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case5. クレム・コットン子爵令息2

今回のお話は、

時系列・場所がバラバラの小話が散らばります。

とある日。


ケイナは従者に付き合ってもらい、祐筆の仕事に使う物品の買い出しに街に繰り出していた。


実は最近ケイナはちょっと退屈である。


婚約者レイフォードが仕事に忙しいのはいつものことであるが、

義妹であるティアンナにも「良い人」ができたようで、

頻繁にデートに行ってしまうのである。


貴族女性らしく決して夜遅くになることはないが、

デートに行った後の義妹はどこか夢見るようにふわふわしており、

声をかけても話は上辺をつるつる滑って右から左、

全然手ごたえがないのである。



恋ってすごいな。



ケイナとて恋愛経験者ではあるが百戦錬磨とはいかないため、

義妹の変わりようには大変に驚くばかりである。



「あ、あの、もし」



あの獅子か虎か豹か、といったティアンナがまるで小さな子猫のよう。


「も、もし…あの…」


元々可愛らしい人ではあったが、丸くなるを通り越してなんか溶けてる。


「あの!あのお!!!」



「ケイナお嬢様、お呼びでございます」

「え?!?!?」



思考にふけっていたら、どうやらスルーを決めてしまっていたらしい。


振り返ると身なりの良いお嬢さんがこちらをじっと見つめている。



「ごめんなさい、考え事をしていたの」


「いえ、こちらこそ急にお声をおかけしてすみません。

 失礼でしたら下がらせて頂きます」


「いやいや、そんなことはありませんよ、

 私がぼーっとしていたので。

 何か私に御用ですか?」


「はい、あの、ええと、

 従者の方のお荷物の紋を拝見しました。

 もしやオーブリー家の縁者のお方ではありませんか」


「ええ、まあ一応、オーブリー家の者です」


「まあ!それでは、我らが女神のご家族様!」


「女神?」


「オーブリー家ご令嬢、ティアンナ様のことです」


「あら」


女神とはなかなか大きく出たものである。


「ええ、ええ、

 かのお方は本当に、突如現れた我らの救世主なのです。

 幸運、勝利、慈愛の女神。

 かのお方が我らにもたらすであろう恩恵は計り知れません」


「はあ…」


「あらやだ私ったら恥ずかしい、嬉しくってつい。

 女神のご家族さま、

 よろしければ受け取ってくださいな」


そっと女性がハンカチーフを添えてケイナに差し出したのは、

赤い見事なポピーであった。


「綺麗ね、ありがとういただくわ」

「いえ、いつかまた、お目に掛かれますことを」



我ら一同、願っておりますわ。



そう言って女性は去っていた。



――――――


「いったいどうなってやがる」


『影』ことヒュー君は呟いた。

本日はティアンナの用心棒ではなく、本業の騎士としてのお仕事である。


夜も更けたこの時間、街灯の灯りが辺りをオレンジ色に照らしている。

薄暗い路地裏には、まだ赤々と禍々しい色味を残した大きな血の染みが広がっていた。


『酔っ払いが大乱闘だ』


との通報であった。



夜番の騎士数人で駆けつけてみると、痩せぽっちの貧相な男が、酒場の客相手に大暴れしていた。


何かしら喚いているが内容は聞き取れない。


それより驚かされたのは、取り押さえたその男の異常な力の強さだ。

その体躯からは想像もつかない凄まじい力で抵抗され、たったひとりの男を取り押さえるのに出動した騎士全員の手が必要だった。

捕縛した後も抵抗は続き、縛られた手足の骨からは嫌な音がした。多分折れてる。

それでも暴れるのをやめない男は、誰がどう見ても異常だった。



「酒に酔ったにしてもちょっとおかしいぜ」


「ああ、憑き物かもしれん」


「憑き物?」


指を組んで祈る体制に入る同僚を横目に、ヒュー君は怪訝な顔をした。


「悪霊、生霊、動物霊。その類さ」


「そんなことあるのかねえ…」


何にせよ異常だ。


何かがおかしい、その言葉だけがリフレインして消えていった。



―――――――


レイフォードは王宮事務官である。

事務官たちは貴族、もしくはそれに準ずる者も多いが、実は平民もまったく垣根なく仕事をしていたりする。(彼の婚約者、ケイナも元は平民であった)


