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元の世界に帰りたい! 第6話






 朝、吉報が入ってきた。賢者の山の悪天候が数年ぶりに回復、さらに結界も薄まって人が入れる状態になっているという。優莉(ゆうり)達はただちに支度し出発した。




 山の境界を警備する兵に、フレーが入山許可証を見せる。


「途中、何が起きるかは我々にも分からない。十分注意してくれ」

「ありがとうございます」

「賢者様のご加護を」



「歩いて登るのは大変です。ここは遠慮せずブックヴァレットで移動します」

「うん」

「じゃあ乗り物出すね」


 ユキはカバンからブックヴァレットを4冊展開すると、それらに命令を送り光の乗り物を形成させた。改めて光の乗り物を見た優莉は気付く。


(あー、これが飛行機の形してるのもヒメルさんが作ったからか)


 おそらく乗り物の形状は機能に関係ない。飛行機の無いこの世界の人が空飛ぶ乗り物をデザインすれば、獣の形になるだろう。それが飛行機に近い形をしているのは、優莉と似たような世界から転生してきたヒメルが開発したからだった。



「ユーリ乗って~!」

「あごめん!」


 急いで優莉が乗ると、光の乗り物は静かに上昇し山頂へ向かって飛び始めた。






「ねえねえ」

「なに?」


 優莉はふと気になった事をアリーに尋ねる。


「光の翼あるじゃん。この乗り物なくても光の翼だけで事足りない?」

「光の翼は動きやすいけど魔力の消費が多いんだよ。それに比べて乗り物の方は、小回りが利かない代わりに速く飛べるし魔力も少なく済む」

「使い分けるんだ」

「魔力の温存は大事だからね」



「それにしても、御山がちょうど登れるようになって良かったね~」

「でもなんで予兆もなく急に晴れたんでしょう?」

「ユーリさんが運命で定められた者だからだよー!」


 フレー達が和気あいあいと話す。優莉は、賢者の山が登れるようになったのもヒメルの能力のおかげかもしれないと思った。









 光の乗り物は悠々とした速さで山麓の上空を進む。


 賢者の山は、平野の中心に大きくそびえ立っていた。山頂付近に山肌が見える程度の高さで、範囲も広く、足だけで登頂しようとすれば1日では済まない。ブックヴァレットが無ければその道のりは辛いものとなっていただろう。

 優莉は地上を一望し、自分の来てしまった異世界を目に焼き付ける。山から見える麓の国々の姿は、元の世界の景色とあまり変わらなかった。




「みんなあれ見て!!」


 アリーが叫ぶ。彼の指差す方向を見ると、街の中から黒い煙がいくつも上がっていた。ここからだと何か分からない謎の物体達が街を踏み潰していく。


「まさか…」


「どうやら戦争が始まったみたいですね…」


 賢者の山を発端とする戦争、それがついに始まったのだ。


「なんで! 今日まで開戦する事はないんじゃなかったの!?」

「…もしかしたら、この山が立ち入れる状態になったのを賢者様の思し召しなどと勘違いしたのかもしれません」

「やる気出しちゃったか…」

「げぇ……」



「でも良かったじゃないですかユーリさん。巻き込まれる前にここまで来れて」

「いやぁ…」


 戦争が、殺し合いが起きているのに、素直に喜べるはずがなかった。









「あ、あれ?」


 突然、光の乗り物が高度を下げ始める。


「ユキ?」

「乗り物が上昇できない! 速度も落ちてる! このままだと墜落しちゃう!」

「えええええ!?」

「命令が利かないの?」

「動いてはくれるんだけど…」

「あれ!? 光の翼出せないぞ!」

「そこに着陸することはできる?」

「できそう!」



 ユキは急遽光の乗り物を山の斜面の平らな部分に着陸させた。着陸すると、ユキが魔力を供給しているにもかかわらず光の乗り物は消え、ブックヴァレット達は地面に落ちてしまった。フレーとアリーが飛行魔術を試すが、光の翼すら出ない。


