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第16話 危機

 扉を開けると、ユノが飛び込んできた。


「え、ちょっと、どうしたの?」


「あ、えっと! その! は、早く逃げてください!」


「え?」


 突然そう言われても意味が分からない。

 逃げる? 何から?


「とりあえず落ち着こう、ユノ。何が起きたんだ?」


 俺はユノを落ち着かせようとなだめる。

 けどユノの様子は変わらず、オロオロしていて、


「えっと、えっと、あのですね! その皆が、何か殺気だって」


「皆って誰?」


「その、村の、皆です。村長さんが、彼ら――リオさんたちを捕えに行くぞって。今頃睡眠魔法で眠ってるはずだって」


「っ!?」


 やはり、そうなのか。

 あの察知したアビリティ。


 やはりスープに何か仕掛けがあったのだ。


 ってことは……。


「ガァー……ガァー……」


 めっちゃいびきをかいて寝ているアモスは、その睡眠魔法とやらにやられたってわけか。

 やれやれ。


 とりあえず現状は分かった。

 なんで俺たちが捕まえられなくちゃいけないのかは分からないけど。


 うーん、ヤバい。

 あの死神とはまた違ったヤバさだ。


 正直、俺がそんな追われる立場の人間になるとは思わなかったし、正直どうすればいいのか分からない。


「でもなんでそんなことを教えてくれるんだ?」


 ユノだって村の人間だ。

 その決定に逆らって俺たちにその危機を伝えてくれるのは、裏切り行為とみられてもおかしくない。


「それは……その……やっぱり、なんかおかしくて。リオさんにアモスさん、いい人だし」


 くぅ、この子いい子。


 つか、そう思われるほど俺たちの立場は危ういのか。

 今更ながらに現状を再認識。


 えっと、とりあえず俺たちはこの小屋に押し込められて、睡眠魔法のスープを飲まされて眠らされて、そこを捕まえられようとしているということ。


 うん、訳が分からない。

 なんで俺たちはそんな目の敵にされてるの?

 今日、初めて会ったのに?


 とはいえユノがわざわざ伝えてきたってことは、それは間違いなく真実。


 となればユノの言う通り逃げるしかないわけだけど。


 けど逃げると言ってもどうするか。

 まず逃げる場所がない。

 それにまだ疲れてる。

 それから――


「グガーーー」


 アモス(こいつ)をどうにかしないといけない。


「おい、アモス。起きろー」


「グーーー、グーーーーー」


 ダメだ。起きる気配がない。

 完全に眠りこけている。


「くそ、とりあえず運ぶしかないぞ」


 とはいうものの、完全に意識を失った人間というものはえらく重いもの。

 筋力も並みの俺が持ち運べるだろうか。

 その前に村人に見つかって捕まるだろう。


「ならどこか近いところに身を隠すか? 夜だから行けるかも。だけどこっちも土地勘ないし。危険だよな。となると、やっぱり……」


「あのー、どうしましょう。私の家に来るとか……」


「いや、それは駄目だ。これ以上迷惑はかけられない」


 きっと、あの夢で見た男なら、そう言ったはずだ。

 彼女を巻き込んでしまうなんて、そんな不本意なこと、男らしくないことをしていいわけがない。


「だからこそ、もう行ってくれ。ここにいたらユノも危ない」


「あ、はい。えっと……でも」


「大丈夫。こっちはなんとかする。ありがとう」


「……はい」


 ユノはまだ納得していないようだけど、俺に追い出される形でユノは外へと出ていった。


 ふぅ……よし。


「いや、マジ怖い! どうしよう!? なにこれ、なにこの状況!? おいおいおいおい、勘弁してくれよ!」


 ユノがいなくなったところで、抑えていた自制心が崩壊し、頭を抱えて悶える。


 あー、もー! マジでどうしてくれんんだよ!

