第11話 この世界
「手を組む?」
「その通り。さっき言ったように、ボクの目的は東の対魔王戦線で活躍することだからね。強い仲間が多ければそれだけ重宝されるってわけさ」
うぅん、俺のこと強いって言ってくれてるけど、俺ってまだレベル3だし、使用制限のあるスキルしか持ってないからなぁ。
ま、勘違いしてくれる分にはいいか。
俺としてはその間に情報収集ができるわけだし。
「その前に色々聞いていいかな」
「どうぞ?」
「対魔王戦線ってなに?」
「…………本気で言ってる?」
まぁそうなるよなー。
けどそういう時の返しはさっき思いついた。
「なにぶん田舎から出てきたからね」
本当は別世界から来たんだけど、それは言えないし。
「ふぅん、なんてところ?」
「えっと……日本」
「二ホン? なるほど、聞いたことないな。ボクより田舎の出身がいるとは」
本当は一応都会生まれだけど、これも黙っておこう。
「分かった。じゃあ少し話をしようか。といってもそんなに難しいことじゃない。このイット大陸はワンノ王国によって統治されているんだけど、2つの脅威が存在しているんだ。それが東の魔王と西の魔王さ」
と言いながら、アモスは食器の片づけられた机に地図を広げる。
地図にあるのは六角形の形をした大陸で、そこに色々と書き込まれている。
これがイット大陸だろう。
元の世界で言えば、オーストラリア大陸みたいなものか。
「ここがボクたちが今いる場所、ハマリの街だ。そしてワンノ王国の王都ナワンバはここだね」
アモスは最初に大陸中央の少し左上を指さし、それをゆっくり横へずらして大陸の右下あたりを示す。
「めっちゃ遠いじゃん」
「まぁそうだね。だからこそ、ここら辺もまだ平和なわけだけど。外に出てもモンスターとかほとんど見なかっただろ?」
「え……」
モンスターがいない?
いや、だとしたらあのオオカミはなんだ?
あんな凶暴で危険極まりないのが近くにいたんだけど、知らないのか?
「どうかした?」
「え、いや……」
ただ、なんとなくそれを喋るのは気が引けた。
別にめんどくさいわけじゃない。
あの強力な化け物ともう一度戦って、生きて帰れる気がしなかったからかもしれない。
「なんでも、ない」
「そうか。じゃあ話を続けよう。この王都ナワンバからさらに南に行った、この山岳地帯。ここはデスバレーと呼ばれていて、そこに魔王が住んでいるという。今も、この周辺ではワンノ王国軍と魔王軍が火花を散らしているはずだよ。そこにボクは行こうってわけ」
「へぇ……」
そりゃこれだけの近さなら、気の休まることもないだろう。
わざわざそんなところに行くのは、よほど奇特か、あるいは夢見る青年かでしかない。
「かれこれ100年以上争ってるからね。魔王を倒して名を上げようって人が王国軍に次々と集まっているのさ。かくいうボクもその1人だ」
「なるほどねぇ」
王国対魔王。
まさにファンタジーの王道の世界ってわけだ。
ただ、そこには少し違った側面があるわけで。
「それで、西の魔王ってのは?」
「それはこっちさ。ニャク地方というのがここらへんなんだけど、そこら辺を支配する魔王だと言われている」
アモスは、今俺たちがいるというハマリの街から左にずっと行った、西海岸の辺りをぐるっと示す。
「ここら辺もワンノ王国の統治下なんだけど、王都から距離があるし、そこまでちゃんとした支配地じゃないんだ。そのせいか、昔から魔物が跋扈して色々大変だったって聞いてるよ」
「だいぶざっくりだな」
「そりゃあまり情報が入ってこないからね。ほら、これ見てよ。大陸を縦断するこのレガシー山脈。このせいで、情報も人も、西部からはこっちにあまり入ってこないんだ」
イット大陸の中央より少し左に行った辺りに、上下に貫通するうねうねの線を指さしながらアモスは言う。
この世界、どうやら電気とかはなさそうなので、テレビや電話というものが全くなさそうだ。
つまり東西で情報が交換するには、直接人が動かないといけないわけで。
確かにそれなら西のことをあまりよく知らないというのは納得できた。
「風の噂では、流れてきた何者かによって魔王が殺されて、群雄割拠のニャク地方を統一した人物がいるっていうけど。それが人間なのか魔王なのかもよく分かってないんだよね」
「ふーん」
とりあえず大体分かった。
まとめると、まず、この世界は魔法が使える世界。
そんで魔物とやらがいて、魔王に率いられた軍勢と人間は戦っている。
それが大陸の東側で、ワンノ王国という人間の王国と魔王軍が戦っているとのこと。