食べ歩きが趣味のレイフォードは彼ら平民からお勧めの店の情報を提供してもらうことも多く、割と仲良くやっているほうである。


「ところでエルスワース侯爵子息、アッチのほうはお好きですか」


平民の事務官ふたりと雑談していると、不意にそんな話題が出た。


「おいやめろよ、エルスワース事務官には婚約者がいらっしゃるんだぞ」


「アッチとは」


「コッチですよ、コッチ」


…ははーん。なるほど?


 もしや女性関係のほうですか?」


「そうですそうです!」


「あいにく僕は恋人以外には興味はありませんのでね。

 からっきしです」


「だから言っただろう」


「では歌劇は?」


「歌劇は好きですが」


「実はですね、最近街で評判の店がありましてね」


彼の言うところはこうである。

その店はいわゆる娼館であるそうなのだが、

客を取る部屋のある棟とは別にホールがあり、

そこで娼婦たちが歌や踊りを披露しているらしいのだ。


「娼婦のショーなどどんなものかと思えば、

 なかなかこれが良いものでしてね。

 貴族の嗜まれるお上品な歌劇とはまた違って、

 エネルギー、生命力があるといいますか」


「ほほう」


「僕も娼婦を買ったことはないのですが、

 ショーは見に行きました。

 確かに迫力がありましたよ」


「しかしそんな大規模な娼館があるとは」


「ええ、以前はどこかの貴族の屋敷だったみたいですよ。

 詳しくは知りませんがね」



その後もレイフォードはあいにくと足を運ぶ機会はなかったが、ホットスポットだと度々噂を聞き、人々の評判の中では徐々に娼館という日陰からショービジネスの発信地として光の下に躍り出て、数か月後には流行最先端の名所となってしまった。


