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元の世界に帰りたい! 第3話 後編






 ミアーとセーグが優莉(ゆうり)を見つけ、駆けつける。2人はフレーの弟と妹に会えたものの、優莉の事が心配で引き返し匂いを辿っていた。優莉の首の痕や顔の傷が増えた事を気に掛けるが、お金が盗られた事を知ると一転、優莉を責めた。



 目的の場所に近づくと、路上で待つ男の子と女の子の姿が見える。女の子がこちらに手を振るとミアーが手を振り返した。2人がフレーの弟と妹だ。


(ランド…セル?)


 妹は、元の世界のランドセルに似たカバンを背負っていた。幼い姿もあって小学生に見えなくもない。優莉が気を取られている間に、弟とミアーの提案でひとまず場所をお店の中に移すこととなった。






 弟の名前はアリー、アリアド・ワウス、妹の名前はユキ、ユキア・ワウスという。2人は魔導師ではないが、魔導師である兄と一緒に各国を巡ったり兄の仕事を手伝ったりしていた。



「でもアリーにぃもフレーにぃに負けないくらい凄い魔術師ですよ!」

「ちょっ、ちょっとやめてよぉ…」

「そうなんだ」

「ぼ、僕はまだ兄に比べたら全然そんなですよ。経験も少ないし」

「そんな謙遜なさんなって~」

「姉さん…」


 ミアーがアリーをからかう。会ってから間も無いのに、5人はよく打ち解けていた。ちなみにアリーは翻訳魔術を使っている。



「ユキちゃんもやっぱり魔術師なの?」

「ん?」

「『ユキちゃんも小さいけど魔術師なの?』って」

「えあっ… あっ、いや……」


(あやばいマズい事訊いちゃったかも…)



「…ユキは、魔力があるのになぜか魔法が使えないんです」

「あー……」

「いつも頑張って練習してるんだけど…ね」



「…大丈夫です。いつか魔法を使えるようになって、お兄ちゃん達みたいな立派な魔導師になります!」

「お~」

「偉いねぇユキちゃん!」


 優莉は、ユキはまだ小さいのに礼儀正しくしっかりしている良い子だなと感じた。




「そういえば、なんで兄は僕達に戻るよう言ってるんでしたっけ」

「みなさんの用事ですか?」

「あっ、そうだ話さないと」


 3人は今までの事、フレーにシフィの施術をしてもらっている事、優莉が賢者の山へ行くのにフレーに同行をお願いした事を話した。



「別の世界… 僕達が今居るこことは別の、遠い場所から来たんですか」

「本当にそんな所あるの?」

「ホントです……」

「私達もよく分かんないけど、ユーリが家に帰れないのは確かっぽいんだよね」

「嘘や妄想ではないと思うんだが」


 案の定、優莉の身に起きた事の理解を得るのは難しかった。ミアーとセーグも未だに半信半疑だ。皆が難しい表情をしていると、ユキが言い出した。


「まあ、フレーにぃが行くと言ってるのなら私達も行きますけどね」

「兄さんが決めたなら確かなんでしょう」

「ああ… ありがとう…」

「それに本物の賢者様に会えるかもしれないし!」


 2人は兄のフレーを相当信頼しているようだった。



「さっそく拠点に帰りたいところですが、雨が降ってますし今日はもう暗いので移動は明日にしましょう」


 いつの間にか外では雨が降っていた。優莉がスリの女の子に構っていたせいで時間が経っており、日も沈んでしまっている。夜までに帰る事は叶わなかった。シフィの施術が上手くいったのかどうか、ミアーとセーグには気掛かりだった。


 宿に着いた後、優莉はお金を盗られてしまった事を打ち明け、アリーとユキに同じ部屋に泊めてもらえないか頼み込んだ。2人は苦い顔をしながらも了承した。









 次の日の朝。雨はすっかり止み、町の陰湿さを払う清々しい空気と日差しが外に満ちていた。優莉たち5人は朝食をとり、部屋の片付けを済ませ出発しようとする。

 アリー達が玄関で宿の人と話している中、優莉は1人外の道へ出た。


(晴れてくれて良かった~)



