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Case2.『ヒュー・ガントン侯爵令息』

「お嬢様」


「なあに」


「『詫び状』でございます」


「よしきた!!」



ベッドからがばりと飛び起き、

ティアンナはシルクのナイトキャップを放り投げた。


ナイトドレスのままいそいそデスクへ向かうと、

そこに置かれた書状をがばりと目の前に掲げ、

目を皿のようにして読み、



「バツ(不合格)よ!!!!」



と天高く放り投げた。



ひらひらと舞い落ちる『詫び状』を捕まえ、

調査員も目を通す。



「『ヒュー・ガントン侯爵令息』でございますか」


「そうよ、なんて奴を送りつけてきやがった訳?!」




送り主はミンディ・ヒルトン子爵令嬢。



「ヒルトン子爵令嬢といえば、

 過去に3度の婚約解消を経験されておられる方ですね」


「そうね、理由までは知らないけれど」


「ところでお嬢様、ガントン侯爵令息とは面識が?」


「ええ、小さい頃にね。

 いけ好かない意地悪な小僧だったわ」


「最近は面識はおありではないのですか?」


「確か騎士になるための修行に入ったとかで、

 最近はあまり聞かないわね」


「一度調査を?」


「ええ、念のためね」




…ティアンナは迅速な初動を取った、つもりだった。

その後の朝食の際、ほくほく顔の両親にこう言われるまでは。



「ティアンナ、

 ヒュー・ガントン侯爵令息から近々面会したいとの申し込みがあったぞ」


「チャンスね、ティアンナ!

 しっかりやってちょうだい」


「ガントン侯爵家は最近景気がいいらしいからなあ。

 ティアンナ、逃すなよ」




…先手を取られた。


ティアンナはそっと、心の黄色信号を灯した。




―――――


「申し上げます」

「述べよ」


「ヒュー・ガントン侯爵令息、御年21。

 ガントン侯爵の三男。

 現在騎士として王都周辺を中心に勤務中」


「次」


「勤務上特に問題となる行動は報告なし。

 ただ一点気になる点が」


「述べよ」


「は。

 いささか調査内容がクリーンすぎる気がします」


「クリーンすぎる」

「は。

 こちら独自の調査網を使っておりますが、

 令息の評判があまりに模範的なのです」


「いや~…

 それは信じられないわ~…」

「同感にございます」



ティアンナの幼少期の記憶からすると、

ヒュー・ガントン侯爵令息はまさに『悪ガキ』だった。


気弱な子をからかい、

小馬鹿にし、

嫌がらせをし、

そうして相手が泣くのを楽しむタイプの悪ガキだった。


「アレが改心するようなことがあるのかしら」

「違和感がございます」


腐っても高位貴族。

実家の力が働いているのか。


「そしてもう一点」

「述べよ」


「は。

 紹介元のミンディ・ヒルトン子爵令嬢ですが」

「ふむ」


「過去の婚約解消の原因を調査致しました」

「ふむ」


「結論から申し上げると、

 かの令嬢は著しく眼力に欠けていらっしゃるご様子」

「なあにそれ」


「お一人目の婚約者は既婚者。

 お二人目の婚約者は金銭目的の詐欺師。

 三人目の婚約者は爵位詐称の平民だったそうで」

「うわあ…」


「いずれも令嬢からのアプローチだったと」


「そんな人のオススメなんて確実に地雷じゃないの!」

「同感でございます」


「やってらんないわよも〜〜……」


カウチにどっかりと身を投げだし、

ティアンナは頭を抱えた。



「お嬢様、いかがなさいますか」


「自己防衛最優先!

