第十二話、二人三脚
移動しているとき周りの視線が痛かった。
所定の場所に着き、長めのハチマキを渡される。
「足貸して」
「ん」
自らの足を近づきすぎない程度に朝比奈の足に近づける。
その間俺は周りを見渡す。(……いた)
いとも簡単に目的の人物は見つかった。姉である。手をぶんぶんと振り、こちらを見てニヤニヤしている。あの調子だと手をつないでいたところも見られたようだ。絶対に後で何か言われる。
「結び終わったよ」
「ありがとう」
気づくと、互いの足同士がしっかりと固定されていたので、素直に礼を言う。
俺と朝比奈は三番目に走るため、二人三脚に出場する選手たちを見て過ごす。
思いのほか番がくるのに時間がかかった。見ている以上に難しい競技なんだなと実感する。
「次のペアはスタートラインに並んでください」
アナウンスが入り、ようやく番がくる。
「行くぞ」
「絶対勝つんだっ」
目を輝かせながら朝比奈は言う。
二人、足取りをそろえながらスタートラインに立つ。
「準備はいいですか。よーい」
パァン!
空砲が鳴り、一斉に走り出す。
最初に出す足は外側。次は内側。
「「1,2。1,2。1,2」」
声を合わせて前へ、前へ進む。
呼吸音が重なる。
肩がぶつかり合う。
コーナーを曲がった。
コーナーの遠心力のせいで朝比奈の足が絡まる。朝比奈が前のめりになる。
(危ないっ!)
反射的に朝比奈の肩を掴んで引き戻す。
力が強すぎたのか朝比奈が後ろ向きに倒れてくる。
このままではまずいと思い、またもや肩を掴んで自らの体に引き寄せる。
「うわぁあああ」
そのままストンッと翼の胸に倒れる。周りから見ると寄りかかってるように見えている。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
そしてサッと離れた。
この行動が功を奏したのか周りの目がいくらか和らぐ。
「ええ~」
なぜだか残念がる朝比奈。たまにこうなるのはなぜなのだろうか。
「っていうか、遅れるよ青野君」
俺はなにも悪くないような気がする。というか他のペアはもうゴールしている。
「外側からね」
それからは転んだりすることもなく、ゴールした。
姉がずっとニヤニヤしていたのは気になるが。
あの後、綱引きはギリギリのところで勝ち(俺は何もしていない)、運動部員が全力で活躍したこともあってか、大差で我がブロックは総合優勝していた。
「勝ったよっ!青野君。いや翼君っ!」
「よかったな」
朝比奈は満面の笑みで優勝を喜んだ。なにも朝比奈だけではない。その他クラスメイトもガッツポーズしたり、抱き合ったりとそれぞれの反応を見せる。
もちろん勝ったということは下の名前で呼ばれるということ。よほど下の名前呼びをしたかったのか、こちらが何も言わずに朝比奈から呼ばれる。
ただ、案外悪い気はしない。朝比奈の笑顔も可愛いし。
「それじゃ~、また月曜に」
やや上機嫌な朝比奈とさよならをし、家に帰ることにする。周りの目は一定数殺気を宿らせていた。
家に帰るとやはり姉が仁王立ちで玄関に立っていた。
すぐ質問攻めにされる。「あのつないだ手はなに」「女の子を体で支えるとかやるね」などなど。
そして一人納得し、お花畑に旅立ってしまう。
それにしても色々なことがあった一日だった。
自分の部屋の扉を開け、ベッドに座ると疲労感と睡魔が同時に襲ってくる。
(もう、寝るか)
「ふわぁぁ~」
大きな欠伸をし、そのまま寝転び、電池の切れた機械のようにパタリと動かなくなる。
最後に見たものは天井だった。




