第九話、初対面の二人
バンッ!
「今日、買い物ついてこい」
時は学生の大事な休日の朝。俺は寝ていた。10時ぐらいに起きる予定だ。
そんな俺に姉は部屋の扉を乱暴に開け放ち、開口一番、そういった。
「は?」
ねぼけなまこを擦りながら、状況を理解しようとする。数十秒し、ようやく理解した。
「やだ」
「拒否権はない」
「ぐぇ」
俺の意見を全否定しながら、俺の横腹を蹴る。痛い。
仕方なく起き上がる。
「で、なんで行かないとならないの」
「荷物持ちだけど?」
さも当然のように言われる。
「一応聞くけど、俺の人権は?」
「ないに決まってんじゃん」
……ですよね。
「それに居候してる身だろ、逆らう気か」
「いえ、決してそんなことは」
「だったらなんだよ。ああん?」
物凄くドスのきいた声で脅される。これに関してはなにも文句は言えまい。
「で、何時に出発?」
「九時。一秒たりとも遅れるな」
そういうが早いが、俺の部屋から出て行った。
「もう少し寝よ」
時刻は午前六時(早すぎないか)。まだ寝れる。
俺はベッドに倒れ込んだ。
ベッドがポスッと乾いた音を立てた。
「よし、出発するぞ」
「はい…」
正直言うとまだ寝ていたいが、逆らえない。
あの後、八時に起き、しっかり朝食を食べて、今に至る。
駅に向かう道すがら尋ねられる。
「ねえ翼」
「なに」
「体育祭、いつ?」
「絶対に教えない」
姉に教えたら大変なことになる。
「なんで?」
「色々」
はぐらかすしかないではないか。
「いいから教えろ」
「やーだ」
「(怒)」
無言で拳を振るわれる。姉の拳をギリギリのところで避け、一命を取り留める。
「まあいいわ、覚悟しとけよ」
「その顔怖い」
なんというか目の奥が冷たい。
「誰のせいだと思ってるんだ」
「ゲゴォ」
クリーンヒット!見事に姉の肘が腹に炸裂し、悶える。
なんというか、川が見える。
どこかぼんやりとしながら、思う。
「次、あの店行くよ」
「へい」
結局、荷物持ちになった。もう既に紙袋は二袋にもなっている。すべて服やアクセサリーである。クローゼットの中はまだ使っていないものもあるのに。
「あの一軒で昼食べるよ」
どうやらあの店で午前中は終わりらしい。
姉は軽い足取りで次の洋服店に入っていく。俺はその後に続く。
「へぇー」
思わず感嘆の声をあげた。思ったより広い。
「この店で翼の服買うから」
「聞いてない」
「言ってない。後、おごりだから」
おごりなだけまだマシか。
「とりあえず、試着するから翼のは後で」
気づくと、姉の手にはいくつものハンガーが。いつのまに選んだのだろうか。
姉が試着室に入ったのを見届け、試着室の前にある椅子に座る。
しばらくぼーっとしていると、
「あれっ、青野君?」
聞いたことがある声に話しかけられる。
振り返ると、朝比奈だった。
「奇遇だな」
「うん、買い物に来たの。碧野君は?」
俺の「奇遇だな」から会話を繋げられる朝比奈を純粋にすごいと思った。
「姉の荷物持ち」
「へえ、お姉ちゃんいるんだ。いいなあ」
「そんないいものでもないぞ」
あれはホントに、うん。
「あの…」
「つばさー、どう?」
朝比奈の声がある人の声に遮られる。もちろんそれに思い当たる人は一人しかいない。
姉が試着室から出てくる。
「つばさー…、え」
「?(困惑)」
この展開を予想できていなかった俺が悪い。でもこの瞬間を俺は呪う。
この瞬間、姉と朝比奈は初めて出会った。