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生まれてくる世界を間違えた

作者: 渋音符


「こんな遅いのにご苦労さん。これから授業?」

「そうですね」

「最後のやろ?大変やなぁ」

「それほどでもないですよ」

「はあ、“真面目”やねぇ」


 ちくり。


「うちの子、すごい出来がよくって。お兄ちゃんに比べてもとっても“真面目”で、自慢なんです」


 真面目って、なんだ。


「母さん、俺、小説家になりたい」

「何言ってるの。そんななれるかどうか分からん仕事、辞めなさい。もっと“現実”見て」


 現実って、どこにあるの?


「俺、教員目指してみるよ」

「ええやん。あんたならなれる。“賢い”しな」


 俺のどこが賢いって?


「免許?勉強で時間ないからとらなくていいかなぁ」

「とっといた方が“役に立つ”って!絶対とっときなさい」

「……わかった」


 何の役に立つんだよ。


「授業が雑!教員に“なりたい”んやろ?もっと丁寧に作りなさい」


 ……?


「運転が漫然としとる。免許とりたいのはあんたやろ?もっと“自覚”持ちなさい」


 あれ。

 いつ、俺、なりたいって、とりたいって言った?

 というか、俺がなりたいものって、なんだ。

 本が好きだから、小説家になりたかった気がする。

 お爺ちゃんに憧れて、床屋になりたかった。

 親父が死んだ。会いたいと思った。

 カウンセラーになりたいと思った。

 人の死を知りたいと思った。

 哲学を学びたいと思った。

 今、俺は、何になりたいんだ?


「本当にそれで教員になれると思ってんの?」


 思ってない。というか、なりたいと思ってない。


「そんなんで免許とられへんで」


 別にとれなくていい。


「大学、楽しい?」


 楽しくない。


「友達と遊んでくる」


 遊ぶような友達なんていない。


「死にたい」


 死にたい。

 誰にも迷惑をかけずに死ねるなら、死にたい。

 でも、道路に飛び出したら運転手さんに迷惑をかける。

 電車もダメ。

 首を吊ったら家族に迷惑をかける。

 身を投げたら通行人に迷惑がかかる。

 海に入ったら、海洋汚染に繋がる。

 あれ、もしかして誰にも迷惑をかけずに死ぬ方法って、ないのかな?


「違う」


 死にたくないから、言い訳をしている。

 辞めようと思ったらいつでも、何でも辞められる。でも、それを言い出して、失望されるのが怖いから、何も言わずに従っている。

 俺が引いたレールは、いつも誰かにめちゃくちゃにされる。それでいて、その誰かは俺に「自分のレールは自分で引け」と言ってくる。

 もう、自分じゃ引けないほどぐちゃぐちゃにされたのに?

 ふざけるな。

 ふざけるな。

 ふざけるな。

 生きてるだけで辛い。楽しいことだけやっていたい。趣味に没頭している間は楽しい。それだけをやっていたい。他のことを何もしたくない。

 でも、そうはできない。

 頑張らなきゃいけない。真面目でないといけない。立派でないといけない。善人ぶらないといけない。優しくないといけない。良くないと、善くないと、好くないと、いけない。理想の俺にならないといけない。

 ……ああ、結局のところ。


「生まれてくる世界を間違えた」

最近、なんかしんどいなって思ってた。

多分こういうことなんだと思う。

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