 『動かざること山のごとし』よ!」


「は」



ーーーー



しかし敵も無策ではなかった。


失礼にあたらない最速の日程で面会の日程を組み、


模範的に両親宛てに挨拶状と贈り物を寄越してきた。




ティアンナは両親に「あいつ多分ヤバイって」という趣旨の訴えを起こしたが、両親は「まぁ調査してクリーンなら大丈夫っしょ」という楽観姿勢だ。

 


十中八九、相手の親の爵位と利権に目が眩んでいる。



ただ両親は、自分たちの強欲がティアンナの足を引っ張ることがあると経験で理解しているので(前科アリ)、最終的な判断はティアンナに任せると約束してくれた。




しかし時間が不足していた。



クリーンすぎる報告書の真偽を探る間もなく期日を迎え、ティアンナは最低限の迎撃準備しか整えられず面会の日を迎えたのであった。




「ご無沙汰しております、

 ティアンナ・オーブリー嬢」




馬車から降りてきたヒュー・ガントン侯爵令息は、騎士らしくさっぱりとした短髪に太い首、がっしりした体格の野太い声の持ち主だった。



幼少期からはお互い随分成長したが、

ヒューの目を見てやはりティアンナはなにか違和感を覚える。



やっぱり黄色信号ね。



――――


面会はオーブリー侯爵家の応接室で行われた。



ヒューは軽快な語り口と気さくな態度で両親とティアンナに接し、特にオーブリー侯爵家のこれまでの功績を持ち上げた。



両親の顔はもう、ホクホクだ。

うまい具合に調子に乗っている。

ああ、アテにならないこの大人たち。



…そうしてしばらくして、

ヒューは攻めに転じた。


「ティアンナ嬢、

 お互い疎遠になっていた時期の話をしませんか。

 ふたりで少し散歩でも?」


「おお、それはいい、ティアンナよ。

 是非行ってきなさい」


「そうよティアンナ、庭園でも見てきたら」


「そういえば、お屋敷の前の広場の花壇が見事でしたよ。行ってみませんか」


ティアンナはにこりと微笑んだ。


「いいえ」


ヒューがギギッと音が聞こえるような鈍い動きでこちらを見る。


「わたくし、先日少々ドジを踏みまして、

 足を痛めております。

 歩くには不都合があるのですわ」


「そ、そうですか。

 では是非我が家の馬車で」


「このままこちらのお部屋で、

 両親には退室して頂くのでも構わない?」



ヒューの提案に被せて主張する。



「そ、それではご両親に失礼があるのでは…」


「私達は別に構わないよ」


「ええ、ごゆっくり」


アテにならない両親はいそいそと退室していった。




「…念の為、人を何人か同席させて頂きますわ」


調査員(侍女)に言付けるとすぐさま追加の使用人が複数人入室する。



「…さて、お話を致しましょうか」


ティアンナが準備よし、と合図する。


ヒューは深いため息をひとつつき、


「随分と警戒されているようだ」


と洩らした。



「まあ、未婚の淑女たるもの当然ですわ」


「未婚の淑女、ね。

 貰い手のなくなったお荷物の間違いでは?」



はっやー…

本性晒すのいくらなんでもはっやー…


ティアンナはドン引きだ。



「…面白い評判を立てられたもんだな、

 ティアンナ」



もう敬称取ったよこいつ。



「で?

 ありがたくも俺がわざわざお前を引き取ってやろうっていうのに?

 感謝の言葉ひとつないわけ?」


「仰る意味が分かりかねますわ」



「お前、そんなに馬鹿だっけ?

 嫁の貰い手ないだろ、あんな噂立てられて。

 俺が貰ってやるって言ってんの」


「お断り致します。

 噂は公に否定されていると思いますが」


「あんなの信じるやついないって!

 世間ではまだお前は、

 下賤な血の、売女の、犯罪者だよ」


「根拠は?」


「そんなもの不要だ。

 俺の申し出を断るなら、

 改めてあの噂を蒸し返してやる」


何度でも、尾ヒレを付けて、な。


もはや取り繕う気もない無茶苦茶な理論で、

ヒューは明確に脅しを掛けてきた。


「わたくし、

 あなたみたいな男と婚姻するなんて御免ですわ」


「言ってろ。

 お前がいくら騒ごうと無駄だよ」


「そもそも、わたくしと婚姻してあなたにメリットあります?」


「そりゃあな。

 悪女を受け入れた俺の株は上がり、

 お前の悔しそうな泣き顔を楽しめる」



うわぁ悪趣味。



「…結構なご趣味でございますこと」


「最高な趣味だよ」



ヒューはソファにふんぞり返って高笑いした。



「…で?返事は?

