Case? ?????
「諜報員」
「は」
「近況は」
「新人絵師フリンは順調に名を上げていますが、
あれからかの方モチーフの絵はないようです」
「引き続き監視を。絵が出たら回収せよ」
「は」
「その後見合い話は?」
「は、順調に行われているようです。
直近では王太子クリストファー殿下と」
「なにィ?!」
「お会いになったそうです。
しかし王太子殿下は既に婚約が内定している身。
問題ないのでは?」
「公妾とかいうのがあるだろう!
彼女の魅力にあやつが捕らわれたらどうしてくれる!
ただでさえタイプに近いというのに」
「しかし殿下相手では防ぎようがありません」
「それはそうだ。
よし、行くぞ、私が出る」
「なりません」
「なぜ!
うかうかしてるとかっ攫われる!!」
「なりません、お役目が」
「ああーくそっ!」
長い脚を投げ出し、じたばたと子供のように黒髪を乱すひとりの男。
「なんだ、ご乱心か」
扉からひょいっと顔を出したもう一人の男に向かってキッと眼光を飛ばす。
「ご乱心もご乱心だ!
見てみろ、こちらがのんびりしている間に向こうは王太子と面会だぞ!」
手遅れになったらどうしてくれる!
とまたもバタバタやりだす黒髪の男を後目に、
もうひとりの男は優雅にソファに腰掛けた。
「まあまあ、情報持ってきてやったのに」
「すぐさま吐け」
「見合いをするそうだ」
「今度はどこのどいつだ」
「誰でも。望んでくれるなら」
「は?」
「ついに腹を括ったようだよ。
評判の悪い女を娶ってくれる奇特な人がいるのなら、
見合いを受けますだってよ」
「それは!」
「あのろくでもない両親でも良心はあるからな。
後妻枠や評判の悪い男、爵位目当ての商人なんかは突っぱねてたらしいが。
一旦受けてみる気になったらしい」
「諜報員!!」
「は」
「徹底的に邪魔しろ!
攪乱しろ!
潰せ!」
「は」
「そして俺も行く!」
「なりません」
「ああーもう!!!!」
黒髪をぐしゃぐしゃにして騒ぐ男の肩を叩き、
「どんな工作をしても、
あいつは人にコントロールされるタマじゃないよ」
自分の道は自分で選び取るやつだからな。
諦めて見守るんだな。
その言葉に頭を抱えた男がうめく。
「俺は…お前を兄と呼びたいんだよォ…」
「俺はごめんだね」
はっはっは、と響く笑い声を背に、
諜報員と呼ばれた男はそっと姿を消した。
空気だった人物がひとりいたことにお気づきでしょうか…