 背伸びをしていると、通りがかった女性2人の話が耳に入る。


「…あの子、男の子かしら。それとも女の子?」

「私も分からなかったわ」

「治安官に差し出すわけじゃなさそうだし…」

「?」



「でも仕方ないわよ…。盗もうとしたのはあの子なんだから」

「はあっ!」

「えっ!?」


「あっ、あの! その子ってどんな格好してましたか!」

「いや… たしかあなたと同じくらいの背で――」


 女性達から聞いた特徴は、あのスリの女の子と一致していた。


「たぶんスろうとしたけど返り討ちにあって、その人達に捕まったの」

「女の子なの? それじゃあ…かわいそうに…」

「あの、それってどこで見かけました!?」

「ユーリまさか助けに行こうとしてんじゃないでしょうね!?」


 ミアーとセーグが宿から出てきて割り込む。どうやら聞こえていたらしい。


「なになにどうしたんですか」

「ユーリさん何かやったの?」


 ミアーの声を聞いてアリーとユキも出てくる。ミアーは2人に状況を説明した。



「あ~……。それはもう仕方ないよユーリ… 諦めよう」

「そんな…」

「それはその人の自業自得です。スリは悪い事ですけど、バレちゃうように悪い事をする人も人です!」


 なだめるアリーに対してユキは辛辣に言い放った。アリーが言う。


「その子がしてきた事相応の結末…なんじゃないかな」



「ユーリ、前に寄った国では俺達で泥棒を捕まえたじゃないか。あいつらとそいつの何が違う?」




「でも…… でも……」



「でも! ちゃんと治安官に捕まって裁かれるのとは違う!!」


「教えてください! その人達はどっちへ向かったんです!」

「ユーリ…」


 優莉は女性達に場所と方向を教えてもらうと4人をおいて飛び出していった。









 たくさんの木材が積まれた荷車に、手足を縛られ口も塞がれた彼女が一緒に括り付けられていた。作業服?のようなものを着た人相の悪い人達は、町の中心から離れた林の中へ荷車を引いていく。優莉は茂みに隠れながら後を追った。


(さて…… どうやってあの子を助けよう)


(いずれどこかで止まって降ろすよな…)


「あの人達どこに行くんだろう」

「うわっ!」


 声を掛けられビックリして振り向くと、後ろにはミアーとセーグが居た。優莉達はバレないようにコソコソ話す。


「2人とも! 来てくれたの!?」

「いやだってユーリが行ったらほっとけないでしょ」

「俺達の恩人だし」

「ユーリがなんであのスリに固執するのか分からないけど、ユーリがやるって聞かないなら私達も手を貸すよ…」

「ただし後で治安官に引き渡すことだな」

「うん」






 彼女を積んだ荷車は工場のような場所で止まった。人相の悪い人達は外にある小屋の中に彼女を運び入れた後、建物の中に皆入っていった。

 この機を逃すまいと優莉達は小屋へ駆け寄った。ミアーが外を警戒し、優莉とセーグが戸をこじ開ける。


 戸を開けると、中に居た彼女が目を見開いて驚いた。セーグが彼女の足の縄を切り優莉が口の布を取る。


「2人来る音がする早くして!」



「なんでここまで追ってくるの」

「うるさい」


 優莉は路地裏で言われた事の意趣返しのつもりで彼女にそう言った。困惑する彼女のまだ縛られた腕を掴んで小屋から引っ張り出す。


「おい何やってんだ!」


 外へ出ると建物から出てきた男2人に見られた。


「ヤバい!」

「林の中に!」


 優莉達は林の中へ逃げ込もうとするが男が魔法で火を放ち遮る。


「おいなんだどうした?」

「おまえらそのガキの仲間か!」


 建物の中から人相の悪い人達がどんどん出てくる。


「あの2人頭に耳が付いてるぞ!」

「3人も捕まえるぞ、死ななきゃそれでいい!」

「くっそおおおおおおおお!!」


 ミアーとセーグが接近してくる男達と応戦する。最初は多人数相手に優位に張り合うも、後方の女達が体力強化魔術で男達を強化するとみるみる押されていく。


「ミアーとセーグは逃げて!2人は飛び越えて逃げられるでしょ!」

「ユーリをおいてけない!!」


「うあ危ない!」













 刃物で刺されそうになった彼女にとっさに覆い被さり、優莉は腹部を刺された。



 今まで感じたことのない激痛に歯を食いしばり、うめき声すら出せない。しだいに血が出てきて服に染みるのが分かってくる。体を動かすとさらに痛みが走るため、手や足をそのままにひたすら力んで耐えることしかできなかった。



