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元の世界に帰りたい! 第3話 前編






 シフィ、ミアー、セーグ、アルアの診察が終わり、4人と優莉(ゆうり)は診察室の外で結果を待っていた。皆、一言も喋らずじっとしている。


 国に到着すると思いのほかあっさり魔導師の拠点に着くことができた。この国に居た魔導師はフレイド・ワウス、フレーというまだ全然若い17歳の青年だった。優莉は、魔導師と言うぐらいだからもっと歳のいった人がやっていると思っていたので、彼と会った際は驚いた。やはり魔導師の中では相当若いらしい。

 フレーには他にも仕事があるようだったが、シフィの説明を聞くと緊急性が高い事案としてすぐ行動に移してくれた。彼の知り合いの医者が居る病院に連れてこられ、シフィ達が1人ずつ診察・検査を受けたところだ。



 診察室の扉が開きフレーと医者が現れた。医者は看護師?に呼ばれ去っていく。


「フレーさん、どうですか? みんな治せそうですか…?」

「フレーでいいですって、ユーリ」


 優莉が詰め寄って訊いた。4人も不安そうに返事を待つ。


「みなさんの炎症など肉体の異常は根治できます。あと発声の正常化も。ただ…」

「「……」」


「獣の耳や尻尾を取って体を改造前に戻す、失われた記憶を取り戻すことは…できません」

「そんな……」

「改造された体は既に"本来の体"として定着してしまっています。これから体を改造前に戻すのは、ヒトが腕や足を失うのと同じです」


「記憶については、一般的にはそういった分野の魔術自体が未発達なので的確な対応ができません。手探りで調べた感じでは、記憶を消すことはできなくもないですが消された記憶を元に戻すのは…」


 優莉は心配して4人の顔を見る。



「……それで構いません」


 シフィが口を開いた。他の3人も悔しがる様子は無い。


「ホントにいいの…?」

「…過去の記憶はたしかに惜しい。自分達に家族がいたなら、会ってみたい気持ちもある。だけど…」


「今はミアーと、セーグと、アルアと、4人で過ごした、ユーリと一緒に過ごした今の記憶がある。だから、大丈夫。3人も同じ気持ちです」

「みんな……」


 皆は優莉に安心するよう笑顔を見せる。


「まぁ~それに、ユーリと過ごして獣の力って便利だったんだな~って気付いたよ。この前は能力使って町のみんなを助けたし?」


 場を明るくする為にミアーが大げさにテンション高めで言った。



「みなさん、ご立派ですね。分かりました」

「でも炎症とかを根治できるのは凄いですね。さすが魔導師って感じです」

「ああ、それはですね… みなさんアルアの背中の文字の事は知ってますか?」

「え?」


 優莉以外の4人は当然のように知っていた。アルアの背中、肩甲骨の下の辺りには謎の文字列がびっしり記されている。

 その正体は魔術文の烙印で、本人の魔力を勝手に利用して悪化部分を自動的に治療するように施されていた。それを聞いて優莉は翻訳魔術書のようだと思った。フレーの推測だと、人体改造を研究していた者達も最後まで炎症や壊死を防ぐことはできず、苦肉の策でこの方法を採ったらしい。


 フレーは、アルア以外の3人も外科的治療後に同様の魔術文を刺青で記すことで悪化しないように対処するとした。言葉が上手く発音できない症状については、魔術的な処置で普通に治せるらしい。


「さっそく病院には治療と刺青師の準備をしてもらいます。アルアは、誰か人を用意するので背中の魔術文を書き写してもらってください」

「分かりました」


「とりあえずこれでみんなの問題は一件落着だね」

「そうだね。ユーリ、ありがとう」

「ユーリと会えなかったらここまでこれなかったよ~」

「いやいやいいよいいよ! 困ってたら助けてあげたくなるって」






 シフィの施術の準備が進められている。今度は優莉の番だ。優莉は翻訳魔術書をミアーに渡して、フレーと2人で話す。フレーは翻訳魔術が使えた。


「うん……」

「どうですか」


 優莉は別の世界からこの世界に来てしまった事や、元の世界に帰る為に賢者に会おうとしている事を話した。



「…賢者様には運命で定められた者しか会えないと言われてるのは知っていますね」

「はい」

「もし定められた者でないのに賢者様に無理矢理会おうとすれば、どのような報いを受けるか分かりませんよ」


「…でも、僕には今のところこれしか方法がありません。一縷の望みに懸けて、賢者様に会いに行きます」

「……」


 フレーは腕を組んで考え込んだ。



「分かりました。いいでしょう。賢者様の山までユーリに同行します」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「賢者様の山には、入れる状況だったとしても入山許可が必要です。その手続きを僕がしましょう」