 早く三つ指ついて『よろしくお願いします』だろ?」


「きっぱりと、お断り申し上げます」



ガン!!!!


大きな音を立ててローテーブルが揺れ、

置かれたカップが倒れる。


ヒューは乱暴にテーブルを蹴り上げていた。



「拒否権なんてあると思ってんの?」


「思っておりますわね」


「じゃあ教えてやるよ、

 ねえんだよ、お前に拒否権なんて。

 俺に頭下げるしかねえの」


こうやって、


と立ち上がり乱暴にティアンナの頭頂の髪を掴むと、

勢いをつけてローテーブルに打ち付けた。



「愚か者ですわね」



頭を押さえつけられたまま、ティアンナはヒューを睨んだ。



「どちらが?

 多少ケガしたところで、

 お前の両親は快く俺にお前を引き渡すと思うぞ」


「……」


「お前との婚姻と引き換えに、

 オーブリー家に色々利があるように便宜を図る予定だからな」


「…なるほど」


「あ?」


「ガントン家としても、

 厄介払いということですわね」



ティアンナの頭を押さえる手に力が籠もる。



「あなた実は、

 相当やらかしてるのではなくて?

 結婚相手が見つからないくらいに。

 それで丁度いいわたくしに目を付けた訳ね」


「お前、その口がきけなくしてやろうか」


「なぁるほど、

 良く分かりましたわ、

 ガントン家のお荷物くん。


 どうりで急ぎすぎているし、

 こうして脅しを掛けて、

 なし崩しでも返事させてしまおうとするわけね。

 ちょっと深く調査が入ったらすぐにそちらの粗がバレますものね」



ティアンナは頭を押えるヒューの手の甲に、

ガッ、と爪を立てた。



「離しなさいな、愚か者。


 あなたの要求はきかない」



力任せにヒューの手を剥がし、

ティアンナは姿勢を直す。



「だからお前には選択肢なんてないと」


「なら勝負なさい」


「……勝負だと?」


「わたくしとあなたで、勝負をするのです。

 あなたが勝てばあなたの要求を飲む。

 わたくしが勝てば金輪際わたくしに近付かないで」


「そいつはいい。

 上乗せで山程要求してやるよ」


「では契約書を」



使用人がサッと用紙を取り出す。



ティアンナはさらさらと告げる。



「勝負種目はわたくしが決めても?」


「ああ、お前が決めていい。

 ただしオーディエンスが楽しめる種目だ。

 チェス、学問答、そういうシケたもんはナシ。

 お前の提案に俺が乗ったら、それで決定だ」


「細かい競技条件は後日送付でよろしいですわね?」


「いいや、必ず面会で受け取る。

 卑怯な真似をされても困るからな」


「勝利の際に一度だけ、

 相手に要求を飲ませることができる、

 ということでよろしいですわね?

 後から次々に要求するなんて、

 みみっちい真似はなさいませんわよね」


「ああ、当然だ」


「また勝負の判定は、 

 しかるべき第三者により行って頂きます」


「ああ」


「以上、契約成立ですわ。

 これでもう、ナシにはできませんからね」


「ほざけ」


「こちらの祐筆がすぐに清書致します。

 お待ち下さいな」



無言の中、

祐筆係はすぐさま2部の契約書を清書した。


内容に差異ないことを確認し、

中央にお互い割印を施し、

最後に署名を行った。



「念の為、同席した者にも署名願いますわ」



ティアンナの一声で、

祐筆係はじめその場にいた使用人たちに契約書は廻され、順番に署名されていく。



「なかなかいい祐筆じゃないか」


「ええ、速記も得意なのです。

 ちなみに両親が退室した後からの全ての会話・行動も記録済みですわよ」


「なんだと!!」


「あら、何かまずいことがおあり?」


「…いや。

 たかが使用人の落書きを誰が信じるんだ。

 それにそいつ、勝負の後には俺が貰う」


「それはできかねますね、ガントン侯爵令息」



ティアンナの代わりに答えたのは、

最後に契約書に署名した男性の使用人だった。



ぴら、と署名した契約書の1枚をヒューに渡す。


1枚は既に調査員(侍女)に任せて安全確保済だ。



「ケイナ・オーブリー…?