 彼女が男に組み伏せられる。ミアーとセーグも剣を落とし、魔法で動きを封じられた上で複数人に拘束された。2人が優莉の名前を懸命に叫び続ける。




 また無茶な事をしてしまった。今度は自分のわがままでミアーとセーグまでも巻き込んでしまった。2人は何も悪い事をしていないのに。挙句の果てに彼女も助けられない。昨日の、何も考えず直情的に行動して彼女を傷つけたのと同じ過ちを繰り返したのだ。独りよがりの善意なんて皆にはいらない。



 "自分のしてきた事相応の結末"。アリーの言葉が思い浮かんだ。













「おい! なんだありゃ!」

「うおわっ!」

「なんだこいつら!」


 優莉を引きずろうとしていた男が腕を離す。優莉は瞑っていた目を開けた。



 高速で飛び交う何かが体当たりで男達を邪魔する。男達が抵抗すると、飛ぶ何かが魔法を発動し紐で引っ張るように男達を吹き飛ばした。別に居た何かがミアーとセーグに近づくと、2人の魔法束縛を解く。


 宙を舞っていたのは6冊の魔術書だった。


 男達が一斉に襲いかかるも魔術書は軽やかに避け、光の刃や盾を出して応戦した。後方から飛んでくる魔法攻撃にもビクともしない。3冊が優莉達に近づくなと言わんばかりに火炎放射を行うと、残りの3冊が優莉たち4人の上に集まりそれぞれを頂点とした三角柱状の光の壁を形成する。


(フィンファ○ネルじゃん!)


 空中を縦横無尽に飛び交い、複数が連携して攻防し敵を翻弄するその姿は、有名なロボットアニメでたまに見るオールレンジ攻撃兵器そのものだった。


「なんなんだよこいつらぁ…!」

「おい! あんたしっかりしろ!」

「どうした!?」

「いやなんか… こいつ…が…」

「おまえら… どう…」


「……」


 優莉達が突然の事に腰を抜かして動けないでいると、襲ってきた男達も女達も急に落ち着きはじめ、やがて全員沈黙しぞろぞろと建物の中へ入っていく。まるでゾンビ映画に登場するゾンビになってしまった人達のようだった。



 空を飛ぶ魔術書達が周囲の火災を消火すると、林の方から優莉達を呼ぶ声がする。木々の陰から顔を出したのはアリーとユキだった。









 優莉はセーグに抱きかかえられ、アリーに腹部の傷を治療してもらいながら宿まで戻った。ユキ、ミアー、スリの女の子も一緒だ。6人は宿の食堂で休む。


「いやぁ… よく無事に戻ってこれたね」

「これ無事って言わないよ… ごめん…」

「よし、傷の治療は終わり。あとは体の治癒力に治してもらってね。その方が良い」

「ありがとう。アリー」


 優莉の傷はまだ痛んだが、先程までの気持ち悪い感覚は無くなっていた。


「これからみんなで旅するのにこんな無茶な事するのはやめてくださいね」

「はい… 気を付けます」


 ユキは淡々と優莉を叱った。



「でもさ、ユキちゃんって魔法使えないんじゃなかったの? なんでアレ使えたの」

「ブックヴァレットは魔力に乗った想いに応じて動くから使えるんです」

「へぇ~ そうなんだ…」


 優莉達を救った空飛ぶ魔術書、"ブックヴァレット"を操っていたのはユキだった。いつもユキの背負うカバンに6冊が収納、魔力が充填されていて、ユキが魔力を与えるだけで思うがまま自由自在に動かすことができた。