その娼館のNo.1、トップスターの名は「リリ」。


緩やかにウェーブしたブルネットが特徴の美女で、

抜群の歌唱力だという。

また喋らせれば豊富な知識を惜しげもなく披露し男性とも対等に議論し、

しぐさや審美眼は一流の淑女と並べても遜色ないほどだという。


まことしやかな噂では、

かつて没落した貴族の名家の末裔であるという。


街中の高貴な男たちだけを相手にし、

その財や精力を吸いつくす魔性の女は、

今や街中の憧れとなっていた。


――――――


ギルバートは首をひねった。

普段は医師見習いさんとして、先生と呼ばれる上官の元で研鑽を積む毎日であるが、

ここ最近はちょっと忙しくなっていた。


「なんですかねェ…この病…」


街では最近、奇病というべき不可解な病が流行していた。

腹を痛がる訳でも血を吹く訳でもなく、苦しむ訳でもないのだが、

とにかく寝台から起き上がれず会話もままならない状態で運ばれてくる。


とりあえず医院に収容するも、飲まないし食わない。


…そしてある日突然、暴れる。

突然獣のように怒りだしたかと思うと、怒鳴り散らしながら医院を去っていく。


連れてきた家族なり同僚なりは口を揃えて、

「最近は機嫌もよくて、調子が良いと思っていたのに」


と漏らす。


罹患層は平民から貴族まで幅広く。

男女比は圧倒的に男に多い。



ギルバートは上官たちと参考書を山積みにし、

過去の事案と照らし合わせて原因を探るも、全くそれらしい合致がない。

では新病かと機序を探るも、議論すればするほど訳がわからない。


「心の病じゃろ」


という老師もいたが、


「心の病が流行してたまるか」


と若手の新進気鋭の医師に一蹴されていた。


行き詰った淀んだ空気の中で、ギルバートはふと思い出した。


彼らの持ちえない知識を、持っているかもしれない人物の可能性に思い至った。


「どなたか、オーブリー家に遣いを」


―――――――



ティアンナはクレムと連れだって、少し遠出をしていた。


王都の隣の都市、美しい湖の街。

王都と挟んでオーブリー家の領地とは反対のため、初めての訪問だった。


水辺のコテージの窓辺に座り、

クレムが手ずから淹れてくれたハーブティーを楽しむ。



キラキラと水面で光が遊び、眩しく煌めく。


小鳥が鳴き、風がそよぎ、森の葉が揺れる。



カタン、と音がするほうを振り返ると、

陰った室内に恋しいひとのぼやけた輪郭があった。


「外が眩しくって、お部屋の中がよく見えないわ」


「目が驚いているのでしょう、

 まったく子供のようなことをしますね」


クレムは穏やかに笑い、

ティアンナの手を引いてソファまで導いてくれる。


このところティアンナは、少し動きやすい、

軽い綿のワンピースを好んで着用している。


クレムが飾り気のない男性であるので、

隣に並ぶ自分もそれに見合うよう、

重いドレスは避けているのだ。


衣服が軽いと肩も腰もずいぶん軽く、

ううんと思い切りのびをすると、

新鮮な空気が身体全体を巡って気分が良かった。


傍から見れば侯爵令嬢とは分からないかもしれない。

下位貴族か、裕福な平民の娘か。


それでもティアンナは気にならなかった。

クレムの傍にいられるのならば。


「ティアンナ嬢、今日は紹介したい人がいます。

 この街に住む娘なのですが、

 貴族の家にメイドとしての就職を希望しているようで。

 向上心のある娘で、ゆくゆくは侍女になりたいらしいのです。

 

