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涼夏が目をきゅるんきゅるんさせながら小首を傾げはにかんでいる。
自分を最大限可愛く見せる方法を熟知した動きだ。
「おう。可愛いぞ」
涼夏だぞ?飽きるほど顔を見てきたけど表情がコロコロ変わって全く飽きない。猫みたいなこいつが可愛くないわけがない。
「にゃは!そっか。私可愛いんだ」
涼夏は赤らめた頬に手を当てて微笑みを浮かべた。
「やるじゃない由奈ちゃん。このスケコマシ」
褒めてんのか。それとも悪態つきたいのかどっちかにしろ。
「こましてねえよ。可愛いもんに可愛いって言って何が悪い」
「そうね。確かに。あなたの言う通りだわ。可愛いわよ由奈ちゃん」
美鈴がそう言いながらそろそろと近づいてくる。
「寄るな。麗奈助けて」
「あら、麗奈さんも一緒に頂いていいの?」
『言いわけないでしょ( #・᷄ὢ・᷅ )どっちも。美鈴は涼夏に一途じゃなかったの?』
「ちぇっ。でもそうだわ。由奈ちゃんのあまりの可愛さに遂ハーレムも良いなって思っちゃって」
『美鈴。二兎を追う者は一兎をも得ずだよ。涼夏を堕とすなら悠太は諦めないと』
俺の幼馴染に堕とすって漢字を使うんじゃない。
「はっ!……涼夏を堕としてから由奈ちゃんを落とせばいいのでは!?……私は天才かもしれない」
「俺はお前に天災を望むよ」
いや本当に。こいつにはもう女装した姿は見せたくない。
「酷いことを言うのね。怖かったからふざけてただけなのに」
「あ……悪い」
『ごめんね:( ;´꒳`;)』
美鈴が節目がちに、めちゃくちゃ悲しそうな顔をしていたからすぐに謝った。
そうだよな。無理にでも明るくしてないとテンション保てない時もある。
「私を傷つけたのだから。2人とも美味しくいただいてもいいわよね?」
「謝った労力と時間を返してくれ」
「ふふ、冗談よ。でもさっき言ったデートは本当。もちろん保護者も無しよ」
「唯から聞いたのか」
「そうよ。まったく、どこの世界に保護者同伴でデートに来るような人がいるの?」
あれは麗奈が無理やりついてきただけだ。
『ぐぬぬ( *`ω´)』
「ふふ、私が由奈ちゃんを惚れさせて食べちゃうから指を咥えて見てるのね」
「ない。それは100億分の1もない」
「あら、1%でも確率が残ってるなら私はやるわよ」
『1%も残ってない( *`ω´)』
麗奈正解。
「まあでも、麗奈さん。2日間だけ……いえ1日だけでも彼を貸してほしいの」
そう言って美鈴は頭を下げた。麗奈は無表情だ。
「涼夏とのデートだけは1対1でさせてあげたいのよ」
美鈴は続けた。
「ふええ、美鈴!?私もみんなでデートしてもいいんだよ?」
涼夏が驚きながら美鈴の肩に手を当てた。
「言いわけないでしょ。あんたは気を使いすぎなの。自分のしたい事言いたい事をもっと大事にしなさい」
顔を上げて、涼夏の目を見ながら言った。
「悪い麗奈、俺からも頼むわ。そう言えばこっち来てから2人で出掛けたことなかったな」
別に麗奈が俺を縛り付けてるとかそういうのでは無い。ただ、1人きりにしてごめんって気持ちで謝った。
「それに……麗奈さんちょっと耳を貸してほしいの」
美鈴が手でちょいちょいと麗奈を呼んで何かを耳打ちしている。
美鈴の話しを熱心に聞いてはコクコクと時折頷き、最後に大きく頷くと俺の前に戻ってきてスマホに文字を打ち込み始めた。
なんだなんだ、何を吹き込まれたと言うんだ。
『君は涼夏とデートに行ってきなさい』
「お、おう」
『お姉さんは美鈴とデートに行ってくる』
なん……だと……あのレズ野郎に何を吹き込まれたんだ。麗奈をその道に引きずり込んだら……許しはせん!許しはせんぞぉお!
ギロリと美鈴に目を向けた。
「由奈ちゃんを堕とすならまずは周りから……なんて言うのは冗談よ。半分。でも何を話したか。なんてことは聞かないでよね。乙女の秘密に土足で踏み込むのは野暮よ?」
この女、黙ってれば言いたい放題いいやがって。大体都合のいい時だけ男扱いして、聞けないよう誘導するのは卑怯じゃないのか。
「大丈夫。麗奈さんを取って喰ったりはしないわよ。静香も誘うつもりだから、安心なさい」
静香にGODIVAのチョコを献上して、こいつの暴走が無いよう見張っていて貰おう。
「良かったわね涼夏。デート、楽しみね」
「……う、うん。美鈴。ありがとうねっ」
全部勝手に決めてくれちゃって、まあでも全部丸く収まるならいいか。
全く、いつの日かこいつ自身が言ってたけど、本当にいい女だよ。変態要素が無ければ。