「怪しい人達を帰らせたのはお兄ちゃんですよ。アリーにぃはフレーにぃにも使えない特殊な魔術が使えるんです」

「すごーい」

「変わった魔術にしか能がないだけですよ」




「……」


 5人がスリの女の子の方を見る。彼女はずっと俯いたまま何も喋らなかった。


 優莉は、皆に頼んで彼女と2人だけで話をすることにした。宿の人にお願いして空いている部屋を使わせてもらう。









「……あのさ」

「…なに」

「えあっ、いやぁ…」


「どうしてあの人達に捕まってたの? ミスっちゃった?」

「……」


「あいつらには前にスリを仕掛けた事があって、でもしくじって顔を見られた。それで今日たまたま再会して顔も見られてバレた」

「そうだったんだ…」


 彼女は優莉が話しかけると無愛想に答えた。



「ねえ」

「」

「もし…嫌じゃなかったらさ、なんでスリをやってるのか、教えてくれないかな…」

「……」



 彼女は重い口を開く。



 彼女は小さい頃、幼馴染と共に暴漢らに誘拐された。幼馴染と共に強姦・性的暴行を受けたり、無理矢理働かされたり、外界と隔てられた場所で長い期間隷属させられた。ある時2人は脱走を図ったが、暴漢らに見つかり幼馴染は殺害されてしまう。逃げ延びた彼女も、外は自分が暮らしていた町ではない別の場所で、まだ小さく家の場所や町の事が分からなかった彼女は家族のもとに帰ることができなかった。その後も行く先々で酷い扱いを受け、その過程で彼女は、他人、人々、社会、世の中を受け入れられない、人間不信のようなものになってしまった。

 気付いた時には盗みで生活し、人々の輪から離れて生きていたと彼女は言う。



「あんたに何か言われた時は、こう…込み上げてきたんだ。俺はずっと必死で生きてきたのに、盗みをやめろって言うんだから。冗談じゃない。よく口にできたもんだ。俺に死ねって言ってんのかよ、生きるのに困ってなさそうな奴が」


「ごめん……」


 優莉は彼女の壮絶な過去を聞いて自分が泣き出しそうになった。しかし彼女は表情ひとつ変えずに平然と語る。たいていの人ならこんな身の上話、話しているうちに泣き出してしまうはずだ。でも彼女は泣かなかった。

 彼女は、過酷な今までのせいで泣くことを忘れてしまったのだと、優莉は感じた。



 もう彼女は苦しませない。優莉は、今自分が彼女にすべき事、今かけてあげるべき言葉を探した。




「…僕はね」


「…路地裏で君に首を絞められた時、怖い人達に囲まれて、お腹を刺された時、もうダメだと思った」


「どっちでも感情的に、深く考えず動いちゃって、結局自分は何もできないし仲間のみんなにも迷惑かけちゃった。首絞められて、お腹刺されて死にかけて…」


「バカな行いなりの結果だったのかな…」



「君を助けたかっただけなんだけどね」

「……」




「でも、僕は死なずに済んだ。あの怖い人達から君も僕も逃げることができた。あの4人のおかげだけど」


「これって…キッカケにできると思うんだ」

「…きっかけ」

「君が盗みをやめて、悪い事しない新しい生活を始めるキッカケにさ」

「……」



「やだよ… 俺は、誰も信じられない。誰かとつるんで生きるなんて…ムリ」

「べつに1人でも普通に生きていけるよ! 僕のせ… 僕の国でもそういう人いる!」


「それに僕は? 僕は信じられない?」


「あんたは…」

「僕の名前は優莉。ゆうりって言うんだ。君の名前は?」


「…たぶん、ニーナ」

「ニーナ、ニーナね!」



「僕は今、賢者様の山に向かって旅をしてるんだ」

「旅…」

「ねぇ、ニーナも一緒に旅についてきてよ! 一緒に行こう!」


「……」


「旅でいろんな国や町に行って、いろんな事していろんな人に出会って、他人が嫌なのとか変えていこう!」


 彼女は優莉の顔を見てくる。


「あの4人もいるし別の町には魔導師もいる。みんな良い人だよ! 大丈夫! 僕も全力で頑張るから!」


(僕は君を絶対守るから!)



「……分かった」






 先に優莉だけ部屋を出て、他の4人に彼女の過去を話した。



「私達と同じ感じだね… いやもっとかわいそうかも」

「俺達は1人じゃなかったからなんとかなったが…」


 拉致され改造され家に帰れない、同じような境遇のミアーとセーグは今まで忌んでいた彼女への印象を改め、同情した。


「彼女を、ニーナを旅に連れていっても…いいかな」

「う~ん……」



「本来なら治安官に報告して引き渡すべきだけど…」


 アリーはそう言いながらユキの顔色をうかがう。


「まあ、あの人が二度と盗みをしないならいいんじゃないですか」

「良い? ありがとう!」


 ユキは「仕方ないな~」という表情で答えた。


 ニーナを部屋から出して皆へ自己紹介させる。


「……?」

「ほら、自己紹介だよ自己紹介! 名前言ってよろしくねって!」



「ニーナ…って言う。よろしく…」


 皆は苦笑いしながら彼女を迎えた。









 ユキのカバンのフタが独りでに開き、中から魔術書6冊が飛び出る。魔術書達は地上に浮遊、整列するとページをパラパラ開き、それぞれ光の乗り物を形成した。


「飛行機だ…」

「そういう名前なの?」

「そうじゃないの」



「ユキのブックヴァレットで高速移動します」


「さあニーナ、乗ろう!」

「あ、うん…」

「乗るっ… ここに乗るの?」


 6人が各々座席に座ると、ユキの掛け声と共に光の乗り物は飛び始めた。



「うお~!! 飛んでる~!」

「あまり体をせり出したりしないでくださいね」

「はーい」

(便利だなぁ… この魔術書)


