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「沙織さん」


「どうしましたー?」


 間延びした声で沙織さんがこちらをチラと見た。


「俺が姉ちゃんを殺した犯人を見つけたら……頼みます」


「ええ!?悠太くんが殺っちゃうのかと思いました」


「もちろんボッコボコにはする。完膚なきまでに」


 じゃないと俺の気が収まらない。さっきだって犯人への手掛かりになるもんがあると思うと頭が沸騰しそうだった。


「ふむ。それでは私の方で手厚く葬らせていただきますねえ〜」

 

「それもだめだ」


「いいんですかー?お姉さんの仇ですよぉ逮捕されたって何年かしたら出てきます」


「その辺はほら、逮捕より重い何かを考えてくださいよ。とにかく殺しはだめだ。折角俺も沙織さんも、人を殺した事がないんだ。なら、無い方がいい」


「君はともかく私はどうしてですー?正直な話をすると別に悪者だから殺しても構わないと思ってますけど」


「殺すと、殺されるんすよ」


 俺も姉ちゃんが殺された時。力が合ったなら間違いなく犯人を殺してた。


「そうやって殺して、殺されて、同じ事を因縁とか、輪廻みたいにぐるぐるぐるぐる。繰り返すのは、それこそ悪いやつと何が違うのか。そう思ったんすよ」


 殺して、殺されて。理不尽に奪われたから奪い返して、じゃあそれ以上の理不尽が相手側の誰かによって行われたら。

 犯人にとっては自業自得。でももし仮にそいつを大事に思う人が居たら、自業自得と割り切ってくれるだろうか。


 かと言って泣き寝入りするわけじゃ無い。罪には罰を、そこは変わらない。


「後、殺しちゃったらお互い。一緒には居られないっすから」


 明るく言ったつもりだ。


「麗奈と、沙織さんと、みんなとずっと一緒に仲良くやっていきたいっす」


 捕まれば当然一緒には居られなくなる。

 闇に葬ったとしても今まで通りに何食わぬ顔で麗奈や涼夏達と笑いあえなくなる気がする。

 自分の罪に苛まれて、また戻っちまう気しかしない。


「俺は、自分の未来の為に、殺しはしない」


「わからないですねぇ」


 沙織さんが小さな声で呟くように言った。その顔は無表情で前だけを見ている。


「ぶっちゃけ、ずっと切ったはったの世界で生きてきたので、いつかはやらなきゃいけない時が来る。それが普通だと思って生きてきたので」


 住む世界が違う。言いたいことはわかる。

 沙織さんはもっと広い世界で生きてきたから俺みたいに、つい最近まで自分の殻に閉じこもっていた人間より色んな事を知ってる。


「でもですね。君がそう言うならそれが正解なのでしょう」


 沙織さんは微笑を浮かべて、こちらを見てくれた。


「俺も自信はないっすよ。いざ殺ったら慣れちまうのかもしれないけど、そんな沙織さんは見たくねえ。そんな俺を俺は許せない」


「私も、こんな楽しいお友達と一緒にいられないのは、例え数年でも嫌ですからねぇ。というか悠太くん」


「ん?」


「本当に成長しましたねえ。ふふ、私には君が誰を思ってその答えを出したのか手に取るようにわかりますよ〜」


「は!?俺の為だから!誰の為でもねえよ!」


 イタズラっぽく笑いながら確信突いたことを言われて焦っちまった。

 隣で一定のリズムでふっふと空気を吐き出すような音が聞こえて麗奈を見やる。


「お前……笑っ……てる」


 悪口じゃない。麗奈の表情が笑いに合わせて微かに動いている。

 

 大きな目を細めて、頬は微かに緩んで口元はぎごちなく上がっていて、整った顔をそこはかとなく笑顔に変えた麗奈がいた。


 麗奈が窓を見やる。


『お姉さんの顔、動いてる』


それだけで俺は、感無量。涙が込み上げてきてしまって何か言ってやりたいのに何も言えない。


「えー!私も見たいですー!麗奈さんの笑顔!!」


 沙織さんは、前を向いて運転しててください。


 手を伸ばして、麗奈の頬に触れる。柔らかくて暖かい。

 良かった。本当に良かった。ずっと見てみたかった。


『君のお陰だね。成長したのがとても嬉しくて。お姉さんわかってるよ。君がお姉さんを思って言ってくれたの。でも素直じゃないところがおかしくて、そしたら笑顔になった?』


「よがっだ……よがっだよぉ」


 恥も外聞もない。顔をぐしゃぐしゃにして泣きながらなんとか声を上げた。


『今の君ならお姉さん安心して一緒に居られる』


 わかってる。約束はしていてもいつどうなるか心配だったもんな。


「……うん。い、いづもじ、んぱぃがけでごべん」


 いつも心配かけてごめん、そう発音したつもりだが嗚咽が混じっていてはっきり伝わってるかもわからない。


 つーと、麗奈の目尻から涙がこぼれ落ちた。


『大丈夫。約束だから。君が嫌って言っても一緒』


 今日2回目の約束。麗奈から言ってくれた。

 

「……うん」


 震える手でスマホを触っている。


『夕方と合わせて2回目だね。泣くの』


「……うん」


『でも、いい涙だよ、今日のは』


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