 ティアンナ嬢、よろしければ彼女の家庭教師となってくれませんか」


入って、とクレムの合図に合わせて扉の向こうから現れたのは、

豊かな黒髪をまとめた少女だった。


「リエラと、申します。

 お近づきのしるしに」


と赤いポピーを一輪差し出した。

これが、リエラとの出会いであった。



――――――


とある屋敷の一室。


「諜報員、報告を」


「は。

 状況は芳しくありません」


「申せ」


「かのお方は胡散臭い子爵令息にすっかり傾倒しておられます」


「……」


黒髪の男が自身の髪を思い切り掴んでぐしゃぐしゃとかき回す。


「お前にとってはそれが一番だろうが、本題はそれじゃないだろう」


茶髪の男が項垂れる黒髪の男の背中をばしん、と叩き、

続きを促す。


「は。

 彼らの計画は順調に進んでいます。

 時間がありません。

 これ以上規模が大きくなり、立場が確立し、

 国の中枢に入り込めば、手出しすら出来なくなります」


「まずいな」


ようやく顔を上げた黒髪の男が唸る。


「しかし分からないのは、

 彼らの用いている手段です。

 新たな病を作り出しているのは確かだと思うのですが。

 医院側も、もう引退した者まで引っ張り出して分析しても、

 原因が掴めていません」


「手段がわからねば追及しようもないな」


「まさかあいつの婚約破談を目論んだ調査で、

 国家レベルの犯罪の匂いに遭遇するとはなあ」


茶髪の男は鼻で笑って皮肉る。


「仰る通りです。

 そこで」


「なんだ」


諜報員、と呼ばれた男は茶髪の男にずい、と詰め寄った。


「あなたさまのお力をお借りしたく」


「俺の?」


「ええ。あなた様にはいらっしゃるはずです。

 我らの世界の叡智を超えられる可能性のある、妹君が」


「…まさか」


「はい。

 ケイナ嬢のお知恵を拝借したい」


茶髪の男、改めオーブリー家長男カイは、


ごくりとその喉を鳴らした。



―――――


「…で、何ですかこの状況」


オーブリー家の応接室に腰掛ける、

二組のゲスト。


「どちらもケイナお嬢様との面会をご希望でございます」


「ええ…」



一方は知ってる。

いつぞやティアンナの策略によりケイナも寝巻姿を見られた、医師見習いのギルバート君。と、そのお連れ様。


もう一方も一応知ってる。

婚約者レイフォードに恋慕していた、(元)恋敵。

その後も事あるごとに我ら義姉妹に突っかかってくる、アミー・マクライネン公爵令嬢。


「なんで同室に…」


「公爵令嬢を別のお部屋にご案致しましたが、

 医院の者が来ているなら同席すると言って聞かず」


「ええ…」



ケイナは困った。

が、

面倒なのでまとめて片づけることとした。



「皆さん、何用で?」


…そこは公爵令嬢に先に話しかけてくれよ、と医院サイドが青い顔をしているが、

知ったこっちゃない。



「異世界人さん、これを受け取りなさいな」


アミー嬢は1枚のメモを取り出し、居丈高にひらりとこちらへ寄越した。



『手伝ってあげてね お兄ちゃんより』


「…はい?」


「あなたのお兄様からですわ」


「お兄様って、ああ、カイ様ですか…

 お会いしたことありませんけど」


「え」


アミー嬢から間抜けな声が出た。


「なのでこのメモも信憑性も何も無いわけなのですが…

 いいでしょう、お話伺います」


「何よ、話が違うじゃない…!」


アミー嬢がぶつぶつ言っているが知らない。



「そちらは?」


ケイナは医院組に向かって声を掛ける。


「いえ、公爵令嬢のお話をお先に…」


「よくってよ」


アミー嬢が口を挟む。


「わたくしの用とあなた方の用、

 多分一緒だと思うわ。

 構わず話しなさい」


医院組は困惑したように顔を見合わせた後、

おずおずと話し出す。


「実は、街で未知の病が流行しております。

 我々医院では原因を突き止められず、異世界のお知恵をお借りしたく」


「やはりね。

 異世界人さん、我が家の寄り子にも患者が出たの。

 知ってるなら吐きなさい」


「いやわたしが犯人みたな言い方されてもですねえ」



ケイナは非常に不愉快ではあったが、

とりあえず医院側は割と余裕がなさそうだったため、

具体的な症状や発症の過程を聞き取りをする。


上機嫌。調子がよさそう。運動機能鈍麻。寝たきり。無気力。

そして易怒性、衝動的な出奔…


「…やーな予感…」



ケイナがある可能性についてうんうん唸っていると、

侍女がなにやら言づけを持って現れた。


「ケイナお嬢様、こちらを」


見ると紙には、


『ティアンナ様に至急お目通りを。 絵師フリン』



「ティアンナ様は本日おいでになりません。

 ケイナお嬢様、如何致しましょうか」



まったく来客の多い日である。


「ええい面倒くさい、通してちょうだい、今」


「今、でよろしいでしょうか」


「今で!」


ものぐさケイナによるトリプル面談開始である。




ーーーーー


ティアンナは、