 レイフォード・エルスワース?!

 エルスワース侯爵家の?!」



まさか、と祐筆と使用人の顔を見る。



「ご協力感謝しますわ、

 お義姉さま、お義兄さま」


「照れるなあ、まだお義兄さんには早いよ」


「卑怯だぞ!!」


「何が卑怯なのです?

 わたくしはあなたに脅され、

 暴力を振るわれ、

 身を守るために信頼できる人に同席を願い、

 その一部始終を記錄したまで」


「お前は…

 俺の言う事を聞いていればいいんだよ!

 姑息な真似しやがって!!」


「どちらが? 

 それに簡単なことではないですか。


 わたくしに言う事を聞かせたければ」



ドレスの裾を捌いて勢いよく立ち上がり、

ヒューの襟首を掴んで引き寄せ、



「勝負に勝てばよろしいのよ」



と突き放した。



「ではごきげんよう」



ティアンナは部屋の扉を自ら開き、



「お帰りを」



と言い放った。




ーーーー



渋々帰路につくヒューの背中を睨みつけ、



「おとといきやがれ」


と吐き捨てたティアンナであったが、

後ろにいるケイナは蒼白である。



「どうすんのよーー!

 あんな野郎にティアンナさん嫁いじゃイヤよー!」


と大騒ぎしている。



「ティアンナ嬢、

 今日の狼藉を訴えるだけでも良かったのでは?」



レイフォードも気遣わし気にこちらを見ている。



「いいえ。

 ガントン侯爵家は狡猾ですもの。

 恐らくだけれど、

 これまでのあの野郎のやらかしも侯爵家が握りつぶしてるんだわ。

 

 仮にこちらが訴えても、

 逆にある事ない事新聞に書かれてゴシップ戦争よ。

 あいつらしつこいですわよ~、まるでスッポンのように」



そうなったら長期戦必至である。

あっという間にわたくし婚期過ぎちゃう。




「それなら、

 スパッと二度と近づけないようにしてやろうと思ったのよ。

 

 今日もやたら、

 わたくしを連れ出そうとしたでしょう?

 多分あれ、屋敷の外に記者を待たせてたのよ。

 明日にはどんな記事が出されることやら」



「でも勝負って…!勝負って…!

 勝てなかったらどうするの…!」



ケイナはもはや半泣きである。



「簡単なことよ、お義姉さま」


ティアンナは腕を組み足を肩幅に開き、

胸を張って宣言した。



「勝つのよ」



ティアンナ婚活防衛戦、開始である。



――――



「さ、作戦会議と参りましょう」



後日。 

ティアンナの部屋に集まったのは、

調査員(侍女)、ケイナ、レイフォード、

そしてなぜかキーラ嬢とギルバートである。



「えっと…なぜわたくしたちも…?」



キーラ嬢はキョトン顔であるが、

ギルバートは心得ているようだ。

さすが頭脳派令息である。

アレコレとキーラ嬢に説明している。



状況は悪くないと言える。

あの忌まわしき面会の後、新聞には何の記事も出なかった。



ガントン侯爵家からしたら、速攻を仕掛けて脅してでもお荷物の婚姻問題を片付けてくるはずが、そのお荷物は輪をかけて愚かで、他の侯爵家の令息に狼藉を目撃された上それを記録され、良くわからないが令嬢と婚姻を掛けて勝負するなんていう馬鹿な契約書を持って帰って来やがった。



そんなことを公言しようもんなら、令嬢から遮二無二婚姻を嫌がられてますー、と吹聴しているようなもんである。



ちなみに愚かという意味ではオーブリー家の両親も同等であるが、そのふたりはケイナの議事録を読みティアンナの額のアザを見、己の見る目の無さにボコボコにへこんでいる最中である。





「さ、わたくし何なら勝てるかしら?」


「そこから?!」


ケイナが叫ぶ。



「失礼ながらティアンナ様は手弱女でいらっしゃる。ガントン侯爵令息がティアンナ様に合わせるべきでは?裁縫勝負とか?」



事情を理解したキーラ嬢が(意外と)冷静な意見を出すが、



「多分それだと相手は勝負に乗らないわね」


「では、運に任せる競技は?

