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第6話 その出会い

 女神デバイスを起動して、起動直後のホーム画面に行く。

 そこには例の俺のアバターとパラメータ、そしてメニューの列が並んでいる。


 そこにポップアップで文字列が表示され、


「『新しくメモリーが追加されました』か」


 ぴょん吉は俺の肩に飛び移り、並んでスマホの画面を眺める形に。


「それ、開いてみろ。スキルってやつがあるはずだ」


 ぴょん吉に言われるがままに新しく追加されたメニュー欄から『メモリー』を開くと、『戦闘記録』『コレクション』と並んで『スキル』という項目があった。


 それをタップすると、何やらずらっと目次が並ぶがそのすべてが『???』となっている画面が開いた。


「これって、図鑑?」


「ああ。それでソートだな。既知ってやつ。そうだ」


 ぴょん吉に言われるままに操作すると、図鑑がソートされて『???』が一斉に消えた。

 既知。つまり俺が知っているスキルということ。


 そこにあるのはもちろん『レッド・メルクリウス・アトミック・ファイナル・クリティカル・ボンバー・ファイア』と『ドレッドノート』、そして――


「リヴァイヴァル。これか」


 1つだけ項目が薄いグレーになっているのは、俺が取得していないスキルだからか。

 それでもタップに反応した。


 画面が遷移し、表示されたのはスキルの内容。


 正直、こういう図鑑系はそこまで興味ない。

 だって文字だらけで読む気が失せるから。


 ただそれは杞憂だった。

 杞憂というか、何もなかった。


 スキル『リヴァイヴァル』は、俺が直接取得していないからか、そのほとんどが『???』で埋め尽くされている。

 読み取れる情報はスキル名と、


「所属、魔法の世界。ジャンル、魔法。効果、相手に魔法力を注入して傷を治す回復魔法。効果量は魔力と打撃力に比例する。これだけか」


「ふん、役に立たないやつだな」


「俺のせいかよ。つか、なんかおかしな単語がないか? なに打撃力って? 回復魔法なのに?」


「おそらく魔力の伝達手段がそれなんだろう。あのガキ娘がてめぇをぶん殴った。それは回復魔法を発動させるために必要だった、ってことか。ちっ、つまんねぇ」


「なに残念がってんだよ」


 そうか。あれは俺が嫌いとかじゃなく、俺を助けるためか。

 そのために全力で俺をぶん殴ったと。

 ……なんだろう、嬉しいことのはずなのにこうも釈然としないのは。


「はぁ……ったく。つまんねー時間使っちまった。おい、もういいだろ。さっさと行くぞ」


 俺の肩からぴょん吉が飛び降りると、俺のわき腹を蹴って急かしてくる。


「おい、慌てるなよ。てかどこ行くってどこに」


「あん? 街に決まってんだろ。このままオリハルコンもなしに、手ぶらで帰れってのか!?」


 ああ。そうだ。

 当初の目的はそうだったけど、いきなり色んなことが起きて忘れていた。


「それはそうだけど、今ここがどこなのか……」


 あのオオカミから無我夢中に逃げ回ったせいで、ここがどこかも分からない。

 地図はあるけど、太陽は今、ほぼ中天のためどっちが北かも分からない。


 とりあえず地図を起動しながら動いて、それで方向を確かめる手もあるけど、残りの電池量を考えると難しい。

 残り53%だ。


「てめぇ……本当に頭がお花畑のたい肥野郎だな。よくそんなお粗末お気楽おちゃらけで生きてけんな」


「悪かったな。これでも精一杯生きてんだよ」


 ウサギに馬鹿にされる高校生。

 うん、もう情けないとかそんなのはどうでもいいや。


「あのガキ娘が走ってった方があるだろうが。こんな何もない大草原に、散歩ってこともねーだろ。バスケットも持ってたしな。ありゃどっかへのお使いだ。そのお使いの行く先っつったら人がいるとこに決まってんだろ」


