第二十話、プール
夏休み第三週の土曜日、翼と朝比奈は満員のバスに揺られて、郊外のレジャー施設に来ていた。
中にはそこまで大きいわけではないがプールがあり、冬にはプールの部分がスケートリンクになったりもする場所である。
さて肝心なプールはというと、大きめのスライダーと小さめのスライダーが一つずつと流れるプール、そして円形のプールがある。円形のプールの真ん中には島があり、上から水が振ってくるようだ。
「ふぅ~、やっと着いた~」
朝比奈はバスから降り、大きく伸びをしている。
なんせバスの中はプールに向かうであろう人たちでいっぱいだった。十分にスペースも取れないほどに。
「よし、そろそろ行くか」
「うん、そうだね」
施設に向かって横に並んで歩みを進める。
「そういや、水着は買った?」
「ん、適当なのを」
「ださかったらどうする?」
「多分大丈夫」
(店員さんにおすすめの水着をセレクトしてもらったからな)
「私のを見て驚かないでよ」
「驚く……?」
「鈍感すぎない?」
「そんなことはないと思う」
普通は水着を見て驚いたりはしない。
施設の中に入る。
そこは家族連れや友達同士など、様々な人たちがいた。
(やっぱり多いな)
予想通りというか、バスの時と同様、というかそれ以上に人は多かった。
受付に並んでも、ある程度の時間は待たされる。
二人で列に並びながら作戦会議をする。
「なんか行きたいところとか食べたいものあったりする?」
「俺はない。朝比奈についていこうと思う」
「それじゃ、どうしようかな」
朝比奈はパンフレットをじっくり見て吟味する。
時折、「う~ん」や「どうしようかな」などの声が聞こえてくる。
「決まった。こことここに行きたい」
朝比奈が指した場所を目で追うと、かき氷屋さんと大きい方のスライダーに行きたいようだった。
その二つをじっくり見ると、大きい方のスライダーの枠にこう書いてあるのを見つける。
【二人用のスライダー‼家族、友達、恋人とぜひ一緒に‼※二人でないと滑ることができません】
「いいのか朝比奈。これ二人用のスライダーだぞ」
「わ、私は翼君と滑りたいのっ」
朝比奈の方を見ると顔が真っ赤で目が泳いでいた。
「それならまあいいか」
その一言を発すると朝比奈は露骨に胸をほっと撫で下ろしていた。
「次のお客様、前へお進みください」
気づけば、受付の先頭は俺たちになっていた。
「朝比奈、進むぞ」
朝比奈に声をかけ、前へと進む。
「今日は何名様ですか」
「大人二名です」
「はい、分かりました」
無事に一日券を二枚買い、更衣室に移動する。
更衣室で朝比奈と別れることにする。
「それじゃ俺はこっちだから」
「うん、更衣室出たとこで待っててね」
朝比奈は終始、恥ずかしさからか、おろおろとしていた。
男子更衣室に入って着替える。
まず最初に、トイレで用を済ませ、そして上を脱ぎ、次に下を脱ぐ。
次に下に海パンをはく。紐を結んでおくことも忘れない。
最後にラッシュガードを着て、前のチャックを止める。
翼は人に体を見せるのには少し抵抗があるので、ラッシュガードは割と大事な要素である。
そして更衣室を出、朝比奈を待つこととする。
まあ分かっていたことだが、女性は着替えに時間がかかるため、翼は更衣室の近くのベンチで座り、行き交う人を眺める。
五分ほどしただろうか、後ろから朝比奈の声が聞こえる。
「翼君、おまたせ」
振り向くと、そこには、天使がいた。




