第一話、消しゴムから始まる物語
それは2限目の授業中に起こったことだった。
俺はまあ、ぶっちゃけぼっちである。それも9年間。
そしてそのぼっちの席の隣に座っているのがクラスの人気者(もっと言えば学年の人気者)の、朝比奈日葵。
そんな彼女が授業中、慌ててペンケースの中を見たりして、ガチャガチャいわせてた。
なんだろう、と思ったが俺はそんなのどうでもいい。彼女のことを視界から外して、授業を聞き続けた。
すると横から、ちょんちょん、となんとも可愛らしい響きで肩をつつかれた。そして肩をつつかれた方を見た。俺は驚いた。なんと彼女は泣きかけていたのである。それも瞳をうるうるさせていて、すがるような目だった。この目を見てなんとも思わないやつはもう人間じゃないと俺は思う。
仕方なしに
「どうした、だいじょうぶか?」
と聞くと、
「消しゴムがないから貸してぇ。消しゴムないと字が消せないよぅ」
なんともアホの子であった。
(消しゴムごときで泣きそうになるか?普通)
けれども、なんとも可哀そうだったために自分のペンケースの中で一番使える消しゴムを彼女に渡し、事なきを得た。ように思えたが、
授業が終わり休み時間になったとき、消しゴムを俺の机の上に置き、
「ありがとう!」
といい彼女は去っていった。
事件はその直後に起こった。
彼女に貸した消しゴムをペンケースにしまおうとした俺は手がすべって、消しゴムを落としてしまった。消しゴムは綺麗に一回転し、床に着地。
「ああ、めんどくさ」
落とした消しゴムを拾おうとした俺はしゃがみ、消しゴムに手を伸ばした。そこで異変に気が付いた。
消しゴムが汚れているのである。
「なんだこれ」
もっとよく見ようと目に近づけた。すると一言、ネームペンで
【大好き】
と書かれていた。
(???)
一瞬で頭が混乱した。
とにかくこの言葉の真相を聞こうと思い、友達と話している彼女に近づくが、
(空気が重い)一般ぼっちにとって、友達同士で話しているところに割り込むにはきついものがある。
そもそもぼっちな俺がクラスの人気者に話しかけようとすると、周りの視線が痛い。それはもう、内臓の奥まで刺されるような痛さ(実際に刺されたことはない)。授業中大丈夫だったのは、俺の席が一番後ろの窓際だったからで、実際にはほとんどしゃべったことがない。
(仕方ない、仕切りなおそう)
その後も、授業中や休み時間に話しかけようと試みるが、それとなく無視され、その日は真相がわからぬまま家路につく俺だった。