「おお、なるほど! 名推理だな」


「なるほど、じゃねぇ! こんな簡単なこともわかねーのか。ちょっとは考えやがれ!」


 言いながらべしべしとラビットキックをしてくるぴょん吉。

 けど前よりも痛みを感じない気がする。

 これが慣れってことか。


 ともかく。

 進むべき方向は決まった。

 やるべきことも決まってる。


 ならあとは為せば成る。

 それだけだ。


「あとはまたあのオオカミに出会わないよう願うしかねーな」


「ぅ……」


 どうしてこうも憂鬱になることを言うのか。

 いや、確かに今の俺らは切り札も何もない状態。


 気を付けて進みながら、見かけたら全力疾走するしかないだろう。


 と、憂鬱な気分を抱えていると、


「そこの――」


「え?」


 突如呼ばれた。

 振り返る。


 そこには1人の女性がいて――


「少年、汝の名は?」


「え? いや、えっと……その」


 名前を聞かれているだけなのに答えられない。

 口がうまく回らない。


 だってありえないだろ。


 それはこのだだっ広い平原。

 そこに今まで影も形も気配もなかった人物が突如として現れたから。


 ――――ではもちろん、ない。


 そこにいたのは、はっきり言って見覚えのない人物。

 対人能力が壊滅的な俺でもそれは断言できる。


 だって、一度見たら忘れられないような容姿をしているのだから。


 まず目につくのがその圧倒的な高身長。

 160ちょいの俺を見下ろす形だから、170後半、いや180は超えているだろう。


 それでいてがっしりした感じでも、ひょろひょろな感じでもない、スラっとしたまさにモデル体系のお姉さんだ。


 さらにそのスタイルの良さを強調するかのような、ぴったりとした紺色のレザーっぽい服装。

 しかもところどころがはだけていて、紺色と肌色がミックスしたその配色にはエロティシズムを感じる。


 そして何より。

 それら素晴らしいボディバランスをしておきながら、何より目を引くのがその頭部。


 黒よりも濃い流れるような長髪に包まれた顔は、その体躯に合わせたかのように小さくそしてしゅっと伸びている。


 何よりその瞳。

 イトナのようなキリっとした感じでもなく、モイラのようなだらしなくもなく、ぴょん吉のようなギラギラでもなく、先ほどの少女のようにおっとりでもない。

 三白眼から放たれる、思わず平伏してしまうような意志の力を示す圧倒的な眼力。


 そんな美女にいきなり話しかけられたのだから、それはもう戸惑うしかない。

 もちろん俺じゃない可能性もあったけど、この四方10メートル以内に俺以外の人間はいないのだから、これはもう俺に対してと思っても間違いないだろう。


「名前は?」


 女性は、念を押すように再び名前を聞いてくる。

 その迫力に押され、逆に俺は口が滑らかに動く。


「えっと、凛雄、です。高杉凛雄」


「リオ、か。良い名だ」


 良い名。

 良い名?

 良い名!?


 おお、生まれて初めてだ。

 こんな風に名前を褒められるなんて。

 お母さん、ありがとう。凛雄って名付けてくれて。


「分かった。邪魔したな」


 そう頷くとそのまま俺から目を離す。


「あ、えっと、ちょっと待ってください!」


 思わず制止を呼び掛けていた。

 あと1秒遅かったら、彼女が目の前から消える。

 そんな予感がしたから。


「なんだ?」


 だが、どうしよう。

 思わず言ってしまったけど……何ら意味があって呼び止めたわけじゃない。

 ただもう少し彼女と話したい。

 そう思ってしまっただけなんだ。


 だから普段使わない脳みそをフル回転させて、彼女への問いを検索する。

 そして2秒後にひねり出した答えは、


「えっと、お名前は?」


 本当、俺ってバカだろうか。

 ぴょん吉に馬鹿にされるのも分かる気がする。


 これはさすがにないな。

 そう思ったが、


「シーラ」


「え?」


「我の名はシーラ」


 答えてくれた。

 助かった。

 神。女神だ。あのモイラとかいうのとは全然違った意味で。


 シーラ、さんか。


 いい名前じゃないか。

 この世界だからやっぱり海外の名前だけど。


 高杉シーラ。

 うん、ありだ。


 しかも一人称が我とか。

 ある意味ポイント高いだろ、これ。


「ふっ……」


 女性――シーラさんは小さく鼻を鳴らすと、再び口を開く。


「先ほどのオオカミな。あれはもう気にしなくていい。汝らを襲うことはもうない」


「え?」


「では再見」


 意味深な言葉を言ったと思った途端、次の瞬間には女性の姿が消えていた。

 影も形もなく消えていた。

 瞬間移動?


 あるいはめっちゃ素早く走り去っていった?


「おそらく投影魔法だろう。今の奴は離れたところにいて、そこから自分の姿をここに投影した」


 いきなり逃げるようにいなくなったことに正直悲しかったけど、ぴょん吉がそう補足してくれたおかげで立ち直った。


「ホログラムみたいなものか?」


「なんだそりゃ」


「いや、いい」


 逆に言えば、そこまでして自分に会いに来たということじゃないか?

 それに再見ってことは、また会いましょうってこと?

 そう考えていいのか?


 名前を聞かれて、ちゃんと名乗ってくれて、また会いましょう。


 おいおいおいおい、これは期待しちゃうじゃないかよ!

 危機的状況は続いているけど、やる気がむんむんわいてきますとも! ええ!


「よし! 行くぞぴょん吉!」


「……なんかムカつくから蹴っとく」


 意気揚々と進む俺の前に、いかなる困難も障害にはならない。

 その時は本気でそう思った。

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