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第38話 女神と恋バナと

「ふんふふーん」


 俺の目の前で、半裸――いや、全裸の後ろ姿の女性が呑気に鼻歌を歌っている。


 モイラだ。


 この何もない空間。

 そこで何もまとってないモイラのバストアップが映ってるのは――


「また温泉か」


「え? あ! また来た」


 モイラが首だけこっちを向いて、嫌そうな顔をする。

 もう脳までのぼせてふやけてしまえ。


「はぁ、また死んだの? あんたも懲りないねぇ」


「好きでやってるわけじゃないよ」


「好きでやってるようにしか見えないのよ。この頻度は」


 それからモイラは少し上を向き、


「ったく、ぴょん吉のやつ。途中で任務を放棄して。アレが必要そうね」


 ああ、なんかつながってるとか言ってたっけ。

 見張られてるのと一緒だよなぁ。

 プライバシーもあったもんじゃない。


「見守ってあげてんの。女神様の加護よ? ありがたく受け取れば?」


 知るか。

 というかぴょん吉がどっか行ってくれて感謝だ。

 よく考えたら俺もとんでもないことをしたものだ。


 勢いに乗って告白とか。

 ユノを助けるためとはいえ、いやー、思い切った。


「しかしぴょん吉は……しょうがない。見るか」


「え?」


「んー……ふんふん。ほっ!? はぁ!? へぇーーーーーーー」


 何やら呻いていたモイラが、にやにやしながらこっちを見てくる。


 嫌な、予感。


「いや、君。顔に似合わずなかなかやるねぇ。あの状況で告白とか」


「げっ! なんで!?」


「女神の権能なめんなっての。で? で? 好きになったのは……って一目惚れって言ってたっけ? じゃあ最初から? 下心隠して付き合ってたってこと?」


 うわ、このぐいぐい来るの。

 こいつ、恋愛ゴシップ好きだよなぁ。


「それくらいしか楽しみがないからね。てかあれ? 一目惚れってことは、あの最初にぶん殴られたところからってことでしょ? それってつまり、アレ? もっとぶん殴ってくださいっていう?」


「違うから!」


「いやー、まさか君がそっちの体質だとは。いや、別に引いてない。これから少し君との接し方を考えただけで」


「誤解してるじゃないか!」


「いや、良いと思うよ。天涯孤独で生きる希望を失った寂しさに付け込んで死のうとしている彼女に、『君は生きてていいんだ!』なんてありがちな慰め言葉で籠絡ろうらくするのは1つのやり方だからね。よ、プレイボーイ」


「言い方!」


「でもどうすんの? あのイトナちゃんは」


「え?」


「え? じゃないっての。あの子とは少しならざる時間を過ごしたわけでしょ? あの宇宙での出来事も含めて」


 それは……そう、だとは思う、けど。


 けど、なんだろう。

 彼女のことは魅力的だと思うし、俺だけど俺じゃない俺は彼女に告白しようとしていたくらいだし、そりゃ全然悪くはないと思うんだけど。


「だったらさっさと告りなさいよ。あっちも絶対気があるから。死んだと思った好きな人、それに似た人が突然現れて、『まさかあの人? ううん、ダメ。似てるからって、そんな……でも』という感じで好きになってくタイプ。君はその感情を利用すればいいの」


「だから言い方!」


 てかそんなことしたらユノにどう言えっていうんだよ。


「見たいー、三角関係のどろどろの修羅場が見たいー」


「最悪だな!」


 なんか話に聞くモイラの姉も大概だけど、こいつも十分に大概だ。


「ケチ。減るもんじゃないのに」


「俺の信用が激減するわ!」


 こいつ、やっぱり最低だ。


「あー、分かった。じゃあ今、そっちに向かってるあのシーラって女将軍も一緒に四角関係、もとい3股ということで。いや、なんならぴょん吉もつけて4股」


「俺に何させるんだよ!」


 ――って、待て。


「シーラ? シーラが来るのか?」


「ん、そうみたい。なんかすごい勢いでそっちに向かってる……って、そうか! ユノって子を巡っての争奪戦ってなるわけ! 君も大変だねぇ。告白した以上は、あのシーラってのの求婚を突っぱねなきゃいけないわけだ」


「あ……」


 そういうことになる、のか。

 いや、そうだろう。

 俺の恋人で、かつシーラさんの妻。

 字面だけ見れば相当ヤバい。


「修羅場キター!」


 くそ、面白そうに!


