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閑話4 ある村の少女ユノ(魔法の世界)

「いい天気……」


 空を見上げ、髪を撫でながらつぶやく。


 空は快晴。

 抜ける風。緑の匂いが気持ちいい。


 座り込んだ膝の上で男の子が気を失ったように眠っている。

 さすがに命の恩人を地面に放置することもできず、彼が目覚めるまで、こうしているつもりだった。


 私の唯一と言っていい得意な魔法。

 リヴァイヴァル。


 私の大事な、お母さんとの思い出の魔法。


 けど、この魔法のせいで、村では白い目で見られてる気がする。

 純粋の魔法力でないとか、回復魔法に打撃が入る意味が分からないとか、よく分からない。


 一度、村の村長さんが足をくじいた時に、私が治療を買って出たことがあった。

 結果はさんざんだった。


 くじいた部分は治った。

 けど、勢いがありすぎて村長さんの足の骨を折ってしまったのだった。

 今思えば、力加減を間違ったというのもある。


 それ以来、私は役立たずの烙印を押され、村の人にも、養ってくれている養父母の2人にも冷たい目で見られることになった。


 役立たずの間抜け。

 役立たずの魔法。


 私としては、自分がどうこう言われるより、お母さんとの思い出の魔法を悪く言われている方がとても悲しかった。


 私があの時、力加減を間違えなければ。

 あるいは自分が馬鹿にされるだけで済んだのかもしれない。


「大丈夫、だよね?」


 ふと思いついて眠ったように倒れている男の子を見下ろす。


 慌ててフルスイングで行ってしまったから大丈夫かな。


 手を彼の顔に近づける。

 生暖かい吐息。命の証明。


 大丈夫、生きてる。


 それだけでほっとする。

 なんてったって、私を命がけで守ってくれた人だ。


 でも、なんでこの人は私を守ってくれたんだろう。

 私はこの人を知らない。

 だからきっとこの人も私を知らない。


 なのに、死ぬかもしれない危険を冒して助けてくれた。


 それにこの服装。とても不思議。


 みやこの方では流行ってるのかな。


 大陸中央部にあるとはいえ、こんな片田舎では都の流行なんて分かるはずもないけど。


 それともう1つ分からないことが。


「!!」


 さっきからピョンピョンと私の周囲を飛び回っているウサギさん。

 何か言いたそうにジェスチャーをしたり、時に私を足蹴りしているけどよく分からない。


 都の方ではウサギさんを飼うのが普通なのでしょうか。


 それともう1人、綺麗な女の人がいたような気がするけど、どこかへ消えてしまったのか分からない。


 分からないことだらけ。

 これまでのただただ一生懸命に働く毎日からは想像できない新しい何か。


 そもそも、こんなところにあんなモンスターが出てくるなんて今までありえなかったのだ。

 だからこそ、お義父さんやお義母さんたちも私を街に送り出してくれるわけで。


 そこから何か変わったのだろうか。

 あるいは何か狂ったのだろうか。


 分からない。


 分からないことだらけ。


 だからもう考えないようにした。


 それを運んできてくれたこの男の子。

 その命を救えただけでも、とても満足。


 そう思えばこの頭から伝わる温かさも不快ではない。


「いい天気……」


 もう一度、つぶやいた。


 風が、ふわりと頬を撫でる。


 膝にある男の子の重さも熱も、今は気にならなかった。

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