「みんなどうしちゃったの…」


 ユキは寂しそうにブックヴァレットを拾い、カバンにしまう。いつもなら手を使う事なく操って収納できた。原因を察したフレーとアリーが話し始める。


「どうやら、移動系の魔術が封じられる結界の中に入ったみたいです。他の魔法は普通に使えました」

「それで飛べなくなったんだね」

「ヴァレット達は自律移動できなくなっただけだよ」

「よかった…」




「でもここから全部歩きってこと?」


 優莉はそう言い、山頂の方を見る。出発した時に比べればかなり近づいたが、それでも歩いて登るには厳しい距離が残っていた。岩や急斜面もある。


「体力強化魔術が使えるからそれほど苦ではないはずです」

「そっか」

「最後ぐらいは自分の足で登れって事かな」



「休める場所ですし、これを機に昼食をとりましょう」


 気付けば、周囲に背の高い木が見られなくなっていた。









「……」


「…ユーリ?」

「えあっ、何?」

「どうしたの? さっきからボーっとしてるけど。高い山で気分悪くなった?」

「全然。大丈夫だよ」

「ふ~ん……」


 優莉は地上を眺めながらちびちびサンドイッチを食べる。明らかに様子がおかしいと思ったアリーは、フレーの服をつまみ魔術での会話を求めた。フレーもユキの袖をつまんで会話に参加させる。



<ねぇ… ユーリどうしちゃったんだろう? いつもと違うよね?>

<元の世界に帰ろうか迷ってるんじゃないか?>

<ええ!?>


<最初の頃は帰りたい気持ちが強そうだったけど、吹奏楽の時は3週間道草を食う事を承知で誘いに乗ったし、気持ちが変わってきてるのかも>

<でも「両親に顔見せてあげたい」って言ってたよね…?>

<最初の頃はね。最近は口にしない>


<この世界が嫌というわけじゃなさそうだし>

<あー……>


 旅の中で優莉が元居た世界について話す様子を思い出してみると、ポジティブな点よりも不満や大変さが強調されていた。帰りたい理由が少ないなら、良いと思っているこの世界に留まる事も考えるだろう。


<この世界にずっと居ようか迷ってるのかな…>

<そうかもしれない>



<お兄ちゃん達は分かってないな~>

<…? どういうこと?>

<分からないなら分からなくていいの>

<?>


 ユキが何を言いたいのか、フレーとアリーには理解できなかった。


「ユーリさん! この木の実おいしいよ!」

「ん、ありがとう」


<賢者様に会えたらどのみち決断を迫られる。帰るかどうかはその時ユーリさんが決めればいいでしょ?>

<…そうだね>

<僕達は、ユーリを無事に山頂まで連れて行かないと>



 3人は魔術による会話をやめ、まだたくさん残っている食べ物を頬張った。









 体力強化魔術に助けられながら、優莉達はなんとか山頂にたどり着いた。山頂には地上から確認できないくぼみがあり、その底に隠れるように、神殿を思わせる白い遺跡が待ち構えていた。