 けどどうしよう。

 ユノを助けるのに精いっぱいで、あとのことを考えてなかった。


 いや、もちろん俺がフラれる可能性だってあるわけで。

 きっとそっちの方が高いわけで。

 ……それはもう、死ぬな。メンタルが。


 でも万が一。

 億が一でものことを考えると……。


 戦う?

 俺が?

 シーラさんと?


 あの300人と戦って、疲れたとか言ってるだけのあの化け物と?


「ちなみに彼女をレベルで直すと300くらいあるね」


「上限とは!?」


 なに勝手にレベル限界突破してるの。


「それに比べて……あー、ちょっと上がったとはいえ、5とか……まだ最初の町じゃん。素人じゃん。これは結果は見えたなー」


「それはそう……」


 かもしれない。


 だけど。


 それでも。


 告白という一大事業をしてしまった以上。

 そうやすやすと、引けはしないのだ。


「ふーーん。なるほど、男の子の顔になった」


「ちゃかさないでよ」


「ちゃかしてないよ。少し感心しただけ」


「ふん」


「じゃあそんな君にご褒美、もといご祝儀をあげようか」


 ご祝儀?


「そっちにぴょん吉向かわせるから。それでアラーギーを使って、メモリバインバインからのドレッドノートすれば、ワンチャン、兆が一、奇跡が起きれば何とかなるかも」


 どんだけ勝ち目薄いんだよ。


「あ、てかダメだ。もうアラーギーは使っちゃった」


「だからご祝儀だっての。ま、奥の手? 君のスマホ、改造した時に電池の90%を使ってぴょん吉のアラーギー強制発動のシステム組みこんどいた。効果時間も伸びて5分は戦える」


「神か!」


「女神だもの」


 あ、そりゃそうか。


 けど、確かにそれは大きい。

 けど、90%か……。

 なんだかんだ色々使ったし、


「馬鹿ね。だから君に持たせたじゃん。急速充電機をさ」


「あ……」


 そっか。あれを使えば90%は超える。


「ま、そのあと10%になるんだけど。忘れてないよね、スマホの充電が切れたら、戻ってこれないって」


「う……」


「だから奥の手。使うか、使わないかの判断は任せるわ」


 なるほど。確かにありがたい。

 ありがたいが……ギャンブルの要素はあるわけだ。


 それでもきっと。

 ユノに何かが起こるのなら、俺は迷いなくそれを使用する。そんな気がする。


「ま、それが君だものねぇ。こちらとしては君が泣く泣くユノって子を手放してもいいし、あのシーラってのと血みどろの花嫁争奪戦をするのも面白いからどっちでもいいけど」


 こいつ……。


「てか普通に戻る前提で話してたけど、それってつまり俺ってまだ生きてる!?」


「ん……あ、そうみたい。よかったね。あのユノって子がなんかえらいことしてたみたい。死者蘇生っての?」


「死んでんじゃん!」


「あー、嘘うそ。でも一歩手前みたいだから、危なかったんじゃないの?」


 適当な……。

 でも、そうか。ユノが……。


「そんなことまでしてくれるなんて、案外俺に惚れてるのかもな。なんて思っちゃったりしてない? この自意識過剰童貞野郎が」


「そ、そこまでは!」


 はい、思ってました。ごめんなさい。


「ま、それも君だものね。楽しみにしてるよ。高杉凛雄の妄想冒険活劇童貞浪漫譚、その新章を」


「それはやめて……」


 けど、ここまで心を砕いて援護してくれるのだ。

 性格は最低、根性もねじ曲がってる、恋バナゴシック大好きの最悪女神で、打算が大いに入っていたのだろうけど。


 まぁ、ありがたい存在なんだろう。こいつ。


「うるさい、さっさと行きなさい」

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