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ティアンナ婚活戦記、ふたたび

お久しぶりですお待たせしました、

ティアンナ嬢の外伝スタートです。

わたくしの名は、ティアンナ。婚活戦士である。


初めましての紳士・淑女の皆さま方はこちらをどうぞ。

【よくわかるこれまでのあらすじ】

割かし高位の、割かし野心家の両親のもとに産まれ、産まれながらにして両親の願望の化身である『いい婿捕まえろ』妖怪に取りつかれた哀れな貴族令嬢であるわたくしであったが、しかし恋焦がれる素敵な人との出会い、想い想われる人と幸せな結婚の望みを捨てず、日夜素敵な殿方をガッツリメロメロにしてむんずと捕まえるための努力を惜しまない、そうまさにわたくしは婚活戦士なのである!


あらすじおわり!


…よろしくお見知りおきくださいませね。




しばらく前、

ティアンナは婚活戦において非常に苦い敗戦を喫した。


お相手はレイフォード・エルスワース侯爵令息。


令嬢たちから非常に人気のある優良物件であるかの令息と自宅でふたりきりになるシチュエーションを獲得したというのに(※相手は仕事)、ティアンナはそれをモノにすることができなかった。



というのも令息は平民女性(元異世界人)なんていう特殊人物に恋しており、あろうことかティアンナの屋敷に帯同させティアンナをすっかりそっちのけで想い人にアピールを繰り返し、ティアンナは危うく当て馬令嬢にされてしまうところだったのである。



誠に遺憾。



その一件からしばらく。


今日も今日とて、

ティアンナのもとに素敵な殿方は現れないのだった。




「調査員」

「は」

「退屈だわ」


ティアンナは自分のデスクに突っ伏し、

忠実なる婚活調査員(侍女、子爵家出身)に向かって不要紙で折った紙飛行機を投げる。



「お嬢様ともあろうお方が珍しい」

「だってここ最近、

 ちょっと色々面白いことがありすぎたもの」

「それはそうでございますね」



ティアンナはここ最近、

自らの婚活人生の大きなターニングポイントになるであろう事案に遭遇したところである。後述。



「さあてそろそろ、

 気合の入った婚活戦略を展開したいところね」



回転椅子をぐるりと回し、

ティアンナは背後の壁にデカデカと飾られた見事な書を眺める。




そこには、勇壮かつ荘厳な書体による


『風林火山』


の四字があった。




「惚れ惚れするほどいい言葉ね…」


「お嬢様、

 淑女の部屋の装飾としてはやや厳つい部類かと」


「いいのよ、ここは謂わば作戦本部だもの」


「ところでお嬢様」


「何かしら」


「そろそろアレが届くころではありませんか」


「アレ…アレね」


「アレでございます」


「そうよアレよ」





コンコン、と扉がノックされ、

調査員(侍女)の取次でひとりの女性が入室する。



「あっらぁ、お義姉さま」


「ぐぅっ…慣れませんね、その呼び方…」


「そろそろ観念なさったら?ケイナお義姉さま」



彼女の名はケイナ。元異世界人で元平民。



『風林火山』をしたためティアンナに贈った、

達筆自慢の人物である。



件の超優良物件、レイフォード・エルスワース侯爵令息をぐっつと捕まえた腹立だしくも羨ましい恋の勝者であり、現在の立場はティアンナの義姉である。

(信じがたいことに、「姉」!「姉」なのである)



すったもんだの末にティアンナの家の養子に入り平民から貴族となり、

すったもんだの末に現在エルスワース侯爵家への嫁入り準備中である。



進捗は牛が歩くが如くゆっくりらしいが、

準備中ったら準備中なのだ。




「で、どうなさったの」


「ティアンナさん宛てだと思うのだけれど、コレ」




ケイナの手には一通の開封済み封書があった。



「ごめん、

 私宛になってたから開けて読んじゃった…」


「いいのよ、そう仕向けたのだから」



ティアンナはひょいっと封書を取り上げると、

中身を確認し、コレコレ、と調査員に回覧する。



あたふたしているケイナは問う。


「えーっと…コレなに?」




ティアンナは椅子に深く腰掛け、

足を組みふんぞり返った。





「『詫び状』ですわ、お義姉さま」





――――



(ホラ貝の音色)


時は先の『すったもんだ』の最中、

幾人かの貴族令嬢、もしくはいくつかの家門ごと、

こちらに狼藉を働きし者ありけり。


それをティアンナ獅子奮迅の大立ち廻りで成敗し、ははあこれくらいで許してやる代わりにちょっくらお耳をお貸しなさいなとこっそり要求したのが、




この『詫び状』である。




ぴらりと書状をケイナに渡し、

ティアンナは優雅に頬杖をつく。



「これ、私の目には釣書に見えるんだけれど…

 『ギルバート・イルアニア伯爵令息』?」


「ご名答でございますケイナお嬢様」


調査員がケイナから書状を回収し、

ティアンナに戻す。



「ああ…お嬢様って呼ばれるの痒い…」

「まぎれもなく当家のお嬢様でございますから」

 


ティアンナは戻ってきた『詫び状』を眺め、

満足そうに頷いた。



「そう。

 これからお義姉さま宛に、

 貴族令嬢からたくさんお手紙が届くでしょう?

 お茶会の招待や季節のご挨拶。

 そういう中に今後、こういうのが時々紛れる予定ですわ」


「どうしてそうなったの…」


「ご協力願いますわ、お義姉さま」




すべてはわたくしの、幸せな結婚のために。




―――――



『詫び状』、またの名を『オススメ殿方情報』。



婚活戦士ティアンナはその怒りに触れた愚か者どもに対し、「誠意をお見せなさいな」とやった。


その内容が以下である。



1.当家の新しい一員ケイナを貴族令嬢として歓迎すること

2.その証としてケイナ宛に、令嬢から定期的に手紙を寄越すこと

3.またその手紙にはティアンナに似合いの殿方のお勧め情報を添えること


…そして3.には最も重要な事項として、


「送り主の令嬢から見て、『結婚したいと思える殿方』の情報を送ること」


という詳細条件を付けた。



つまり、

「あんたの狙ってる殿方、ちょっと紹介しなさいよ」

という、令嬢からしたら悪魔のような要求である。



ティアンナからしたら、くだらない男や詐欺まがいの紹介に時間も労力コストもかけたくない訳であるからして、正当な要求だと言っておこう。



これでティアンナの元にはしばらく、

自分で動かなくとも優良物件の情報が入ってくるという寸法である。



この機を掴まずは戦士の名折れ。



我が婚活人生のターニングポイントと自ら定め、

これまでの集大成として全力で挑む所存なのであった。





――本日の送り主はキーラ・ゴーシュ伯爵令嬢。



ケイナ宛には小規模な茶会の招待状、

それに紛れさせてティアンナには先ほどの令息の釣書。


愚か者軍団の一員ではあったものの、こうして先陣切って詫び状を送ってくるその意気やよし、とティアンナはニヤリと口角を上げた。




「調査員」

「は」


「『ギルバート・イルアニア伯爵令息』について、

 調査を」

「ただちに、お嬢様」





ティアンナの婚活戦、再開である。



がんばれティアンナ嬢。

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