自身が握って皴になったスカートをぼんやり眺めていた。


どうして、こんなことになったのだろう。


目の前には大きな黒い瞳を涙で揺らすリエラと、

その肩を抱き慰める愛しい人の姿があった。



「…仕方がないなあ、ティアンナ様は」


溜息と共に吐き出された言葉に、ティアンナの肩はびくりと揺れた。


「…適任だと思ったんだけれどね。

 やはりティアンナ様には荷が重かったか」


「そんなことは!」


「現にリエラは泣いているよ。

 教育者は生徒に優しくあらねば」


「…仰る通りですわ」


「で、今日は何の授業だったんだい」


「場に合わせた適切なドレスの生地選びですわ」


ティアンナの代わりにリエラが応える。

少し前であれば、「ドレスの生地選びの授業だったわ」くらいの軽口であっただろうに。

大した成長である。


そう。

リエラは非常に熱心で、優秀な生徒であった。


ティアンナの言うことを良く聞き、良く理解し、的確に身に着ける。

向上心に溢れ、復習を欠かさない。


そんなリエラをティアンナは気に入り、

もし彼女さえ良ければ、オーブリー家で雇い入れることも考えていた。


しかし時折、リエラはこのように涙を零す。

「出来ない自分への悔し涙ですわ」

と彼女は言うが、その度にクレムは彼女をかばい、ティアンナの不出来を責めるのだ。


曰く、教育者としての資質に欠ける。

曰く、女主人としての器量に欠ける。

曰く、ひととしての優しさに欠ける。


クレムに言われれば、そうかもしれない。


今後コットン子爵家の女主人となるにあたっての、試験のようなものなのかもしれない。

部下たる侍女・メイドたちを立派に教育し、心を掴む。

そういう能力を、求められているのかもしれない。



クレムがリエラに向き直り、問答する。


「ドレスの生地選びか。

 夜会でのドレス選びでは何が大切だと習った?」


「屋内の灯りに映える華やかさと、身のこなしと合わせてどう揺れるか。

 ダンスでターンをした時にどう煌めくか。

 あと、長時間来ても身体の負担にならないものを選ぶべきだと。

 特にそこに質の差が表れると学びました」


「なるほど。

 夜会は夜を徹することもあるからね。

 高級品と粗雑品だと、着心地や伸縮性が違うのだね」


「はい、そう学びました」


「では、実物のドレスを見たかい?」


「いいえ、座学のみです」


「それではいけない。

 質の良い生地のドレスがいかなるものか。

 ティアンナ様、リエラに見せてあげられるね」


「ええ…はい。

 わたくしの手持ちのドレスであれば」


「結構。

 リエラ、ティアンナ様のドレスを着てみるといい」


「クレム様、それは」


さすがのティアンナもそれには抵抗があり声を上げた。


「これは教育だよ。

 着たこともないのにその上質さを理解できるはずもない」


「…仰る通りですわ」


「ティアンナ様、そういうところが良くないと僕は思うよ」


持てる者は、出し惜しみせず与えてあげなければ。


「…はい。承知致しましたわ」



ティアンナは俯いた。

やはり自分は駄目なのだ。


――そうしてリエラに貸したドレスは、

ティアンナの手元には戻ってこなかった。



――――――――



「あなたがフリンね、

 思ったより可愛くていらっしゃること」


濃いグリーンの仕切りの向こうから現れたその女性は、

画家フリンにとって本日のお客様であった。


「綺麗に描いてくださいな」


「承知致しました。何とお呼びすれば?」


「リリよ」


「レディ・リリ、それではしばらく自由にお過ごしください。

 僕はその様子を観察させて頂きますので」


「わかったわ」


今やスターとなったNo.1娼婦リリが目の前でくつろぎ始める。


食事、ショーの練習、休憩、来客の相手。

その日一日、フリンはリリの一挙手一投足をつぶさに観察した。


そうして気付いたのだ。


『似ている』


フリンを画家の道へ放り込んでくれた、ティアンナに似ているのだ。

顔の造作でも髪の色でもなく、しぐさや言葉遣い、視線の運び方。


決定的な違和感を覚えたのは、夕方ショーの前、来客の対応準備をしているリリを見たときだった。


客に失礼のないよう上質に整えられたその紺青のシルクのドレスを、

胸元にひとつ輝くブローチを、

フリンは見たことがあるような気がした。


リリは鏡に映った自分を確認すると、結い上げた髪をばさりと解き、


「髪型を変えるわ。5番の鬢を持ってきて頂戴」


と廊下に向かって呼びかけた。


顎下ほどの長さに切りそろえられた金髪の鬘を持って現れたその使用人は、

フリンと目が合うなり明らかに動揺し、その瞳をさっと逸らした。


「あなたは」


「この子?私の付き人よ。チョウさんっていうの」


リリに肩を抱かれ、フリンの前に押し出されたその侍女は、

数ヶ月前にはオーブリー家でティアンナの腹心であったはずのひとだった。



チョウさん=調査員(侍女)

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