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向かう先には琥珀さんと美鈴がどっしりと腰をおとして両手を下で組んで構えている。
蓮さんが跳躍した。長い髪が強烈な風を受けて後ろに流れている。
頂点まで一気に上がった蓮さんの体は着地点である琥珀さんと美鈴の手に吸い込まれるように弧を描いて落ちていく。
着地点まで計算済みかよ。
足が乗っかって2人の両手が少し沈む。蓮さんが膝を曲げて溜めを作る。3人の息はピッタリだ。
「せやぁぁあ!」「うりゃぁあ!」
2人が吠えた。
下からの突き上げに合わせて蓮さんが今、飛翔した。
「蓮さん危ねぇ!」
このままいくと超スピードで弾丸のように押し出された蓮さんの体は窓より1メートル下辺りに激突しそうだ。
「こん!なの!わけ!ねえんだよぉ!!」
気合いが入ってアドレナリンがダバダバに分泌されたんだろうな。
血濡れモードを発動した蓮さんはダン!ダン!ダン!と大きな足音を立てながら壁を蹴りながら登って行って窓ガラスを蹴り割って侵入して行った。
「いやぁ……人知を超えてるねっあれは。人間じゃないよ」
隣で涼夏がいった。重力とかそんなの全部無視してったからな。
「あれ、お前の母親な?」
「たはー、ちょっと怪しいですなぁ。私は壁走りはできても壁登りはできないよぅ?」
うん。親子だ。完全無欠に。
もしかしてうちの母ちゃんか親父もめちゃくちゃ強いとかあるのかな。
……蓮さんの親友だから母ちゃんはあり得る。そう考えると身内に人外が居るってだけでこいつを弄ると後で自分に返ってきそうで怖い。
「なんだってんだよぉ!」
突如倉庫の中から蓮さんの叫ぶ声が聞こえてきた。
中に敵が居たのか?あの人なら問題ないか。と思っていると頑丈に閉じられていた倉庫の扉が轟音を立てて吹き飛んだ。
蓮さんなら鎖も南京錠も引きちぎれたんじゃね?
「チビガキ以外は入ってこい!」
俺は駄目って事は。
「麗奈。この服持ってって」
着ていたパーカーを脱いで麗奈に手渡す。麗奈はコクリと頷いてから、それを持って倉庫に入っていった。
倉庫の壁に体を預けて空を見上げる。雲の切れ間から見える月が俺を照らしている。
まったく、女の子いじめちゃダメって姉ちゃんに習わなかったのかよ。俺は習ったぞ。
あのクソ野郎どもに姉ちゃんがいるかどうかなんてのはどうでもいい話だ。
でも……十二分にここで拉致った女の子を脱がして楽しんでいやがったな。
元より社会の闇に触れて生きてきたようなやつらだ。こうなってる事を予想しておかなきゃ駄目だった。
実際に手を出そうとしたのは今日が初めてだとしても制裁が腕を折るくらいじゃ生ぬるい。
そうだな。裸を見たんだから目も潰しておくべきだった。
もう伏見さんに連絡してももう警察に引き渡した頃だろうな。ちくしょう。
ぐっと握り拳を作る。急に仄暗い感情が湧き溢れてきやがる。
ちくしょう。生かす為だと思ったけど警察に引き渡すなんてマジで生ぬるかった。
誘拐された子たちの安否を確認してからにすればよかったんだ。詰めが甘いんだよ。俺。
握り込んだ拳で壁を叩く。
内藤たちと同じように海外にでも送ってもらえばよかった。それでもまだ足りな……いや、駄目だ。
何回も叩く。仄暗い感情に支配されないように。
誘拐の刑罰って何年だ?出てきた所を拉致って海外で働かせて被害者に償わせればいい。そうだ。そうしよう。
最後に手をパーにして壁を叩く。考えはまとまった。
最初に決めたじゃねえか。俺は俺のやり方で平和を作るんだ。俺と同じ思いをする人が居なくなるようにって。
「いって……ははっ、手がえぐれてら」
叩きすぎた。血が垂れてる。
やっぱイラつきすぎは良くない。麗奈くらいクールにいかなきゃ。あいつは表面上だけだけどな。
乗ってきた車に行けば布切れくれぇあるだろ。誘拐に使ってた車だから。