 優莉は光の乗り物の事よりユキの魔術書自体の有用さに感心した。光の乗り物は、優莉達が行きに通った山の上空をゆったり通過していく。



「ユキちゃん! 便利だねこの魔術書!」

「魔力が溜まってれば口で命令しても動きますからユーリさんにも使えますよー!」

「へ~!」


「なぁ、これ大丈夫なのか?」

「ん~?」


 セーグが優莉とミアーに話しかける。


「この乗り物魔力で飛んでるだろ? あの子が魔力切らしたら墜ちるんじゃ…」

「えっ!?」

「いやぁ… さすがにそういうのは考えてあると思うけど」


 すると3人の会話を聞いていたアリーがユキに通訳して伝えた。


「みんなが『ユキの魔力が切れたら落ちないか?』だって!」

「私の魔力は他の人の何倍もあるから大丈夫ですよー!」


 ユキは自慢気に答える。高度な魔術書6冊に同時に十分な魔力を供給し続けるのは、並外れた魔力を持つ彼女にしかできない芸当だった。これで本人は魔法が使えないというのだから謎だ。いやもしかしたら、魔法が使えない故の対価なのかもしれない。


「まあそれに! もし何かあっても僕がどうにかしますからー!」

「おねがいねー!」



(ニーナ……)


 ニーナは、口を開けたまま上空からの景色を眺めている。


「ニーナ」

「?」

「空からの眺め… 綺麗だね」


「…うん」


 優莉は彼女の様子を見ながら、なるべくこまめに話しかけるよう努めた。






 シフィ達の居る病院に近づくと、彼らもこっちに気付いたのか玄関から出てきた。光の乗り物は着陸し、皆が降りると消えて魔術書もユキのカバンへ戻っていった。


 ミアーとセーグがシフィとアルアに駆け寄って話す。シフィの施術は無事成功しており、縫合部分の炎症等は綺麗に治っていた。さらに、優莉達がなかなか帰ってこないため、その間にシフィだけでなくアルアの発声の異常も治療が行われた。ミアーがたしかに2人とも喋り方が変じゃないと気付く。

 フレーとアリーとユキも話す。優莉はニーナを連れて3人の会話に加わり、彼女の事情と旅に同行させたい旨をフレーに説明した。フレーは快諾とは言えないものの、彼女が自分達の指示に従う事を条件に旅への同行を了承した。彼女もそれを呑んだ。









 その後、ミアーとセーグの施術も行われ、シフィ達4人の治療は全て完了した。フレー達の準備が整うまでの数日間、ニーナは優莉に見守られながら4人の会話練習に付き合った。彼らはあっという間に喋れるようになり翻訳魔術も不要となった。

 また、優莉は空いた時間に街で働いて少額ながらお金を稼ぎ、伸びていた髪を理髪店で切ってもらった。






「僕達は、記憶を失う前の僕達の事を知ってる家族とか知人を探すことにするよ。あと同じように改造されて困ってる人とか」

「そっか……」

「まあ当分はこの町で働いて旅の資金を稼ぐけどね」

「ユーリ達のおかげで体は治ったし! 喋れるようになったし! ね!」

「ユーリも元の世界に帰れるといいね」

「うん」

「魔導師達に迷惑かけるなよ」

「気を付けるって…!」


「…じゃあね!」

「ああ」

「ニーナも旅満喫してね~!」

「……」



 フレー達も母親と挨拶する。


「ユーリを送り届けるだけですが、いつもどおり途中に困ってる人がいたら助けるつもりなのでいつ頃帰ってこられるかは分かりません」

「そう…。賢者様にお会いできたら失礼の無いようにね」

「はい」

「父上にもよろしくお願いします」

「それじゃあお母様、行ってきます!」

「気を付けて」




 シフィ、ミアー、セーグ、アルア、フレー達の母親、魔導師の拠点で働く人々に見送られて5人が出発する。優莉の、新たな仲間との旅が始まった。









― 第3話 後編 終わり ―

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