1頁
んー。姉ちゃんの車もあって家の明かりも点いてる。こんな時間だから当然か。
俺は葉月姉ちゃんの木刀と手紙を見やる。
姉ちゃんに見せるなって言われたけど、隠したまま2階に上がるのは難しい。
絶対玄関まで出てくる。
「うーん。どうしたものか。手紙だけなら隠し通せるけど木刀はな。でも木刀見たら根掘り葉掘り追求させそう」
『菜月は鋭いからね。君も嘘は下手だし( ̄▽ ̄;)』
「姉ちゃんには嘘……つけねえなあ」
『君はもっとお姉さんを見習った方がいい。お姉さんのポーカーフェイスは最強』
「表情筋が死んでるだけじゃねえか。最近割りと感情は分かるようになったぞ」
麗奈の頬を摘んでむにーと横に伸ばす。
『ふふん。君には麗奈検定1級を差し上げましょう(ノ)•ω•(ヾ)』
「そうだよなー。雪兄も渡すなら早い時間にしてくれれば良かったのに」
麗奈がこくりと頷いた。庭の木のとこに置いといて後で回収するか?万が一無くなったら嫌だ。
『悠太見られなければ良いなら涼夏に預かって貰うとか- ̗̀( ˶^ᵕ'˶)b』
「ありだなそれ。あいつなら何も聞かずに預かってくれそうだ」
麗奈は、うんうんと頷いて、涼夏の部屋を指さした
うん、明かりも点いてる。
「電話してみるよ」
そう言ってから、スマホを取り出して電話をかける。あれ?風呂でも入ってるのか?いつもなら3コールくらいで出るのにでない。
「出ないかもしれないぞ」
プツッと鳴ってスマホが通話状態になった。
「おう涼夏?少し頼み事があるんだけど」
『あら、悠太くん?あの子まだ帰ってないのよ。携帯を忘れてっちゃったみたいで』
思ってた声とは違う蓮さんの声が聞こえてきたかと思えば、涼夏がまだ帰ってないときた。
あいつがこの時間に帰ってない?
顔から血の気がどんどん引いて引く。
「今日。どこに行くとかって言ってました?」
頼む。美鈴か唯の家で遊んでるとかそういうオチであってくれ。
『美鈴ちゃん達と近所をパトロールするって言ってたわね。物騒だから早く帰ってくるように言ったんだけどねぇ』
ガキの頃ならまだしも、こっちに俺が来てからのあいつは蓮さんの言う事を聞いていた。
「悪い蓮さん。後でかけ直す」
返事も聞かずに通話を切ると、入れ違いに俺のスマホが鳴った。ディスプレイに表示されている名前は美鈴。
どうか今まで時間を忘れて遊んでただけであってくれ。
頼むから。頼む。お願いだ。
指をスライドさせて通話モードにして、麗奈にも聞こえるようにスピーカーボタンを押す。
『…………ザザッ』
スマホからはただただ雑音と、車のエンジン音のようなものが聞こえる。
『あにきぃ。これで俺たちこの街出られるんすよねぇ』
続いて聞こえてきたのは美鈴の声ではなく、しゃがれた男の声。スマホとはあまり離れてないようで、近くはっきり聞こえた。
願いは通じなかった。美鈴と涼夏が誘拐されたんだ。ちくしょう。
『ああ。依頼はこれで終わりだからな』
急に目の前が真っ暗になるような強烈な目眩に襲われる。
だが、しっかりこの耳で聞かなくちゃ。少しでも情報を得て、迅速に行動しないと。
犯人は2人。しゃがれた声の男が舎弟で落ち着いた声の今の男が兄貴。多分運転手。依頼ってなんだ?雇われてこんなことしてるのか?
『いやー。警察が動き出してからすっかり日にちが過ぎちまいましたね。夏休みも絡んじまいましたし』
『そうだな』
『でも、この娘たちのお陰でようやく終わるんすねぇ。良かったっすよ。オマケも着いてきて。こんな時間に出歩いてた自分たちが悪いんだぞ?』
『んー!』
美鈴の唸り声だ。口を封じられているのか。