第四話、捨てきれない感情
そんなこんなで黒板消しが終わり数分し、朝会を開始した。ちなみに、朝は翼が遅れたので今日は一日中、翼が号令をかけることになっている。
「起立、礼」
「「「おはようございま~す」」」
そして先生が今日の日程などの確認をしていく。
「……です。一限目は英語となっているので、準備をしてから各自トイレ休憩をするようにしましょう。それでは日直さん、号令をお願いします」
「起立、礼」
「「「ありがとうございました~」」」
ほぼ上の空で聞いていたため、気づいたら朝会が終わっていた。
「一限目は英語か…」
ほぼ独り言のように呟いた。英語は席の前後左右や班でグループを作って活動するため、少し苦手だ。そんな俺の独り言に朝比奈は反応した。
「楽しみだねっ」
「ああ、そうだな?」
なにが楽しみかよく分からなかったが、彼女が楽しめるのなら良いだろう。
そして休み時間の十分間を俺は授業の予習をして過ごした(これぞぼっち)。
ネイティブの先生の掛け声で授業が始まる。
「Hello! How are you? 」
「I’m fine!」
「ソレデハキョウハ、ジブンノスキナモノヲショウカイシテイキマース。モチロン、タベモノヤカラー、ドウブツデモナンデモイイデスヨ」
自分の好きな物、か……。俺は何が好きだろうか。
「I'm Sophia. I like yellow. 」
「コンナフウ二シマース。ソレデハトナリノヒトトジャンケンヲシテカッタヒトカラ、ジコショウカイヲハジメテクダサーイ」
隣の人ということは朝比奈か。そういえば「楽しみだねっ」とか言ってたし、自己紹介が楽しみだってことか?
「ねえねえ、ジャンケンしよ」
「ああ」
あれこれ考えてたら朝比奈から声をかけられる。
「ロック、シーザ、ペーパー、ワン、トゥー、スリー。ワン、トゥー、スリー」
英語版ジャンケンをする俺たち。何回かあいこが続いたあと、結局俺が勝った。
「それではどうぞ。」
「I'm Tsubasa. I like black. 」
そういって適当に終わらせた。
「次は私の番だね」
朝比奈が立ち上がる。
「I'm Himari. call me Himari. I like Tsubasa. The reason is because it's cool! 」
「ブゴォッ!」
思いっきりむせた。アホか?いや確かに何でもいいですよとは言っていたけど!
朝比奈の方を見ると、赤面もしてちょっと恥ずかしそうな顔をしている(恥ずかしいなら言うなっ!)。
けれど、そんな朝比奈がちょっと可愛いと思えた自分がいる。
はっ?
俺、今なんて思った?朝比奈の事を可愛い?おいおい嘘だろ。
記憶の奥深くからあの子の顔が想い浮かぶ。この感情はあの子がいなくなってから封印したと思っていたのに。
なのになんで、なんで、残ってるんだこれはっ!
いまだ一向に鳴りやまない心臓を手で押さえながら、彼女の方を睨む。
しかし、朝比奈はなぜ睨まれらのかわからず、きょとんと首をかしげている。
くそっ、くそっ。なんで捨てきれないんだこの感情はっ!
これのせいで嫌な思いをしたのに、なんで…