第3話 噂の話
「ところで凛雄」
陽明が改まって、真剣な目でこちらを見てくる。
「なんだよ改まって」
「実はとんでもない情報をつかんだんだ。それをお前と検討したくってな」
「はぁ、またかよ。お前が持ってくる情報ってどこから仕入れてくるのか分からないけど、どれもこれも眉唾どころかトンデモの方向の話ばっかじゃねぇか」
「そんなはずないだろ。俺が今までトンデモ話を持ってきたことがあるか?」
「徳川の埋蔵金は実は校舎の裏山に埋まってるって話。宇宙人はすでに地球侵略の終えていて、駅前のタバコ屋のばあさんが実は宇宙人だって話。二子玉川の中洲にはカッパが住んでいるって話。日本を裏で操る黒幕はこの近くの国立公園の地下を基地にしているって話。などなど」
その調査のためになぜか俺が駆り出されては、色々ひどい目に遭ったのは別の話。
てかこうやって例を挙げれば、こいつも俺の夢のことを笑えないだろ。
「……ふっ、男のロマンってやつは男にしか分からねぇのさ」
「俺も男だからな? 男だけど分からねぇんだよ、そのムー的な何かがよ」
「お前、ムーを馬鹿にするな!」
「ムーは馬鹿にしてないが、お前は馬鹿にするに値するよ」
「むぅ、凛雄め。返しがうまくなったな」
「うるせ。で? とりあえず聞くだけ聞くよ。なんだよ」
「さすが凛雄。よっ、男らしいね」
てかもしかして、こいつのこういった話を聞いてたから、ここまで親しくなれたんじゃないか?
類は友を呼ぶ?
俺はここまで変態じゃないぞ。
「お前『測量鋲』って知ってるか?」
「そんな病気聞いたことないな」
「病じゃなくて鋲な。ボタンだよ。見たことないか? アスファルトにボタンみたいのがあるの。測量のために設置されるものなんだけど」
そう言われ、通学路にもいくつか見つけたことがあるのを思い出す。
あれって測量鋲っていうのか。初めて知ったわ。
「ふーん、で? それが?」
「実はな……その測量鋲の中には異世界に通じるゲートがあるんだと。で、だ。その中で当たりを引いたら、異世界に飛ばされるっていう噂だぜ」
「よっし、それじゃあ次の予習をするか」
「馬鹿、まだ話は終わってねぇぞ」
「終わったよ。俺の中でお前が。勉強のし過ぎでついにおかしくなったか」
「馬鹿野郎! 俺は勉強なんてしたことねーよ!」
くそ、そうだった。
そんな奴でも学年トップを争うのだから、世の中本当に不平等だ。
「あのな。そんなラノベの異世界転生的なもの? 現実世界にあるわけないだろ。そんなの誰だって踏むだろ。そんで異世界に飛ばされたなら、今頃、そっちの世界と異世界交流できてるわ」
「いや、これが真実味がある情報なんだよ。ここ数か月で行方不明になった人間が10人ほどいるんだけど、俺はその測量鋲を踏んで異世界にいったと考えてる」
「そんな行方不明者なんて、全国で毎日何人も出るだろ。どうせ駆け落ちか夜逃げかそんなとこだろ」
「でだ、こいつを見てくれ」
「聞けよ、話を」
といいつつ、陽明が取り出したスマホの画面に視線を落とす。
地図アプリだ。
ここ――今いる高校の近くに1つ、駅の方に2つ、少し離れて隣町のあたりに2つの小さな円が示されている。
「なんだ、これ?」
「その消えたっていう人たちの通学路と行動範囲を重ねてありえそうなエリアだな。日の通行量と被害にあった頻度を鑑みて、ここら辺にその測量鋲があるとにらんでる。もちろん、人が目の前で消えた、なんて目撃談もないことから、人通りの少ない場所ってのも考慮に入れてる」
おい、誰かこいつにちゃんとした勉強の活用法を教えてやってくれ。
才能の無駄遣い過ぎる。
つか、これってあれか。
埋蔵金とか宇宙人のおばあちゃんとかカッパと同じか。
今日一緒に行こうぜって流れか。
だが、陽明の答えは俺の斜め上を行っていた。
「調査よろしくな」
「は?」
「いやー、ちょっと今日は俺忙しくてさ。部活あるし、女の子と遊ばなきゃいけないし?」
「お前、本当に月のない夜は気をつけろよ?」
ちなみに美月だけじゃなく、俺の殺意メーターも上がったから危険度は2倍だ。
「大丈夫大丈夫、そん時はお前を呼ぶから」
「なんで俺? てかそんな修羅場にいたくないんだけど」
「いや、俺はお前のことを信じてるんだ」
「陽明……」
いつにない陽明の真剣な表情に押された。
だがすぐにその顔は破顔すると、
「だってお前は銀河を股にかけるスーパーエージェントだからな! 美月から守ってくれよ! 時間掌握ってな! ぷはは!」
陽明の顔面にデミグラスそばつゆをぶっかけた。