 カードゲームやルーレット」


ギルバートも案を出す。


「ガントン侯爵家はカジノ運営もしてるわ。

 イカサマが効く種目はむしろ向こうの領域よ」


「なるほど」


「勝負判定があいまいな種目も良くないわね。

 ケチつけてくるわよ」


「お嬢様と令息が直接組み合う競技も許容できません」

 

調査員はティアンナの安全が最優先だ。



「クレー射撃…」



考え込んでいたケイナがぽそりと呟く。


「クレー?」


「こっちの世界には銃はないな…

 なら、アーチェリー…

 いや、飛程が長いと男性有利か…

 弓…飛程が短くてもいいもの…」



うーん、うーん、と考え込み…



「…流鏑馬?」



と謎の言葉を繰り出した。



「ヤブサメ?」


「うん…

 馬を走らせながら矢を射る競技なんだけど。

 確か女の人もやってた、と思う」


ケイナは詳しく説明した。


・流鏑馬は元は武士(ケイナの世界の武人)のエキシビションのようなものだったが、転じて神事としても奉納されてきた伝統儀式。


・直線の馬場を馬で走り抜け、途中にあるいくつかの的を射る。


・近年ではスポーツ化されており、的に正確に当てるほど点数が高く、同点の場合は早く走り抜けた方が勝ち。



「へえ。

 面白いですね、迫力があって見応えがありそうだ」


「でも無茶だって〜、

 ティアンナさんこんな細腕よ?」



レイフォードはケイナの話をデレデレしながら聞いているが、ケイナはやはり騎士のテリトリーの競技だとハナから諦めている。



「やっぱり球技がいいかも。

 卓球…テニス…バドミントン…」


「いけますわよ」


「え?」



ティアンナは言い切った。



「乗馬も弓も嗜んでおります」


「嘘でしょ?!」



ケイナはあんぐりしたが、



「お嬢様は護身も兼ね、

 一通りの武術は修めておられます」



調査員(侍女)の言葉にさらにあんぐりした。



「で、でも相手は騎士よ?!プロなのよ?!」


「そうね、でもこっちにはない競技よ。

 わたくしも練習すれば、勝機はある」


「あるの!?」



そこですかさずキーラ嬢が立ち上がる。



「なるほど、これはわたくしの出番ですわね!」


「そういうことね。

 キーラ嬢、頼むわよ」


「ガッテン!」



「さて調査員」


「は」


「ヒュー・ガントンの騎士としての実力を調べて頂戴」


「御意」


「そしてお義姉様、お義兄様」


「なにかな」


「これからわたくしは修行に入ります。

 屋敷からもいなくなりますので、

 名代を頼みますわ」


「ああ、競技内容の詳細を面会で求めていたね。

 承知した、僕も必ず同席する」


「お願い致します」


「不在の理由としては『暴力を振るわれたショック』とでもしておいて頂戴」



「わ…わかった…

 いや待って、ほんとに流鏑馬するの…?」



ケイナはなお言い募る。



「だって流鏑馬って、武士の競技なのでしょう?」


「うん」


「あの『風林火山』の、タケダシンゲンコーも嗜まれた可能性があるわけでしょう?」


「いやーよく知らないけど…可能性はある…」



「じゃあやるわ」


「ええ?!」


「カッコイイもの」


「そんな理由で…」



ティアンナはほっほっほと高笑いした。



その時、扉をノックする音がした。


調査員(侍女)が取り次ぐと、一枚の書状がやってきた。



「ミンディ・ヒルトン子爵令嬢より面会の申し込みです」



ティアンナはそれをひらりと落とし、


「捨て置きなさいな」


と告げた。




―――その日から、オーブリー家令嬢ティアンナは、姿を消した。



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