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そんなわけで飲み物が行き渡りそれぞれが暖を取れたわけで、騒々しかった集団が尚更元気になった。
「姉ちゃん。ここから運転して町まで戻れる?」
「うん。お姉ちゃんまだ元気いっぱいだけど、どうしたの?」
「ここにいる大人で沙織さん以外運転を信用できる人が何人居ると思う?」
なるほどね。と姉ちゃんは口を手で隠してクスクスと微かに笑った。
「お姉ちゃんくらいだね」
「そう、頼れる大人の人が姉ちゃんしか居ないのよ。沙織さんには朝までここに居てもらわないと困るから」
「良いよ。でも、お姉ちゃんも悠太に良いところ見せたかったなー」
争いを嫌う姉ちゃんにしては珍しい発言だ。
今回の件、涼夏と美鈴が攫われてよっぽど頭に来たのだろう。涼夏のこと妹みたいに可愛がってるから。
「戦力は申し分ないよ。蓮さんいるから」
「ね。昔何回か怒らせちゃったことあるけどその時より怖かったね」
「ああ、あの運転手の男を顔面掴んでハンドルに叩きつけてた時のあの笑顔、夢に出てきそうだよ」
「あらぁ。誰の話をしているのかしらぁ?」
誰だよ姉弟のハートフルな会話に口を挟む不届き者は。一変分からせてやんねえと気がすまねえぜ。
「すみませんでした」
直ぐに頭を下げて謝罪だ。こっちが下だって分からせてやったぜ。
「悠太くん。今日は私と寝ない?きっといい夢が見られると思うけど」
「すみません勘弁してください。帰りを待つ人がいるんです」
艷黒子があって見た目は清楚で巨乳でスタイルのいい未亡人の床の誘いとか男子高校生なら喜んで飛びつくと思う。
だけど暴力的な意味で朝まで生きてられるかわかんねえ!好きな人もいるんでごめんなさい!
『悠太はお姉さんと寝るんだもんね。発情した未亡人はお呼びじゃないって思ってること言ってあげな』
なんであたかも俺がそう思ってるかのように書いて、更にそれを俺だけではなく蓮さんにも見せるんだよ。
「……発情。私だって女なのよ。そんな言われ方をしたら傷付くわ?」
キレなかった。だと?
『ごめんね(´・ω・`;)言いすぎた』
「そう。傷ついたの。だから悠太くんを朝まで貸してくれない?」
その手法、今日二回目だぞ。
「代わりに姉ちゃん貸すからそれで勘弁してください。姉ちゃんはいいっすよ。1度寝たら朝まで絶対起きない。抱き心地も最高。良い匂いもする」
ただし、抱き枕にされた場合。脱出は不可能というデメリット付き。
「シスコン」
蓮さんが蔑むように見下ろしてきた。
「シスコンで何が悪いんすか。優しくて可愛い自慢の姉ちゃんっすよ。こんなのシスコンにならない筈が無いでしょ」
寧ろ俺は誇りに思っている!
「悠太?そのお姉ちゃんを身代わりに差し出そうとしてるのが弟なんだけど」
俺が殺されるよりはマシだ。姉ちゃんならただの抱き枕にされるだけで済むんだ。尊い犠牲だ。
「違うよ。姉ちゃんの良さを知ってもらう為だよ。ホントだよ」
「嘘ね。顔に書いてあるわよ」
「そそそそんなことより、姉ちゃんはみんなを送って上げて欲しいんだよ。早く親御さんに合わせてやりてえ」
「そうね。この話はまた後でしましょ。朝までまだ時間は沢山あるもの」
なんとも身の毛のよだつ話だ。是非とも聞かなかった振りをさせてもらおう。
誘拐された人達は盛り上がっていて、帰りたそうな雰囲気は微塵も感じないけど、話の内容がもう聞くに耐えん。
美鈴や琥珀さんも混じって好き放題いってやがる。
誰だよ。俺が涼夏にふられたから麗奈に擦り寄ってカップルになって、琥珀さんとも肉体関係持ってるって妄想垂れ流したやつ。
俺はまだ童貞だっての。
こんな会話を聞かせ続けられたら気が滅入る。早くおかえり頂こう。