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元の世界に帰りたい! 第2話 前編






 優莉(ゆうり)が最初に来た町を出発してから4日が経った。次の国までもう1/3という所。


 移動はトラブルも無く順調だった。地図に従い、最低限の整備だけが施された森の道を進む。夜は点在している家か廃墟の軒下で過ごした。家の中で寝させてくれたご老人もいて、優莉は人の優しさをしみじみと感じていた。

 森には様々な生き物が暮らしていた。まれに元の世界にもいた動物を見かけるが、ほとんどは元の世界に絶対いない見た目をしていた。写真にでも残すことができれば元の世界に帰った時自慢できるだろう。


(そもそも魔法のある別世界に来たこと自体、特別な事だよな~)


(翻訳魔術書は元の世界で使えるか分からないし、なんかパッと見で元の世界に無いと分かる物をお土産に持ち帰りたいな)



(……帰れたらの話だけど)


 そんな事を考えながら、今日も優莉はせっせと次の国を目指した。









 ふと何かを感じ、道沿いの木々の中に目を向ける。


 木が密集して薄暗くする中に、焚火を囲んで座り込む4人の姿があった。普通ならあんな所で休む怪しい人達に構うことはないのだが、彼らが持っていたあるものに優莉は釘付けになった。


(おおすげえ! ケモ耳だ!)


 彼らの頭には獣の耳が付いていた。距離はあるがそれでも分かる。


(この世界には獣人もいるのか! まあ魔法があるんだから獣人くらいいるよな!)


 普通のヒトに獣耳が付いているだけなので獣人と言うかは微妙だが、優莉はそういう事に詳しくなかった。



 しかし4人の雰囲気は非常に悪い。暗い。まるでこの世の終わりだ。家族の一員だったペットが亡くなった時のような、悲惨なオーラを漂わせていた。

 優莉は彼らと話したかったが、そんな彼らの哀愁に気付き諦めようとした。


「……誰かいるの?」

「なっ!」

「!?」


 白い人がそう言うと、灰色の人と黒い人が立ち上がり優莉の方に剣のような武器を向けた。急に刃を向けられ優莉はパニックになる。


「あええとあのその」

「あんた私達を追ってきたの! しつこい!」

「いや違うんです!僕はただの通りすがりでよく見たらあなた達が居たので気になって!」

「追ってきたんじゃないなら早く去れ! 俺達の事は誰にも言うな!」

「はい! ごめんなさい失礼しました!」


「待って君!」


 走って逃げようとするともう1人の黄色い人に呼び止められた。


「どうしたのシフィ!」

「この子……話通じるよね?」


 皆が優莉の方を見てくる。


「…あっ!」


 優莉は首に掛けていた翻訳魔術書を手に取り、「これ?」というように見せた。













 黄色い人が自分達の話を聞いてくれと懇願してきたので、優莉は4人と共に焚火を囲み話を聞いてあげた。

 この黄色髪の男の人の名前はシフィ。4人の長男のような感じがする。黒髪の女の人はミアー。お姉さんっぽい。灰色の髪の男の子はセーグ。イケメンだ。白い髪の女の子はアルア。ウサギのような大きな獣耳を持っている。


 彼らは普通のヒトでそれぞれ普通に暮らしていたが、ある日突然拉致され、強制的な手術で獣の耳や尻尾を後付けされた。さらに魔術等で既存のヒトの体も強化改造された。言わば"人造獣人"だ。シフィによると、戦争になったどこかの国がヒトの知性と獣の運動能力・特殊能力を併せ持つ戦闘員を生み出すために研究していたらしい。

 研究が実用化される前に敗戦したのか国は崩壊。その混乱に乗じて被験者は皆逃げ出した。シフィとミアーは元々仲が良く、連れの居なかったセーグとアルアを引き連れて一緒に逃げた。


 彼らは脳にも魔術的な処理を受け、戦闘術や改造器官の使い方を書き込まれたと同時に過去の記憶を消されてしまっている。そのため、帰る場所も家族の顔も分からず各地を転々としてきた。

 獣耳や尻尾が人々にバレると好奇の目で見られ、時にはその身を捕えようと追われた。人前ではフードや布で隠すようにしている。また、脳への施術の影響か言葉が上手く発音できなくなっており、服装もあって人々には怪しまれ相手にしてもらえず、街にすら入れてもらえない事もあった。そんな彼らが翻訳魔術書を持つ者や、翻訳魔術が使える魔術師・魔導師と会うのは難しい。



