第十六話、雨
「シャー芯切れた」
課題を終わらせている最中にシャー芯が無くなった。ストックを探すもそれすらも見当たらない。ついでに課題の提出期限は明日である。
「仕方ないけど行くか」
外は土砂降りの雨だが、幸いコンビニは近くにある。多少濡れてもなんとかなる。
部屋を出、玄関に行く。傘立てから傘を取り、マンションの廊下に出る。
下に降りると案の定、雨はザーザー降りだった。
傘を差し、コンビニに向かい、手ごろなシャー芯を手に取り、レジへ向かう。
お釣りを受け取り、店の外に出ると、雨は更に強くなっていた。
濡れないように慎重に家の方向に進む。
家が見えてくる。
すると向こうから人影が走ってきた。
傘を差していないところを見ると、傘を持ってくるのを忘れたのだろうか。
気の毒だな、と思いつつ通り過ぎようとすると、見たことのある顔だった。
足は自然とその人物へと向かっていた。
「なにやってるんだ」
「……翼君」
傘の中に朝比奈を入れてやる。少し狭く、右肩が濡れ始める。
「傘忘れたのか」
「天気予報ってあてにならないね」
なるほど。合点がいく。天気予報を信じて傘を持ってこなかったのだろう。
「どうしよ」
雨はまだやみそうにないし、二人でこのまま入っていても無駄に濡れるだけだ。
「家どこ」
「商店街の方」
この調子だと家に帰るまでにもっと濡れるだろう。
なら、
「俺んち来るか。雨宿りぐらいはできるぞ」
「いいの」
「多分大丈夫」
朝比奈は少し悩むが雨を見て観念したようだ。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
「ああ」
朝比奈の了承は得たし、家に連れ帰っても問題はないだろう(文面的には問題ありだが)。
そのまま二人で同じ傘の中に入り、俺の家に向かう。
終始無言だった。
「お邪魔しま~す」
家に上がるとき、恐る恐るといった感じで挨拶をする朝比奈。
「そんなにかしこまらなくてもいいぞ」
「お世話になっている以上、礼儀は大事ですので」
育ちの良さが垣間見える。
リビングに連れていき、電気をつけると朝比奈は予想以上に濡れていた。
タオルがどうのでなんとかなる話じゃない。ずっと同じ服っていうのも気持ち悪いだろう。
「風呂入るか?」
朝比奈のビクンっと跳ねる。
「お風呂って翼君ちの」
「それしかないだろ」
朝比奈はずっと頭を抱えて悩んでいたが、俺の「そのままだと気持ち悪いだろ」という言葉が決め手となり、風呂に入ることになった。
「着替えあるか」
「ない」
なんかあったかな。姉の服はどれを選べばいいか分からないし、自分の服を着せるのは朝比奈的には嫌だろう。
「う~ん」
自分の服を頭に思い浮かべる。あ、あれがある。
「朝比奈、俺のジャージで良い?」
「ジャー、ジ?翼君の」
朝比奈はパクパクと口を上下させながら状況を飲み込む。
「安心しろ。サイズは少し大きめかもしれんが一度も着てない」
「う、うん。まあそれなら」
朝比奈の着替えも決まったし、風呂に入るころはできそうだ。
タオルとジャージを手渡す。
朝比奈はタオルとジャージを腕で抱え、脱衣所に向かう。プイッとこちらを振り返る。
顔が赤くなっている。
「覗かないでよ」
「……覗かない」
一瞬朝比奈のその姿を考えてしまったのは男の性だろうか。
朝比奈が脱衣所に消えていく。
行ったのを見届けた瞬間、俺はその場にのたうち回って自己嫌悪に陥る。
「死にたい……」
俺の望みは虚空に消えていった