「あそうなんですか」


「ユーリの状況は特殊すぎです。謎の光も再び見つけるのが困難な以上、賢者様に頼るしかない。これは、"運命で定められた者"かもしれません」

「そうですよね!」

「まあそれに、僕も叶うなら賢者様にぜひお目にかかりたいですし」



「もしかしたら、こうして僕達が出会ったのも運命なのかもしれませんね」


 フレーが優莉に言った。






 シフィ達4人の治療とフレーの残りの仕事が済み次第、賢者の山へ出発することになった。優莉は心強い協力を得たこと、自身の旅が順調に進んでいる事を確認できたことで、胸を撫で下ろした。


 優莉は、フレーとの話の最後にある事を頼まれた。シフィの施術をしている間に、離れた別の町へ査察に行っているフレーの弟と妹を呼び戻してほしいそうだ。その2人も賢者の山まで一緒に行くらしい。

 聞いた優莉がミアー、セーグ、アルアにその事を話す。


「町までの道には獣だけじゃなく魔獣まで出るんだって」

「うひゃ~、それは危なっかしいね」

「どうする? 4人で一緒に行く?」

「いや、兄さんに誰か付き添ってあげた方がいいだろ」

「翻訳魔術書持ってるユーリは行くの確定だよね、私達だけじゃ喋れないもん。ここにはけっこう翻訳魔術使える人がいるし」



「私がここに残るよ」

「アルア?」

「獣や魔獣の相手をするかもしれないなら、武器を使い慣れてるセーグと…お姉ちゃんが行った方が良い」


「大丈夫? シフィの処置が終わるまでは1人だよ」

「大丈夫。なんかあったらちゃんと周りの人に相談する」


 アルアが優莉の目を見る。優莉には彼女の伝えたいことが分かった。


「……うん。分かった」

「じゃあよろしくねアルア!」

「3人も気を付けて」


 優莉、ミアー、セーグの3人は、フレーの弟と妹が居る町へ向かった。









 目的の町までは山道だった。山の中は木々のおかげで涼しい。道の空間はしっかり確保されているし、高低差には丸太で階段が用意されていた。獣らが出没する事を除けば良い登山道だろう。しかし優莉は、改造により体力が強化されている2人のペースについていかなければならなかったため、非常に辛い道のりとなった。


「ちょ、ちょっと休まない?」

「え~、もう疲れたのユーリ」

「僕2人と違って改造されてないんですけど!」

「姉さん休んであげよう」

「ま、そうだね」


 優莉はちょうどよく近くにあった岩に、年寄りのように腰掛けた。


「ふひ~」

(しかしこう見ると元の世界の山ん中と変わんないな~見た目)


「…セーグ感じる?」

「やっぱり姉さんも気付いた?」

「これ道歩いた人とかじゃないよね…」


 ミアーとセーグは何かを不審がっていた。



「おあ!? ああ! あああああえ!!」

「なに!?」

「ユーリ!」


 2人が優莉の方を見ると優莉が首に掛けていた翻訳魔術書がふわふわ浮き上がっていた。翻訳魔術書が透明になって消える。


「え゛ええええええええ!?」

「こいつ!!」

「待ちなさい!」


 優莉が驚き固まっていると急にミアーとセーグが道を外れ斜面を駆け下りていった。目で追うと2人の走る先に徐々に人が見えはじめる。彼は優莉の翻訳魔術書を持っていた。どうやら翻訳魔術書は透明だったスリにスられたらしい。


「えぇ…」


 優莉は辺り一帯を見渡す。3人が走っている斜面の下は谷で、スリは谷から抜けようと遠回りして上へ向かっていた。その先には道がある。優莉が今から全力で今居る道を進めば、スリが谷から抜ける前に追いつくことができそうだ。


「マジかよぉ… もう!!」


 優莉は走り出した。






 スリの足はミアーやセーグと同じくらい速かった。スリが斜面を登って道に出ようとしたところを、なんとか追いついた優莉が飛びかかる。


「ああああああ!! え?」

「うあっ…」



 スリと目が合う。なんと女の子だった。


 スリの女の子は優莉の顔面をぶん殴ると木々の中へ消えていった。殴られた痛みで動けないでいると、ミアーとセーグが斜面から上がってきた。


「ユーリ大丈夫!?」

(あっ… なんて言ってるか分かんない…)