 一通り話を終えたところでシフィが言う。


「いや~でも、話のできるユーリと会えてホント良かった」

「うん、僕もなんか、困ってるみんなの力になれそうでよかったです」

「そんな堅苦しくなくていいよ、ユーリっ」

「あ… うん」

「ねえ、ユーリはどこに住んでるの? 旅の目的は何?」


 ミアーが興味津々に訊いてくる。


「あえ~っと僕は、どこにも住んでないっていうか」

「「?」」

「その… 僕別の世界から飛ばされて来ちゃって、元の世界に帰るために旅をしてるんだ…よね」

「別の世界?」


 シフィとミアーは不思議そうな顔をした。セーグは無表情、アルアは優莉達の話を気にもしてなさそうだ。皆信じてくれないと思った優莉は、自分の事情を話すことをやめた。


「そう! 賢者様に家に帰してもらうために賢者様の山に向かってるの! あと途中で魔導師の人に会えたらいいな~って」

「ああそうなんだ」


「僕達も早く魔導師に会いたいんだ」

「それは… 耳とか取ってもらう為に?」

「……」

「…見せるの?」


 そうミアーが確認すると、ミアーは優莉にシフィの頭部を見せた。


「うわっ…」


 傍から見ても気にならなかったが、頭と獣耳を繋げた部分が炎症を起こしてグロテスクな状態になっていた。

 彼らの体の改造は完璧ではなく、改造された箇所、特に獣体との縫合部分が徐々に悪化していた。研究初期に改造されたシフィは症状が酷く、体力もかなり落ちてきているらしい。他の3人も発声含め、何かしらの問題を抱えていた。



「でもアルアは一番最後に手術されたから体はなんも問題ないよね」

「うん」


 アルアはミアーにそっけなく返す。


「あー……」

「アルアはいつもあんな感じなんだよね…。頭書き変える時に失敗したのかな」


「まあだから、魔導師に会ってユーリの言うように耳や尻尾を取ってもらうとか、どうにかしてもらわないと…」

「そっかー…」


「でも大丈夫だよ! 通訳できる僕に会えたし、近くの国までもうすぐ! きっとすぐ魔導師にも会えて治療してもらえるよ」

「そうだよね! こんな暗い顔してないで元気出さなくちゃ!」


 優莉の励ましにミアーも乗って元気を出す。


 こうして、5人で次の国へ向かうことになった。









 初めて4人と会った時とは一転、空気は明るくなった。川沿いの道を進む。

 シフィは他の3人より物知りなようで、獣を見かけ優莉が興味を示すと詳しく説明してくれる。優莉は、記憶は消されてるけど知識は残ってるんだなと気付いた。またシフィの方も、優莉と会話した時の違和感や知識の抜け落ち具合から、別の世界から来たというのは本当らしいと察していた。


 優莉の裏に居たミアーが地図を覗いてくる。


「ちょちょ何?」

「ん~」


「ここをさ… こうやって行けば近道できそうじゃない?」

「え~…」

「ちょっと見せて」


「僕達は行けるかもしれないけどユーリには厳しいよ」

「えー」


 シフィに戒められたミアーが露骨にがっかりする。ミアーは4人の中で一番活発で、元気と行動力に溢れていた。今のように突発的に何かしようとしたりするが、それが良くも悪くも皆を引っ張る中心的存在だ。


「ユーリがダメじゃしょうがないか」


 他の人がどう思うか気にしていないのか、まれに刺さる言い方をした。




(あれ… まずいぞ5人分も食べる物無い)


(そもそも4人はごはんどうしてきたんだろう)


 暗くなってからの過ごし方を考えていた優莉が気付き、4人に尋ねる。


「そういえばさ、みんなって今まで食べ物ってどうしてたの?」

「食料はその辺で採って…」

「えっ」

「あっ、ユーリがいるから今日は日が暮れる前に狩っておいた方がいいかもね」






「てああああああああああ!!!」


 ミアーが熊?のような獣に追われて林の中を全力疾走していた。草木が生い茂った地面のせいで走りにくいはずなのに、彼女は超人的なスピードを維持している。それを見て優莉は愕然としていた。しかし獣も足が速い。


「いいね? ミアーが通り過ぎたらアルアと一緒にツルを上にずらして奴を引っかけるんだ」

「あ、うん」


 隠れながらシフィが指示する。ツルを渡した2本の木の横で優莉とアルアが待ち構えた。


「いくよ2人とも!!」


 ミアーが木の間を通り過ぎた瞬間、優莉とアルアがツルをずり上げる。獣は張ったツルに引っかかり盛大に転げた。

 すると木の上で待機していたセーグが飛び降り、落下の勢いを使って剣を獣に突き刺した。獣が苦しそうに雄たけびを上げるがまだ大人しくならない。


「アルア! ユーリ! 早く!」

「ツルで奴をぐるぐる巻きにするんだ!」

「うん!」


 乗っかっているセーグに獣が気を取られている間に、ちぎれたツルで優莉とアルアが獣を巻き上げて拘束する。


「くたばれええええ!!!」


 自分の剣を持ってきたミアーが思いっきり獣の首を貫いた。血しぶきが飛ぶ。


「うわぁ…」


 獣は動かなくなり地面に倒れた。









 夕食の準備をしているとあっという間に夜になった。ちょうど石造りの家の跡を見つけたので、そこで火を起こし獣の肉を焼いて食べることにした。優莉の持っていた食料も4人に食べてもらう。