 一番大きな建物の中に4人は進む。



「…誰か居る」


 無機質な部屋の中には、1人の若い男性の姿があった。



「よくここまで来た。皆の要件は分かっている」

「…! ではあなたが!」



「皆が"賢者"と呼んでいる者、それは私だ」



 フレー達は、伝承上の人物であった賢者が実在した事、その賢者に会えた事に感激し沸き立った。優莉も半ば信じていなかった賢者の存在に驚く。


「あああの! はじめまして! 賢者様にお会いできて光栄です!!」

「申し遅れました! 我々は…」

「自己紹介は不要だぞ。皆の事は分かるからな」


 フレーとアリーは興奮しきっている。



「しかし賢者様お若いですね…。昔から言い伝えられているので、てっきりご老人かと思っていました」

「失礼ながら僕もです」


 ユキの言葉を聞いて、優莉はフレーと最初に会った時の自分を思い出した。


「姿など、存在を視覚的に示す手段に過ぎない」






「さて… 本題に入ろう」


 賢者は優莉の方を見る。


「君は、元の世界とやらに帰りたいのか」

「はい」

「本当か? 君の心の中にはまだ迷いがあるようだが」



「…迷いがあっちゃ… ダメですか」

「ユーリ…」


 フレー達が心配そうに見つめる。



「あっても帰すのに問題は無いが、それでいいのか」


「両親や知り合いが待ってるかもしれないんです」

「君は再会したいのか」

「そりゃそうですよ」


「家族が心配しているから、再会して安心させてあげたいというのとは違うか」

「別にいいじゃないですか…」



「もうこの世界に残っても元の世界に帰っても、僕には後悔が残るんです。それなら待ってる人がいる元の世界に帰ります」




「では仕方ないな」


「ただ、せめて君を心残りなく元の世界に帰してやりたい。解決にはならないかもしれないが…」


 そう言うと賢者は手を差し出し、優莉に向かって魔法を使った。






 気が付くと、優莉は今まで居た場所とは違う別の場所に立っていた。この街には覚えがある。賢者は優莉の心中を酌んで、彼を行くべき場所に瞬間移動させたのだ。


「……」


 優莉は目の前の、3週間世話になった家にもう一度入る。


 工房では、ある女の子が真剣に金属の塊を叩き延ばしていた。




「ニーナ… 久しぶり」


 声を掛けると彼女が、ニーナが振り向く。













 優莉とニーナは椅子に座り、2人きりで話した。



「賢者に会えてよかったね」

「うん」


「賢者様が、元の世界に帰る前にここに顔を出させてくれたんだ」

「そうなんだ」

「ここでの生活は順調?」


「今はおじさんのする加工を勉強しながら、ベルリスの練習してる。街のみんなとも仲良くやってるよ」

「そっか…」



 優莉はニーナの顔を見つめる。彼女は、「なんだろう」という顔をした。


「最初に会った頃から表情良くなったね」

「本当?」

「間が空いたから余計にそう見えるのかな…?」



「ユーリが私を助けてくれたおかげだよ」




「…あのさ」

「なに?」



「…僕と一緒にこっちの世界に来ない?!」

「えっ」


「僕の世界に一緒に来てほしいんだ!」




「私が、ユーリの世界に行くって事、だよね…」




「…私にはもう、ここでの生活がある。おじさんに教えてもらって、みんなにもお世話になって頼りにされてるのに、今さら街を去ることはできない」

(あっ…)


 優莉は、また自分勝手な事を言ってしまったと猛省した。人生を上手くやり直している彼女に現状を捨てて自分と一緒に来てくれなど、わがまま以外の何物でもない。


「それに、私はこの世界の人間だから、そっちの世界に行っちゃいけないよ」

「そうだよね…」



「ニーナとずっと一緒にいたいんだ」

「ダメだよ。ユーリの世界には、ユーリの帰りを待ってる人がいる」

「……」



「私は、小さい頃に家族と離れ離れになった。監禁場所から逃げれた時は会いたくてしょうがなかった。親も私に会えるなら会いたいって、絶対思ってる」


「ユーリは会えるんだから会ってあげなきゃ」

「うん」




「そうだ」


 ニーナは工房の中へ行くと何かを取ってきた。


「はい」

「これ…」


 渡されたのは、ベルリスと同じ素材で作られたネックレスだった。


「練習がてら作ったの。初めて作ったやつだよ。これあげるから、私は我慢してね」


「…分かった。大切にする!」


 優莉は翻訳魔術書を外して椅子の上に置くと、彼女の前でネックレスを掛けてみせた。赤みがかった銀色が制服の上で際立つ。



「元気でね、ニーナ」


「……&@%/'>*=%`#」

「あっ…」


 翻訳魔術書を外したままだ。




「……ニーナのことが好きだよ」




 優莉は翻訳魔術書を手に取ると、魔法の光に包まれて消えた。









「ユーリ!」

「戻ってきた!」


 優莉は、瞬間移動で山頂の建物に戻った。ネックレスを肌着の下に入れ込み、翻訳魔術書を掛け直す。

 床に座っていたフレー達が駆け寄る。


「ユーリどこ行ってたの?」

「なにしてたんですか?」

「もう! お兄ちゃん達には関係ないでしょ! ユーリさんの事だから訊いちゃダメ!」

「「えぇ…」」

「良かったですね! ユーリさん」

「…うん」



「決心がついたようだな」

「はい」


「元の世界に帰ります」


 優莉は賢者の目を見てはっきり答えた。



「よし。皆、外へ出るんだ」






 舞台のような遺跡の上で、優莉とフレー、アリー、ユキは最後の言葉を交わす。この世界に来てから色んな人と過ごしたが、彼らと共にした時間が一番長い。



「もしニーナやシフィ達に会ったら、僕はちゃんと帰れたって伝えておいて」

「分かった」

「あの4人はもう国を出てると思いますが、再会した時には必ず伝えます」

「ありがとうユキちゃん」



「ユーリ」


「元の世界での生活は大変かもしれません。でも、生きることが大変なのはこの世界でも同じです。大事なのは、その中にある"喜び"をしっかり感じる事ですよ」

「喜び…」

「ユーリは人の持つべき心を持っています。だから、周りには必ず喜びがあるはずです。それを感じ取って、幸せになれるように生きてください」

「…うん。やってみる」


 4人は、今生の別れには見えない明るい表情だった。



 賢者に頼み、元の世界に送ってもらう。煌びやかな光が優莉を包む。




「会えたのがみんなでよかった!」

「僕達も! ユーリと出会えて嬉しかったです!」

「元の世界でもお元気でー!!」

「世界は違ってもずっと友達だよー!」

「うんー!」






(ありがとう、みんな)






 優莉は元の世界に転移した。



 絶対に忘れない。あの世界の事、みんなの事も、全部。









― 第6話 終わり ―

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