第十七話、停電
朝比奈が翼のジャージを着て、風呂からあがってきた後、さらに雨脚が強くなり、しばらく俺の家にいることになった。ちなみに覗いていない。
「強くなってきたね」
「そうだな」
「このまま泊まっちゃう?」
「絶対にやめた方がいい」
姉が帰ってくるとはいえ、健全な男子高校生と女子高生が同じ家にいると色々とまずいことになる。
「残念だなぁ」
夕方の情報番組を見ていると、光った。空が。
「ッッ!」
朝比奈が急に耳を塞いだ。
理由を聞く前にそれはきた。
ゴロゴロ、ガッシャ―ン‼
「きゃっ!」
朝比奈が数センチ飛び上がった。
「雷か」
その姿を見て、記憶がフラッシュバックする。ヒナちゃんも空が光ると耳を塞いで、その場にうずくまっていた。
最近意識しないようにしていたが、やはり「朝比奈≒ヒナちゃん」なのだろうか。胸の奥がチリチリ痛む。
それを必死に隠しながら朝比奈に接する。
「雷怖いのか」
「怖い……」
今にも泣きそうにり、こちらに少し近づいた。
なぜかこちらが申し訳なくなってくる。
「大丈夫だから、な」
「うん……」
その姿は、とても愛おしく思えた。
またもや光った。それも立て続けに。
「来る!」
朝比奈の準備は万端。
ゴロゴロ、ガシャーン‼
ドッシャーン‼
ドンガラガッシャ―ン‼
(流石に多くないか)
そんなことを思っていた矢先、
パチッ
「ギャー!」
停電した。
それと同時に腕を掴まれた。
「?」
「怖いよぉ」
朝比奈の腕を俺の腕に絡ましているということが分かった。
「懐中電灯取ってきていい?」
暗くて状況がよく分からない。
「だめ。離れないで……」
朝比奈は誰かのそばにいたいのか、更に近づいてくる。
「ちょ、」
「このままでいさせて……」
朝比奈の言葉はとてもか細い声だった。
流石にここで離れるのは良心が痛む。
「うん」
「ありがとう……」
できるだけ刺激を与えないように動かないでいると、動いていると分かりづらい、ある一つの事実に気づく。
(当たってる……!)
あろうことか朝比奈の小さくもなく、しかし大きくもないちょうどいい大きさのソレが翼の腕に当たっているのである。
(どうしよう、これ)
動こうにもガッツリ腕を摑まれていて、数ミリでも動かそうとすればそれにさらに触れてしまう。
しかし朝比奈は自身のそれの事を分かっていないのか、ギューっと力が強くなる。
「ッッ!」
かなりやばい状況である。
「ハァ、ハァ」
静かな状況も相まって、妙に艶っぽい吐息も聞こえてくる。
翼の理性は崩壊寸前だった。
しかしここで朝比奈を襲えば社会的な死が待っている。
そんなENDを翼は迎えたくない。
(あ゛あ゛~)
心の中で叫ぶも朝比奈がそれに気づけるはずもない。
(朝比奈ごめん……)
次第にそんなことも思う始末。
雨もやみそうにない。
翼は考えることを諦めた。
パチッ。
急に電気がついた。
「なにしてんの」
それと同時に姉の声。
「姉ちゃん……」
それはまさに救いの声だった。
「てかそれどういう体勢?翼あんたまさか」
そして気づいた。はたから見れば結構、誤解されるほどの距離感だということを。
「いや、ちょっとまて、姉ちゃん。その、違うから。おい、無言で出ていくな」
「ちょっと朝比奈、ごめん。姉ちゃん追いかけるから離して」
「うん?あ、ごめんね」
すんなりと離されるが最後までそれに気づく様子はなかった。
姉の背中を追いかける。
「おーい‼」
翼の叫びは廊下にこだました。
朝比奈を先に帰し、姉に事情説明をするも、全てが悪い方向の想像にしか向かわなかったのはまた別のお話。