「ねえ… あのさ」

「ん? どうしたの」


 肉にかぶりつくミアーに優莉が訊いた。


「獣をさ… 食べる事に躊躇したりしないの?」

「どうして」

「だってみんな、不本意とはいえ獣と一緒になってるわけでしょ。体の一部じゃん。『食べてごめん』とか思ったりしない?」

「食べないと生きていけないじゃん!」


 ミアーがきっぱり答える。


「べつに僕達は改造に使われた獣にも思い入れは無いよ」

「えぇ…」


 シフィもそう言うので、優莉は自分がおかしな事を訊いたんだなと思った。するとセーグも話しかけてくる。


「ユーリは獣や野草を食べる時に『ごめん』って思うのか」

「いや」

「同族は躊躇しても同族以外には躊躇しないんだな」

「あー……」


 獣人の彼らが獣を食べる事に嫌悪感を覚えたのは、同族以外の動物や植物を食べてもなんとも思わない同族以外への差別心の裏返しだと、遠回しに指摘された。セーグと優莉がまともに話したのはこれが初めてだった。


「これ、ユーリの持ってたやつうまいな」

「あ、そう、よかった」


 指摘に固まる優莉を気遣ってセーグが声を掛ける。優莉は持っていた肉を再び食べ始めた。


 それにしても肉に味気が無い。アミノ酸的な旨味は感じるが、肉だけを主食に食べるには物足りずつらかった。焼き肉のタレの偉大さを優莉は思い知った。



 ふと見ると、他の3人に比べアルアがあまり肉を食べていなかった。食欲には個人差があるだろうが、虚弱なシフィですらガツガツ食べているのに彼女はなかなか食べない。どうやら野草や優莉の持っていた食料は普通に食べているようなので、優莉は自分の分の食料もあげる事にした。


「僕の持ってたやつおいしい?」

「うん」

「僕の分もあげるよ」

「…いいの?」

「いいよ」

「ありがとう」









 皆が寝た後、目覚めた優莉は1人だけ外に出てきていた。川の畔の芝生の上に寝転がり、夜空を仰ぐ。川のせせらぎが心地よく聞こえた。


 空には大きさ、色も様々な星達が無数に広がっていた。この世界の星空はとても綺麗で、元の世界とは比べ物にならないほど明るくはっきり見える。星空の明るさのおかげで、夜中でも周りを見通すことができた。月明りの代わりだ。

 この世界には月が無かった。優莉は、もしかしたらこの世界の地球や宇宙は元の世界と大きく異なる、星だと思っている物も星ではないかもと思った。



 皆の寝ている方から誰かがやってくる音がする。音の鳴り方的に人で間違いなかったが、いちおう獣だった時に備え優莉は身構えた。

 大きな獣耳が見える。やってきたのはアルアだった。






「ねえ」

「ん? どうしたの」

「最初に言ってたよね、『別の世界から来た』って」

「あー…」

「あれ本当…?」


「……信じる?」



「そんな嘘ついても、良い事ないし」


 満天の星の下、膝を抱えて2人が話す。


「ユーリが居た世界ってどんな所だったの」

「そうだね~…」


「まず魔法が無い。魔法も魔術も無い」

「魔法ないの?」

「そう。だからさ、こっちの世界に来た時逆に驚いちゃって~」


 優莉は、真摯に聞いてくれるアルアに元の世界の事をたくさん話した。




「――それで空気が汚れてるせいなのか星なんて全然見えなくて、こっち来て初めて見た時綺麗で感動したよ」

「考える事がたくさんあって大変だね、そっちの世界」

「まあみんな度を越さないようよくやってるよ」


 優莉がアルアの方を見る。


「……何?」

「いや、思ってたより全然喋るじゃんと思って」

「そうかな」

「ミアーがなんか言ってたし、コミュしょ…」

「?」

「その… 改造のせいで喋れなくなっちゃったのかなって」

「ああ」



「あの人達は…… 私と何か違うの」

「何か違う?」

「そう。ちゃんと言葉には表せないけど、あの人達は私と違う。違う生き物なの」

「……」

「だから怖い… 一緒にいるのも。本当は3人と離れたい。でも、1人じゃ生きていけないから、仕方なくついてってる」


「でもユーリはそんな風には感じない。話しかけられても、こうやって隣に居ても怖くない。安心できる」

「そっかぁ…… そうだったんだ」



「別に… 3人とも怖くないよ。シフィは優しいし、ミアーは一緒に居ると楽しいし、セーグはしっかり仕事してかっこいいよ」

「……」

「アルア達4人は、同じ境遇の仲間、家族みたいなものじゃん」

「…家族?」

「え、そうじゃないの? シフィは一番上のお兄ちゃんで、ミアーが姉、セーグとアルアが弟と妹。セーグはシフィとミアーを兄さん姉さんって呼んでたけどなぁ」

「ああ…」



「それに、みんな良い人達だよ。アルアのこと気に掛けてくれてる。それは違わないでしょ?」


「……そうだね」


「心配しないで。大丈夫だよ」

「うん」




「まあでも、急に距離を縮めるのも大変だと思うから、そこは徐々に…だね」

「うん」

「無理はしなくていいけど、何か振られたら反応は返してあげよう? みんなアルアがどう思ってるのか気にしてるから」

「分かった」



 2人は皆を起こさないよう静かに戻って眠りについた。









― 第2話 前編 終わり ―

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