 なんでこんなことに。

 真剣にどうしよう。真面目にどうしよう。


 分からない。

 こんな事態に陥ったことなんてないから、解決策なんて思いつくはずもない。


 何かしないといけない。

 けどそれが何かは分からない。


 だから何もできずにその場でうずくまっていると、


「おい、てめぇ何やってんだ?」


 声が聞こえた。

 この声。


「ぴょん吉か!?」


 顔を上げてみれば、そこには真っ白な毛のウサギがいた。


「てかどこにいたんだよ! 急にいなくなって!」


「あーわりーわりー。ちょっと色々気になってな。村中を見て回ったんだよ。ま、収穫はあったな」


「ったく。俺たちが今どうなってるか知らず気楽な」


「ん、聞いてたぜ。面倒なことになってそうじゃん」


 なんでそんな楽しそうなんだよ。


「じゃ、逃げるか」


「おいおい、アモスを置いてく気か!?」


「え、だって他人じゃん。いいじゃん、置いてこうぜ」


「よくない!」


 なんてひどいことを言うやつだ。

 人間じゃねぇ。

 人間じゃないけど。


「ダメだ。アモスも連れてく。そうじゃなきゃ意味がない」


「何の意味だよ」


 言ってもきっと分からない。


 それは俺も説明できないからだ。


 けどここでアモスを見捨てるなんて嫌だ。

 そんなことをしたら俺は俺を許せない。


 命を大事にというのは重要だ。

 けど見捨てたら俺の命じゃなく、心とか、そういうものが死んでしまう気がした。


 だから嫌なものは嫌。

 それに、そんなことをしてしまったらーーあの同じ名前を持つ俺に、追いつけなくなってしまう。そう思った。


「それでも俺はこいつを連れてくぞ」


「ったく、しょうがねぇな!」


 ぴょん吉は舌打ちすると、アモスの方へとぴょんぴょん跳ねる。


「おーーーーい、生きてるかーーー?」


 ぺしぺしとアモスの頬を叩くぴょん吉。

 いや、それじゃ起きないって。


「あー、無理だな。めっちゃ寝てるじゃん。じゃあしょうがないな。ちょっとやってみるか」


「やるって何を?」


「デバフ解除」


「なにそれ?」


「こいつには今、睡眠の魔法がかかってる。それを解除してまともに戻そうってわけだ」


「へぇ、そんなことができるのか」


「ま、俺様だし? モイラ様の教えを受けたエリートだし? これくらいはこの姿でも当然だ。んじゃ、やるぞ。あーーーーーーーー、起きろ起きろー、おーきーろー! どりゃ!」


 木魚みたいにアモスの頬をぺちぺちと叩いたかと思えば、急に飛び跳ねたぴょん吉は、そのまま空中で回転してアモスの顔面にラビットキックを食らわせた。


 そんなで起きるのかよ。


 ――が、


「いってぇぇぇ!」


「起きた!?」


「当然だ、俺様だぜ」


 ぴょん吉がどや顔で自慢してくるのが、ちょっとイラっとするけどしょうがない。

 今はそんなことで争ってる場合じゃない。


「アモス、起きれるか? 逃げるぞ?」


「え? 何が?」


 まだ混乱しているアモスを無理やり立たせようとする。

 だがアモスはぐでっとして動きが鈍い。


「ダメ、だ。体がだるい……」


「くそ、睡眠魔法っての後遺症か? おい、ぴょん吉、ダメじゃねぇか」


「うるせー! そこまで面倒見切れるか!」


 などとギャーギャー口論していると、


『アビリティ発動。危険察知』


「っ!」


 来た。

 このアビリティが今発動するということは、


『おい、まだ起きてるぞ!』『早く包囲しろ! 逃げ道を塞げ!』『よいか皆の衆、絶対逃がすでないぞ!』


 外が騒がしい。

 もう来たようだ。


「おい、どうする。ヤバいぞ」


 ぴょん吉が焦り顔でこちらを見上げる。

 それほど切迫しているのか。


 けどこれは完全に包囲された気配。

 そこからアモスを連れて逃げるなんて……。


 どうする、どうする、俺!

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