対して西にも魔王がいるらしいが、大陸中央を縦断する山脈のせいで、情報はあまり入ってこない。
それで俺たちは今、この大陸中央部辺りにいるので、アモスは東の王都に行きたいということになる。
こういう場合、やっぱり王都に行って王様から『よく来た勇者よ』とかいって魔王軍と戦うのが本筋だと思うけど。
「おい、てめぇ、分かってんだろうな」
ぴょん吉が地図とにらめっこしながら、俺に視線を向けてきた。
それに対し俺はうなずく。
そう。正直、俺にそこまでする義理はない。
俺の目的はあくまで元の世界に戻ることで、魔王軍との戦いは二の次なのだ。
そのためにはオリハルコンとお金を稼ぐ必要があるわけで、死ぬ危険性が大いにある東には用はないのだ。
「ふふ、君も情勢が読めたようだね。なら今こそ、王都へ行って魔王討伐で名をあげようじゃないか!」
「うん、分かった。行かない」
「君ならそう言ってくれると思った。それなら善は急げだ。すぐに王都へ……って、へ? 行かない?」
「ああ、行かない。悪いけど俺には関係ないことだから」
「な、ちょ、おい! ちょっと待ってくれ! なんで? 君も魔王を退治しに田舎から出て来たんじゃないのか!?」
うぅん、何て言ってやろうか。
ちょっと考えてから、当たり障りのない返答をすることにした。
「うちは貧乏だから、稼がなくちゃいけないんだよ。あと大量のオリハルコンが必要なんだ」
「そんな、そんなことで……」
「そんなことでも俺にとっちゃ大事ってことで。それじゃ、ごっそさん。あ、道具のことは誰にも言わないから。心配しないでくれ」
そう言って俺はさっさと立ち上がると、そのまま店の外に出る。
「安心したぜ」
露店が並ぶ道を歩いていると、ぴょん吉が俺の肩に乗った。
人ごみに踏みつぶされないようにだろう。
「ん、まぁしょうがないだろ。俺の目的と彼の目的は違うんだから」
「ふん、ちゃんとやることを見失ってねーようだな。誉めてやろう」
「そりゃどうも」
「けど、良かったのか? オリハルコンについて聞いとけばよかったんじゃないのか?」
「あ……」
確かにその通りだ。
返事を先延ばしにして、もっと色々聞くべきだった。
正直、人見知りな俺としては、あんなにすんなりと初対面の人と話ができたのは奇跡に近い。
再び誰か別の人に聞くにもハードルが高すぎる。
「ま、しょうがないさ。それに、俺にはそういった腹芸はできないしな」
「はっ、泥棒で貧乏で役立たずな上に甘ちゃんだな。そんなんじゃ、いつまで経っても帰れないぜ?」
「主義主張を変えてまで、帰りたいとは思わないよ」
「格好つけてるとこ悪いけど、本心じゃないだろ」
「バレたか」
そんなどうでもいいやり取りをしていると、後ろから声が聞こえた。
「おーい! そこの……っていうか名前! えっと、そこの……イケてる兄さん!」
アモスだ。
けど残念だな。
人を褒めるのは苦手のようだ。
「ちょ、おい! 無視するなっての!」
ようやく追いついたアモスが、俺の少し前を歩きながら呼吸を整えながら突っかかってくる。
「もう……なんで……先行くんだよ」
「え、だっておごってくれたんでしょ?」
「いや、そうだけど。まだ話は終わってないだろ」
「俺の方は終わったよ」
「いや……そうだ。まず名前を教えてくれ」
「名無しの権兵衛」
「ふむ、ナナシ・ノ・ゴンベーというのか」
「ゴメン、嘘デス。凛雄だよ」
さすがにゴンベーは勘弁だった。
まぁ名乗るくらいはいいだろう。
「ふむ、リオか。良い名じゃないか」
「そりゃどーも」
名前を褒められても複雑だなぁ。
「で、だ。君、お金が必要なんだろ? ならなおのこと王都に行くべきだ。討伐軍に入れれば、それだけで大金が手に入るぞ? さらに魔王、じゃないにせよ、幹部を倒すだけですごい報酬がもらえるんだ!」
「ふーん、そうか」
「遠距離から来た人にも安心の、全寮制で三食付き。完全週休2日制で、日中にトレーニングをこなせばあとはフリー。危険手当のほかボーナスはなんと年2回で、年3回昇給があるって話だ!」
どっかの企業かよ。
いや、国の下で働くんだから公務員みたいなものか。
……やらないけど。
「だったらよかったじゃないか。いいところで働けるんだろ」
「いや、だからそれを君も一緒にどうだ、リオ。君ならできるぞリオ。いや、君とボクならすぐに昇進できるはずだ、リオ」
「ええい、リオリオうるさい!」
やっぱり名前を教えなかった方がよかったか。
でもそれはそれでうるさそうだしな……。
なんといって断ろうか。
色々理由を探していると、
「ん、あれは……」
と、そこでとある人物を見つけた。




