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第44話 ラストチャンス

「おそらくこれが最後のチャンスだ。逃したら……後はねぇ」


「ああ」


 作戦会議を終えた、俺たちはいまだにトウガをぐりぐりするシーラさんに向き直る。


「どうやら作戦は決まったようだな」


 シーラさんがトウガを解放し、こちらを見てにやりとする。

 それは油断か、慢心か、余裕か。

 いや、このレベル差からすれば油断や慢心のわけがないな。


「つーわけだ。遠慮なくほえ面かかせてやるぜ」


 それでもぴょん吉は顔に笑みを浮かべ、左の手のひらに右こぶしを打ち付ける。

 虚勢だろう。

 それでもぴょん吉がそうしてくれるから、勝ちの希望を捨てずに済むからありがたい。


「いいだろう。一度かいてみたかった。ほえ面というものをな」


「なめん――な!」


 ぴょん吉が前に出る。それをトウガが受け止めようとする。だがぴょん吉はフェイントを巧みに使って、トウガの脇を抜ける。そのままシーラさんに。

 こうなるとぴょん吉が挟み撃ちに遭う。だから俺が牽制をする。魔法を使ったり、使うそぶりを見せたりと、とにかくトウガを引き付ける。残り残段数だけを気にしながらも、俺はトウガにつかず離れずの距離を保つ。


 その間にぴょん吉は無闇な特攻ともいえる攻撃をシーラさんにかけている。

 作戦を練ったということから、シーラさんは最初受けに回ったようだ。だが、次第に愚直なぴょん吉の攻めを見切ると、


「足りん!」


 一喝。

 そしてぴょん吉をたやすく弾き飛ばした。

 飛ばされたぴょん吉は、ステップして下がってくる。

 それは攻めあぐねていったん仕切りなおしたように見える形。

 だがそれがこちらのチャンスだった。


「今!」


「ああっ!」


 ぴょん吉の肩に手を触れ、空を見る。

 シーラさんとトウガ。

 その背後の空。


 瞬間、視点が切り替わった。

 瞬間移動したのだ。シーラさんたちの死角にあたる、背後の空に。


 ――っ!


 瞬間、頭に痛みが走る。

 なんだ……これ。


「上等」


 そんな俺の様子を置いて、ぴょん吉が笑う。

 ぴょん吉は俺の目のまえで丸くなると――衝撃。


 蹴られた。

 宙にいるこの状況。

 俺を蹴って――ぴょん吉が加速した。


 あのやろ……。

 俺を足場替わりにしやがった。


 けどその効果は抜群だった。


 加速したぴょん吉はそのままトウガの方へと飛んでいく。

 相手がこちらに気づく。だが遅い。


「がふぅ!?」


 トウガの悲鳴。倒れる。ぴょん吉がやった。なら俺は――


「サンダー、ボルト!」


 手のひらを掲げ、落とす。

 同時、宙から電撃が一気に地面にいるシーラさんに落ちる。

 落雷だ。


 もうトウガもいない。

 完全死角からの一撃。


 これなら――


 土煙。

 それが晴れる。

 シーラさんは――いた。動いていない。いや、そこにぴょん吉が迫る。


 だが――


「狙いは良い」


「こんの!」


「だが、まだ甘い」


 シーラさんはぴょん吉の攻撃を横によけ、すれ違い様に突き出された右手に手を添え、


 ボキッ


 折った。

 そんな音、早々聞いたことはないけど、それがはっきりと分かるほどに、ぴょん吉の肘があり得ない角度に曲がっている。


「ではな」


 シーラさんの蹴りをもろに食らったぴょん吉は、背後へと飛んでいく。

 まずい。10秒。経ってる!


 瞬間移動。その直後に、飛んできたぴょん吉の体が激突してきた。

 それをなんとか耐える。


「おい、ぴょん吉!」


「ぐっ……」


 ぴょん吉から苦悶の声が漏れる。

 右腕は完全に折れて使えない。それ以上に今の一撃が完全にぴょん吉から戦闘能力を奪っていた。


 失敗だ。

 トウガを倒したものの、ぴょん吉は戦闘続行不可能で、シーラさんはピンピンしてる。


「狙いは良かったぞ。さぁ次はどうする? 何をして我を楽しませてくれる!?」


 そこにあるのは余裕。

 圧倒的強者の誇示。

 くそ、どんな化け物だよ。


 だけど、まだやれる。

 まだ俺は――


「リオさん!」


 声。

 誰だ?


 イトナーーいや、ユノ。


 振り返る。

 一瞬、目が合った。


 その横にいるイトナ。

 彼女も不安そうな視線をこちらに向けてくるのが見える。


 それで、熱していた心が急速に冷めた。


 そうだ。これは俺だけの戦いじゃない。

 彼女がどう生きるか、それを決めるための戦いでもある。


 だから、俺個人の感情や気分で、すべて決めていいわけがない。


「っ!」


 歯噛みする。

 もっとやれる。もっとできた。

 そう思ったから。


 けど、今更だ。

 そもそもが勝ち目のない戦い。


 圧倒的弱者の俺が、シーラさんに勝とうだなんて虫のいい話。

 けど、ここで決断すれば。


 試合に負けて、勝負に勝つことくらいは、できる。


 もちろん、俺自身が汚名をかぶること前提だけど。


 ま、そんなことの方が今更だ。


 ヒーローになりたかった。

 けどなれなかった。


 でもそれは敵がいたとしても、戦う力があったとしても、守るべき人がいたとしても、俺はなれなかっただろう。


 覚悟。


 たとえなんとしてでも勝つという覚悟。

 自分を犠牲にしてでも守り抜くという覚悟。

 自らの汚名をものともしないという覚悟。


 それらがなかったから。


 だからきっと何かをやろうにもダメだった。

 俺はヒーローになれない。

 あの夢の中にいた、自分と似て非なる存在にも。


 けど今。


 ユノという助けを求める少女がいて。

 イトナというあの人を思い起こす存在がいて。

 ぴょん吉という頼りになる味方がいて。

 シーラさんという圧倒的な敵がいて。


 この状況で。俺が取るべき選択肢。


「いいぞ、少年。いや、我が宿敵。本当に世界を渡って来た甲斐があった。さぁ、もっとやろう! まだ。まだまだまだまだ! 我々は戦える!」


 戦える。

 いや、それも無理だ。

 時間切れ。


 あと1分もない時間で、俺は戦えなくなる。守れなくなる。


 それは、嫌だった。


 はっ、お笑いだ。

 時間が切れたら戦えなくなる?

 それはつまり、シーラさんに失望されたくないんだ。

 俺が弱体化して、シーラさんに見限られるのが、たまらなく怖い。


 ユノのためとか、イトナのためとか、俺の理想とか言って。

 結局、シーラさんもじゃないか。


 それでも、いいだろ。

 こんな素敵な女性3人(と1匹)に囲まれる機会なんて二度とない。

 なら、少しくらい格好つけても。

 一世一代の格好つけでも。


 だから――


「お断りします。俺は――――逃げる」

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