「殴られたの?」

「まあ、僕は大丈夫だよ…」


 セーグが落ちていた翻訳魔術書を拾って優莉に渡す。


「ありがとうセーグ」

「翻訳魔術書を取り戻せて良かったな」

「2人は気付いてたんだ」

「なんとなく…。木の中から音がしたし匂いも感じた」

「あいつ透明になって気付かれないようにしてから盗むんだよきっと! 体力強化魔術も使ってた! 最悪~」

「どうする? あいつの匂いを追ってみるか?」


「翻訳魔術書が戻ってきたからもういいよ。2人ともありがとう。これからは、気を付ける」

「そう……」


 ミアーとセーグは消化不良気味だったが、予定外の出来事に時間をかけていては夜までに帰ることができない。3人は再び町へと歩き出した。









「なんか… 感じ良くないね」

「うん……」


 着いた町は、人はそれなりに居たものの寂れていた。人々にも活気が無い。今まで訪れた町の中で最も雰囲気が暗かった。ここで優莉は、フレーが「町の査察に行った弟と妹」と言っていた事を思い出した。普通"町の査察"なんて言い方はしない。


「もしかしたら、治安の悪い町なのかも…」

「えー…」

「さっきみたいにスリに遭ったりするかもしれないから、気を付けよう」



 3人はフレーから聞いた役場に向かったが、そこに彼の弟と妹の姿は無かった。役場の職員によると、つい先程ここでの仕事を終え別の場所に行ってしまったらしい。優莉達は2人の行き先に向かった。


「あの人の弟と妹ってどんな子達だろう」

「弟のアリーは14歳、妹のユキは9歳だって」

「じゃあ弟はユーリと同い年か」

「だね」



(あっ…)


 大通りを横断している途中、人混みの奥に彼女を見かけた。山道でスってきた女の子だ。間違いない。優莉はミアーとセーグをおいて彼女を追いかけ始めた。


「ユーリ! どこ行くんだー!」

「ごめん先行って待っててすぐ行くから!」

「もうなに~!?」






 スリの女の子は何事も無いかの様に自然に歩く。ベンチに座って新聞のような物を読んでいる男性に目をやると、すぐ裏にある路地の中へ入っていった。路地裏の外から見えない所で小さな魔術書を取り出し、魔法の準備をする。



「次はあの男の人のカバンを盗むの…?」


 彼女が振り向くとそこには見覚えのある者が居た。優莉だ。


「あああんたか…。なに? さっきの仕返しでもしに来たの」



「人から盗むのは… やめようよ」


「……」


 彼女は優莉を無視して魔術書をめくる。


「盗みなんて良くないよ。盗まれた人は、みんな困っちゃう… そうでしょ」




「なんで… 盗みなんかしてるの」


 彼女が手を止める。



「君の親は、この事知ってるの?」



「お母さんお父さんが知ったら… きっと悲しむよね」




「だから、もう… 盗むのはやめ


 彼女は優莉を殴り飛ばし倒れた体に乗り上げ胸ぐらを掴んだ。


「おまえうるさいんだよ!!」


 翻訳魔術書の紐で優莉の首を絞める。


「がっ… があうっ…」

「俺はただ! 頑張って生きてるだけなのに!」


「てめぇみたいに! のうのうと! 生きてる! 奴が! 口出しすんじゃねえ!!」


 彼女は力を緩めない。優莉の首を絞め続けた。優莉は逃れようと必死に抵抗したが、彼女を振り払うことができなかった。体力強化魔術を使っていない女の子に力負けしている。しだいに手に力が入らなくなり、抗う気力も薄れてきた。


 優莉は彼女の顔を見ながら死を受け入れた。




 翻訳魔術書の紐が切れる。



 彼女は、優莉が動かない事を確認すると制服を漁り、お金の袋を奪った。翻訳魔術書も手に取るが、優莉の顔を見た後投げ捨てた。彼女は去っていく。









 優莉は意識があった。が、体を動かす力も湧かず、上を向いて地面に倒れたまま放心していた。建物の隙間から真っ黒な曇り空が見える。


 優莉は彼女を助けたい、その一心だった。スリをやめてくれるならとの思いでここまで来た。しかし、彼女には拒絶され結局このザマだ。

 彼女との問答を思い出す。おそらく彼女は好きで盗みをやっているのではない。そういう家庭に生まれたのか、生活が苦しいのか、優莉はそういった事を考えずに自分の感覚を彼女に押し付けてしまった。「悪い事だからやめてほしい」と。

 彼女もやめられるのならやめたかったのかもしれない。しかし彼女が受け入れてくれたとしても、旅人でいずれ元の世界に帰る優莉には彼女の生活を支えることはできない。その覚悟も無い。それなのに、無責任にも彼女にそう言ってしまった。


 自分は助けたかった彼女をさらに苦しめた無能だと、突き付けられた。






 優莉は咳き込みながら体を起こすと、首と顔の痛みを気にする。立ち上がり紐の切れた翻訳魔術書を拾うと、外へ出てミアー達のもとへ向かった。









― 第3話 前編 終わり ―

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