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第十八話、夏

「夏休みだあぁぁぁ‼」


 一学期最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴るとクラス、というか学校全体がたちまち騒がしくなった。理由はもう単純明快。全学生の味方、夏休みの到来である。ごく一部の人にとっては地獄の期間になるだろうが。


「はいはい。みんな、嬉しいのはわかるけど少し抑えて。まだ夏休みじゃないから」


 このクラスだけ注意しても意味がないのではなかろうか。

 案の定、他クラスの喧騒がこちらにまで聞こえてくる。

 先生もそのことを悟ったのか「やれやれ」とでも言いたげに肩をすくめる。

 そんな中、俺はというと、一人静かに読書。夏休みなのは嬉しいが騒ぐほどではない。

 隣の朝比奈はというとソワソワと落ち着きなく動いている。時折、ちらちらと視線を投げかけてきたりする。なにか俺に用事があるのだろうか。

 本から顔を上げ、朝比奈の方を向く。


「なに?」


 伏目がちに言葉を発する。


「その、夏休みの予定を聞きたくて」

「夏休みの、予定」

「一緒にいれたらなー、って。だめ?」

「別に良いけど……」


 夏休みの予定は特にないが、毎日かと言われると違う。


「ああ、でも」

「でも?」

「何をしたいかは知らないけど、7月はだめだな。宿題が出てるから」


 毎年恒例の宿題がある。


「翼君って、もしかして、暇?」

「……否定はしない」


 実際そうな気はする。


「あ!」


 手をグーにして、片方の手のひらを叩く。なにか思いついたようだ。


「それなら一緒に宿題しない?もちろん無理にとは言わないけど」

「それはいい案かも」

「でしょ。それで分からないところを教えてもらったりも……」

「できる」


 朝比奈もそれなりに頭はよかった気がするのだが、どうやら俺の方が頭がいいと勘違いされてるようだ。


「やったね。ありがとう」


 しかし、そうとなると次の懸念点は、


「どこでするか、場所を決めないと」

「あ、忘れてた」


 どうやら何も考えていなかったらしい。


「どこでする?」

「うーん」


 一番に浮かぶのはどちらかの家、ということになるが朝比奈も男子を自分の家に入れるのは嫌だろうし、俺の家にはこの前みたいなことが起きない限りは入りたくないだろう。

 すると次に浮かぶのは……


「図書館!」


 これは俺の声ではなく朝比奈の声。


「俺も同じこと考えてた」

「翼君が良いならこれでもう決まりだね」

「うん」


 勉強する場所はこの町ただひとつの図書館に決まったようだ。


「いつ勉強会をする?」

「私は基本いつでもいいけど。てかさ、この際LINE交換しない?夏休みに連絡できなくて遊べなかった~、ってことがないように」


 そういやまだ朝比奈の連絡先を知らなかった。姉の紬は持っているというのに。


「んじゃ、ちょっと待ってね」


 朝比奈は引き出しからノートを取り出し、端っこをちぎると、数字の羅列を書き始めた。


「はいっ」


 そういって紙を渡される。


「誰にも教えないでよ。色々と困るから」

「善処する」

「それ絶対しないやつじゃん」

「保障する」

「それなら、まあいいかな?」

 

 これで朝比奈と自由に連絡を取れるようになったことになる。


「連絡、待ってるからね」

「ん」


 ここでちょうどよく周りが少し落ち着き、先生が話せる状況になった。

 先生の話はざっと聞き流した。




 下校時刻になり、全校生徒が帰り始めた。荷物をいっぱい持っている者。ダッシュで帰る者。友達と仲良く帰る者。

 俺は生徒の間をぬって下校していた。

 こころなしか、少し足取りが軽い。



 この夏は、何かが変わる予感がした。

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