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ももたろう

作者: はんはん

「KIJI君、仕事中にラインはやめとこか」


「はあ? 今トラブってて、僕ら待機でしょ?」


 凍りつく空気に、胃が痛くなる。

 若いKIJIには、猿田の言う事が理解できないようだ。


「最近の若い奴は礼儀知らずですねえ、犬山さん」


 同年代の僕に同意を求める猿田に「あはは」と、あいまいな返事をする。


 本日は、桃太郎の日だ。

 有名タイトルなので監督も気合が入っている。

 

 日本昔ばなし界隈においても時代の流れは加速しており、若手動物を使うのも視聴者獲得の一手段だ。

 KIJI君は鳥系アイドルグループ「ドナルドダッカ―ズ」の一員。

 グループ名がすでにギリギリアウトな印象だが、かぎ爪十字のTシャツを着ていたメンバーが炎上したりと話題には事欠かない。


 そんな中、川の水が猛暑で枯れているために桃が流れないトラブルが発生した。

 洗濯に出た婆さんからは「もう脱水までいってるから、あと十分もないんやけど」と苦情も出ている。


「雨神さんは、コロナで先週から休んではるしなあ」


 業界の事情に詳しい猿田が、腕を組みながらつぶやく。


「風の神さんは、雨系得意じゃなかったです?」


「あの方はCM出演に力入れてるから、こっちは最近疎遠みたいですな」


 僕の問いに、すぐに猿田が答えた。

 業界内で知り合いの少ない僕は、そういった情報は入ってこない。

 顔の広い猿田に、ただただ感心するばかりだ。


「龍神とかどうなんでしょうね。あのオープニングで出てくる緑のやつ」


「あれはタツノ子太郎氏の私物やからねえ」


「え! あれ私物なんですか?」


 僕が驚くと、猿田は嬉しそうに話を続ける。


「車検が大変やって言ってましたよ、去年の忘年会でタツノ子太郎氏が」


「あれ、乗りもの扱いなんだ」


 僕が空を見上げると、ちょうど龍神がスタジオ入りしたとこだった。

 すぐに雨雲が沸き立ち、雷の音も聞こえる。


私雨(わたくしあめ)でいいだろうから、すぐに動けそうですね」


 僕が立ち上がると、KIJI君が不思議そうにこっちを見る。


「私雨?」


「ああ、局地的に降る雨だよ」


 僕が説明すると、KIJI君が「そうなんですか」とうなずく。

 悪い子ではなさそうだ。


「私物の龍神が降らす雨やからとちゃうで」


 茶化すように猿田が言うと、KIJI君はそれを無視した。

 猿田の機嫌が悪くなるのを感じながら、また僕は胃が痛くなる。

 

 ざっと降り出した雨に一瞬涼しくなったが、生ぬるい雨が僕の毛と心を重くした。


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