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第11話 天死

「いやー、あんたらみたいのは初めて見たさ。あのデス・デザート・デスを歩いて踏破しようなんてよ。俺っちがいなきゃ、死んでたところさ」


「本当にありがとうございます。こいつと来たら本当に無計画で。行ける行ける、とか言って聞かなかったんですから」


 イトナが猫なで声で答える。

 誰だよ。


 時刻は夜。

 暗黒に染まった荒野の中で、俺たちは焚火を囲っていた。


 こんなことになったのは、ある意味幸運だった。


 死神を撃退して、進む戻るの問答を繰り返していると、


「おめら、なにやってんだ?」


 ちょっと訛りの入った男の声がした。


 見れば数メートル先に、車らしきものに乗る1人の男がこちらを物珍しそうに見ているのを発見した。

 言い合いに必死で接近に気づかなかったらしい。

 あとで知ったことだが、この世界の車はホバータイプで接地していないため、ホバー音を除けばランドローバーのようにガリガリと地面を削るような激しい音やエンジン音はしないということ。


 ともあれ、この世界に来て初めての人――事情を知ってそうな現地の人――に出会えたことに狂喜した俺は、必死に頼み込んで車に乗せてもらうよう懇願した。

 それがこの世界の住人、ファットシさんとの出会いだった。


 イトナは不満そうだったが、出された水筒にごくりと唾を飲むとあとは簡単だ。

 今ではファットシさんにすり寄って、俺には使わない敬語で俺をひたすらに罵倒するのだからたまったものじゃない。

 まぁ移動手段と食料の差は確かにあるけどさ。


「……寝ます」


 と、食べるだけ食べて、喋るだけ喋って満足したのか、イトナは車の荷台に乗ると借りた毛布を敷いてコロンと寝転がってしまった。

 どこまでも自由な奴。

 まぁまだ重力が辛いのだろう。そう思うことにした。


「あの、すみません。こんな素性も分からない俺たちに、こんな……」


 イトナが寝静まって、改めてファットシさんにお礼を言うことにした。

 イトナの無礼も含めて。


「いいさいいさ。この世界では、人間は助け合って生きてかなきゃいかんべ」


「あの、聞いていいですか。この世界について」


「んん? どういうことさ?」


 懐疑の視線を向けてくるファットシさん。

 それもそうだろう。

 異世界から来ましたなんて言って信じられるかどうか。


「あ、分かっただ。おめたち、異界の巫女様たちのお仲間だべ」


「へ?」


 なんて言おうか迷っていると、ファットシさんは勝手にそう言って頷いてくれた。


「んだ。そんなら見たこともね奇天烈な格好も説明つく。巫女様はな、この世界に表れた救世主だ。そん巫女様が言っとった。見慣れぬ人を見たら保護しなさいと。それが天死てんしたちに勝つ、唯一の方法だと」


「えっと……」


 いきなり色々言われて訳が分からない。

 巫女? 救世主? 天使?


「あ、いきなり言われてもわからんべ? ちゅーても俺っちもよく知らねんだけど。ま、巫女様が私の元に連れてきなさい、と言っとったから。詳しいことは巫女様から聞いてくんろ」


「は、はぁ……」


 まだよく分からないけど、どうやらこの世界と俺たちみたいな異世界から来た人たちについて知っている人がいるということだ。


 ということは、ひとまずこの人についていけばその巫女様に会えるってことか。


「任せとけ。おめたちは俺っちが巫女様んとこに連れてったる。そんかわり天死てんしなんかぶっ倒してくれよ」


 と、二つ返事でうなずいてくれたファットシさん。

 いい人だ。


「ところで巫女は分かったんですけど、その天使って?」


「いや、天使じゃなく、天死てんしだ」


 ファットシさんは、フラットな発音でそう呼んだ。

 天使、じゃなく天死てんしと。


「これなら俺っちも説明できるさ。天死てんしはこの世界に突如として現れた災害さ。機械の体を持ち、黒いフードをかぶり、巨大な鎌を持つ天から舞い降りた死の使い。だから天死てんしだ」


「あの死神みたいなの」


「おめ、もう会っただか!? よぅ生きのびたな」


「あー、まぁ」


 ここで倒した、とか言ったらなんて言われるか。

 厳密にはもう、その手段は存在しないのだからいざという時に頼りにされたら困る。

 そんな計算も働いた。


「そうだ。その天死てんしが俺っちたち人間を滅ぼし始めたんだ。今じゃあ残っている人類は1万もいね。対する天死てんしは数万もいるってのによ」


「数万……」


 戦いは数と言った名将がいたけど、まさにその通りだ。

 その戦力差なら、1人に1つブラスターを持っても勝てるかは微妙だ。


「んだ。だからこうやって斥候を兼ねて、巫女様の言う異界のお仲間を探してるってことだ」


「はぁ……」


 この世界のこととか、あの死神――いや、天死てんしか――のこととか聞いたものの、まだしっくりこない。

 夢の中のあの宇宙世界といい、あまりに現実世界と乖離しすぎてピンとこないと言った方がいいか。


「あの、ところでこんなところでのんびりしてていいんですか? もし今、その天死てんしに襲われたら……」


「ああ、それは大丈夫だ。天死てんしは昼にしか活動しね。それがプログラムされたものなのか、何か理由があるかは知らねけどな。だから夜はしっかり休んで明日に備えるだ」


 なるほどね。

 だからこうして焚火なんてたいてるわけだ。


「ま、そういうわけで疲れたろ。今日は寝とき。ここから巫女様んとこまで2日はかかる。昼の間は天死てんしとの追いかけっこだから、ゆっくりしてらんねーべ」


 ファットシさんはそう言って、柔らかく笑った。

 出会ってまだ数時間しかない、見も知らぬ相手だというのに。

 本当にこの人は、いい人だ。

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