った。と麗奈がガッツポーズをしている。
いやいや、俺と一緒ではない。まんま麗奈と同じくらいだからね。そして涼夏も。
でもなんかそう言われると恥ずかしくなってきたかも。
「パーカー着るから」
「パーカーにツンと立ったふたつのさくらんぼ」
「……俺海入らない。浜辺でお前を埋めて遊ぶ。そんで蟹を捕まえてきてハサミで鼻を挟んでもらう。お前の隣にスイカをおいてスイカ割りも良いな。」
「それ失敗したらスズカ割りだねっ」
「……ふ」
麗奈から笑い声が漏れた。
「お前はそれでいいのか?」
「ゆ、悠くんがそうしたいなら……いいよっ放置プレイもありかも」
薄暗い車内で仄かに顔を赤く染め、うっとりとした表情を浮かべて涼夏が言った。
こいつ。いつドMに目覚めやがった。
「変態3にお前をリスト入りさせておくよ」
「いやー。麗奈さんに擽られてから目覚めてしまいましたというか?無理矢理は嫌なんだけどね」
こいつが夏祭りで麗奈に擽りをしかけて返り討ちにあったんだっけ。
アヘ顔晒して漏らしそうになっていた顔を思い出してしまった。ああ、悠太くんの悠太くんが元気になっちまった。
……鎮まりたまえ。
「女の子がそういう事言うもんじゃねえよ」
「まあまあ、多様性の世の中ですから!」
多様性って言葉を変態の隠れ蓑にするなよ。
「だから悠くんがビキニを着るのも多様性だよ。大丈夫。麗奈さんもお揃いのビキニ着てくれるよ。それも際どいやつ」
麗奈の際どい水着ねえ。
悠太くんの悠太くん超えて、悠太くんの悠太になっちまったよ。
ちくしょう。変態に脳を汚染された。2人とも元は変態要素なんて無かったのに、なんでこんなになっちまったんだ。
「麗奈。もうそいつを寝かしつけてくれ」
『お姉さんに任せて( *˙ω˙*)و グッ!』
これ以上こいつの話を聞いてたら眠れるものも眠れない。ちくしょう。何が悔しくて悶々とした夜を過ごさないと行けないんだ。
麗奈が涼夏を寝かしつけて、麗奈もそのまま寝てしまった。
一人寝遅れた俺は寝ようと目を閉じるが、夏祭りの涼夏と、まだ見てもいない麗奈の水着が頭をチラついてしまう。
これが男の性ってやつか。むしろ今までこうならなかったのが不思議なくらいだ。
いや、流石に麗奈の胸に触れた夜は少し悶々したけどあの日は人生で数回目の危機だったことも手伝って疲れが勝った。
あーちくしょう。寝息までそういう風に感じてきた自分が憎い。
でも俺は紳士だ。漢だ。かっこいい大人の男性だ。寝ている女性に手を出すような鬼畜の所業は絶対にしない。クズじゃない。
深呼吸をしよう。
「すーはー」
いい香り。じゃない。もう考えるのをやめよう。
そのうち眠くなるだろ。




